第11話 トラウマが金切声を上げて殺しに来る その3
残酷な表現注意です。
「クソッタレ!」
「えっ!?なに…きゃあ!」
どうするべきか。それはミサイルの"直撃"を避けること。操縦桿を勢いよく倒し、自動車がサイドターンをしているかのような機動で反転させる。機首が回頭しきる直前、強い衝撃がクロエとルーカスを襲う。
「何!?なに!?ナニ!?今度は何!?」
状況を全く飲み込めていないクロエが叫ぶ。叫びと同時に、ふわりとした落下感衝撃と共に顔を見せた。
「こちらSharkシャーク被弾!機体制御不能!不時着する!レットウェーブ隊は我に構わず前進せよ!」
自ら乗っている機体の制御が出来ないことを周りに伝える。
今の攻撃で尾翼を損傷したのか、機体はグルングルンとプロペラと逆回りに回り始める。
回りながら高度が落ちていく機体。不時着とルーカスは言ったが、実際は不時着ではなく墜落である。
「歯を食いしばってろ軍曹!舌噛むなよ!」
「了解ぃぃぃぃぃ!」
地面が迫ってくる。回りながら落ちる機体は、右に左にバランスを崩されゆりかごのように揺れる。
パンッ、バキバキバキという音を立てて、プロペラが地面に当たり粉砕した。次に地面に当たったのは機体先端部右側。機体が右から激しく地面に叩き付けられる。
一回転、二回転、三回転。転がっては浮き、また地面に叩きつけられまた転がりを繰り返す。
「…っ……ぁっ!」
やっと転がり終わると、機体は森ではなく少し開ひらけた場所に転がり出た。
機体は大破。右のランディングギア(車輪のこと)が折れ、機体が地面に垂直に立っていられない状態だ。
しかしコックピット周辺は何とか形を保っていた。二人は機体の頑丈さに救われたのだった。
「畜生、痛ぇな。ここの形はなんとか保ったか。軍曹、無事か?」
ルーカスがクロエに問いかける。が、反応がない。
「おい、返事をしろ軍曹。軍曹、軍曹!クロエ!」
やはり反応がない。まさかと思い、ルーカスは機体から降り、前席を覗く。
前席のドアガラスはあまりの衝撃に砕けており、破片の一部がクロエに刺さっていた。
そのクロエも激しい衝撃で頭を強く打ったのか、気を失っていた。ガラスが刺さった所から血が、ダラリ、ダラリと垂れ流れている。
「なんてこった…。早く無線で救助要請を…。通信機が壊れてやがる…衝撃でイカレたか。だったら救難信号を…」
操縦席に戻り、救援要請信号を発するボタンに触れようとした時、カチュインッ。という金属音と共に火花が散る。目の前を見るとそこには、重武装した歩兵たちがこちらに向かってくるのが見えた。
「Oh My God……」
敵の歩兵の武装はライフル、マシンガン、金属製の盾らしきもの、ロケットランチャー、携帯式地対空ミサイルまで持っている。しかも全員がSFヒーロー映画に出てくるようなパワードスーツまで着用していた。
「まるで現代の重装歩兵だな…」
対して、ルーカスは、自衛用の口径5.7㎜の拳銃と、同じく自衛用のカービン口径5.56㎜。そして意識の無いけが人である。しかも、今下手にクロエを動かせば二人同時に撃たれかねない。勿論、動かなければ助けが来る前に二人仲良く殺されるのだが。
「ここで親子共々天国へってか?冗談じゃねぇ。しかし、この状況、どうしようかな…ん?パネルが、まだ生きている?」
機体は大破していたが電子機器はかろうじて生きていた事に気が付いた。
そして、数分前のクロエとの会話を思い出す。
(「対地ミサイルが8発中残り3発。ロケット弾が半数、30mm機関砲は全弾入ってます」)
ルーカスがニヤリと笑みを浮かべる。
再び機体から降り、前席へ。割れた窓から左腕だけを火器管制席に入いれ、レバーを握る。少し、レバーを倒すと機体の下部から、ウィンと機銃が動く音がする。
