第12話 話を聞こう。君はどうする?
時間軸は過去から現在に帰ってきました
「准尉にそのような過去が……」
シャワーを浴び終えたアルベルは、話を聞くためケビン・ロックス艦長のもとを訪れていた。そこで聞いた話はアルベルにとっては衝撃的な話だった。
「ルーカスとは軍学校で同期でな、大体のことは知っている。死んだ時の事も含めてな」
ロックスは窓の前に立ち、海を眺めながら話していた。
「知っていたなら何故、カーター准尉の入隊を止めなかったのですか?肉親が目の前で死ねば、いくら戦場での経験がある兵士でも、トラウマになることは容易に想像できるでしょう?」
「今の軍の人員不足は貴官もよく知っているだろう?その中で、准尉のような戦場経験者を、軍が手放すと思うかね?」
穏やかに海を眺めるロックスの目が、少々にらみつけるような目に変わる。
「そうですが…、だとしても復帰するまでの期間が短すぎます!」
「それに関しては、准尉の意思だ」
「准尉の意思?」
俄かには信じ難いことを聞いた。目の前で自身の父親が死んでいるのに、カーター准尉は半年もせずに軍に復帰しているのだから。
しかもそれが"強制"ではなく、"志願"して復帰しているのだから尚更だ。
「どの様な目的があってまともに療養をせずに復帰したのかは分からん。彼女も頑なに話そうとしないからな。だが、何かしらの理由があって復帰したのは事実。貴官には迷惑をかけるが、准尉と十分にコミュニケーションを取って対処してくれ。何かあれば私も手助けする」
全て丸投げされるかと思っていたアルベルは安堵した。しかし、厄介な問題を抱えた現状は変わらない。
「分かりました。善処しましょう。では早速准尉を探しに行きますので。失礼します」
立ち上がり部屋から出ようとする。
「え?もう行くのか?コーヒー入れたから、飲んで貰おうと思っていたのだが…」
先程のロックスの睨み付けるような眼光は鳴りを潜めていた。代わりに、まるでワクワクした子供のような目をしたロックスがいた。
アルベルはすっかり忘れていた。ロックスが、部下とのコミュニケーションを異常なほどする少し変わった上官で有名だったことを。
コーヒーに香りが部屋に広がる。
「……いただきます……」
断れず、椅子に再び座り、コーヒーを啜った。
格納庫にて…
格納庫には十数機のXF-38が所狭しと並べられていた。
並べられている機体の先頭には、白鷺をモチーフにし、隊の一番機を表す1の文字が添えられた部隊マークが、垂直尾翼に描かれたアルベルとカーター准尉の機体があった。
その機体のコックピットにカーター准尉が踞るように座っていた。
「中尉に嫌われたかな…。バードストライクにあっただけで、叫んで動けなくなる相棒なんて、嫌がられて当然だよね…。」
「それが君の素の話し方なのだな。カーター准尉」
アルベルが、前側のコックピットに乗り込むために機体に付けられた梯子に乗って、ひょっこりと頭を見せてカーター准尉に話しかけた。
一瞬の沈黙。
瞬時に姿勢を変えて、カーター准尉は逃げようとした。
「させるか!」
「ちょっ……」
アルベルは、すかさず後部キャノピーを閉じ、カーター准尉が逃げるのを阻止した。
「なんのつもりですか!開けてください!」
「そんなに声を荒げるな。人が来るだろう?」
「突然出てきて閉じ込められたら大声ぐらい誰でも出ます!」
「分かった。驚かしてすまなかった。君と話をしに来ただけだから、警戒しないでくれ」
「話……ですか……?」
カーター准尉は大声で話すのを止め、神妙な顔をして座席に座った。それを見てアルベルも座席に座り、前側のキャノピーも閉めた。
「あの、なぜ、キャノピーを……」
なんとなく嫌な予感がする、と言いたげな顔をした。その顔を見ることもなく、アルベルは前を向いてため息を一つ付いた。
「君個人に関する話だからだ。私なりのプライバシーの配慮なのだが……」
個人に関する話、という言葉を聞いた途端、カーター准尉は俯いてしまった。俯いた様子をコックピットに付けられた後方を確認するためのミラーで確認するとアルベルは、やっぱりな、といった表情をした。
それでも、アルベルは話を続けた。
「カーター准尉、君の話はロックス艦長から大体聞いた。目の前で肉親を失った事も、半年もせず復隊した事もな」
「だが、分からないことがいくつかある。なぜ陸軍ではなく海軍だったのか。なぜ半年もせず復隊したのか。なにが君をそうさせているのか。なにか理由があるからなのだろう?」
カーター准尉が暗い表情のまま、少しだけ顔を上げた。そして話し出す。
「……母を……探しているんです」
「母親を?」
ミラー越しに小さくコクリとうなずいた。
「私の母は、海兵隊で部隊長をしていました。しかし、私が幼いころ、軍事演習中の母の部隊が忽然と姿を消したそうです」
「姿を消した……」
アルベルは信じられないという顔をした。カーター准尉の話はまだ続く。
「当時は予定外の嵐に遭遇していた、と聞いています。その為、消息を絶った当時は、捜索が出来ず、今に至るまで部隊の足取りはおろか、痕跡すら見つかっていません。軍は、母らを作戦行動中行方不明として殉職扱いしました。でも父は諦めていなかった」
「諦めていなかった……?」
「父は死に際に、家族の写真。私と父と母が一緒に写った唯一の写真を渡し、こう言いました」
カーター准尉が胸ポケットから写真を取り出し、見つめる。
「母を探せ、あいつは雲の向こうに。と」
「雲……向こう……磁気性積乱雲か!」
カーター准尉はまたコクリとうなずく。
「そうです。父は、母の部隊が磁気性積乱雲でどこかに飛ばされたと考えていたようで……。父が戦死したあとの遺品整理で、陸軍退役願いと海軍兵募集の要項を持っていたことも分かりました。だから、私は復帰のタイミングで海軍へ。父の遺志を継ぐために…」
写真を持った右手をギュッと握り締める。
「なるほど、それで海軍か。確かに、陸軍よりも海軍のほうが磁気性積乱雲の遭遇率も高いし、そのための部隊も設立されているからな。たが、なぜそんなに急ぐ必要がある?十分に心身共に休めてからでも……」
「それでは遅いのです!」
突然声を荒げるカーター准尉。
「……なぜ?」
「中尉は海軍が、一部の兵士募集を打ち切るのをご存知ですか?」
アルベルは不思議に思った。先程ロックスと、軍の人手は足りていないと話したばかりだったからだ。
「不思議そうな顔をしてますね中尉……」
「当たり前だ。人手が足りてない軍が、自ら兵士募集を打ち切るなどあり得ない話だからな」
「打ち切られる一部兵士というのが、航空兵……つまりパイロットなんです」
話を続けるカーター准尉の顔は、俯いたままだ。
「近いうちに海軍パイロットの募集を打ち切る。そうなれば、磁気性積乱雲に最も近づけるチャンスは無くなります……。だから、私は急いで海軍に入りました。結果的に今日に至るまで打ち切られていませんし、時期も今は未定になっていますが……」
ため息が一つ。前席のアルベルから聞こえた。
「……だいたい分かった」
アルベルがミラー越しにカーター准尉をじっと見つめる。
「軍隊では、兵士募集打ち切りの話はともかく、トラウマ云々の話は軍では腐るほど聞く。それぞれ乗り越えた者もいるし、耐えられず軍を去った者もいる。君はまだ軍に残ったが、乗り越えてはいない。残る理由があるのだから、私からは去れとは言えない。そして残ったからには乗り越えなければならない。さて……」
目がスッと細くなり、眉の間にシワが寄る。
「話は聞いた。聞いた上で聞こう。君は、これからどうしたい?」
前回の過去話から帰ってきて現在の話です。
あまりに8月中の移動が多くあまり進められませんでした…。
しかもちょっと進めては中断を繰り返していたため、この話の後半がガタガタに…なっている…気がする。(作者比)
一応通しで呼んでますが、読みにくかったり、おかしかったらゴメンナサイ…。
ちなみに今回補習(解説)はなしです。あればこのあとがきに書きます。次回こそ、あ…る……?
Twitterもやってます、アカウントはハインド@なろう作家挑戦中です。進捗やなんてことはないつぶやきが載っています。よろしければこちらもお暇があればどうぞ。
次回第13話です。