「よし。作動確認。安全装置セーフティ解除これなら何とかやり過ごせるだろう。最悪、クロエだけでも……。来るなら来やがれアンノンウン。蜂の巣にしてやる」
レバーの先端に埋め込まれているボタンに親指をかける。これが30mm機関砲のトリガーである。
「もう少し…もう少し…」
近づかせて、確実に当てるために、焦らず、じっくりと、狙うのではない、当てるために。
「……今だっ!」
ボタンを押し込む。瞬間、敵兵が土埃と血しぶきと共に、バラバラに弾ける。鼓膜が破れるかと思う程の爆音と銃弾の雨が、目の前の敵を消してゆく。
総弾数1200発の弾が、2分近くに渡り一面を蹂躙する。
「………………ッん……」
爆音と細かな衝撃の中で、暗転していたクロエの意識が目覚める。
目覚めと共に身に覚えのない痛みが、クロエを襲う。首、肩、脇腹、太もも。全て右側、ガラスが刺さっていた。そして右側には、30mm機関砲を打ち切ったルーカスが、カービンで応戦していた。
「……お…父さん…?……今…………どうなって…」
目覚めてなお状況が把握できていないクロエ。
「ミサイルを受けて不時着した。周りは敵の歩兵だらけだが、救難信号を出した。もうすぐ救援が来る。それまでの辛抱だ。頭下げて、隠れておけ」
言われるがままに座席に深く座って頭を隠し、体に刺さったガラスを抜き、備え付けのサバイバルキットからガーゼを取り出し、止血に充てる。
「おいおい、奴らどれだけいるんだ?次々と出てくる。弾が持たないそ…」
「そんな…、うわぁっ!」
機体の正面窓キャノピーにヒビが入る。銃弾が当たったようだ。この様子を見て、ルーカスが機体の鼻の部分に立ち、正面窓キャノピーの前に出る。
「このままじゃあジリ貧だ!せめて数を減らしてクロエだけでも!」
弾が敵歩兵の装甲を貫通できないと分かっていても時間を稼ぐために立ち向かう。全てはたった一人の娘のを守るために。
クロエが少しだけ頭を出した。視界の左端に黒いものが二つ映りこむ。その二つの物体は機体に向かって突っ込んできた。
「ぁ…………。」
一つは目の前を通り過ぎ、もう一つは機体の手前に突っ込み爆発した。強い爆発の衝撃を受け、機体がゴロンゴロン勢いよく転がった。既にシートベルトを外していたクロエは勢いよく外へ放り出された。
「キャッ…、いたっ……あぅ!……」
またも全身に衝撃を受け、激痛がクロエの体に走る。
「つっぅ……どこか折れた…………気がする。」
痛みのせいか、それとも折れた骨が肺にでも刺さったのか。クロエは息苦しさを感じた。
放り出され、うつ伏せの状態から動けない体を無理やり動かし周りを見渡す。
すると、乗っていた機体がコックピット周辺だけ残し、無残な姿で転がっていた。先ほどまであの中にいたとは思えないほどに。
「お父さん……は……?」
見渡してもルーカスの姿が見当たらない。どこへ行ったのだろうか。
「まさか…まさか…あの衝撃で森林まで吹き飛ばされた?」
機体の向こう側には森林が広がっている。もしそこまで吹き飛ばされているのだとしたら、今のクロエには探し出すのは困難である。
「探さなきゃ……。探さないと……」
痛みで立ち上がれず、腹をずりながら機体の方へと移動していく。少しずつ、少しずつ機体に近づく。
すると、機体の隅に横たわっている左手が見えた。
「良かっ……た。飛ばされて……ない」
ズリ…、ズリ…と前へ進む。機体に近づいていくクロエ。
「お父さん…、大丈夫?…返事…出来る?」
機体に隠れている父に向かい、呼びかける。返事は帰ってこない。
「返事を…………してよ…。すぐそっちに……行くから…」
やっとの思いで機体までたどり着く。
「やっと着いた…。待ってて、……今…手当…て………………ぇ?」
機体の向こう側から見えていたもの。自分の父がそこにいると思っていた。そう、"思っていた"のだ。
「嘘……だよ、嘘だよ……ね?嘘…………だと…言って……」
機体の向こう側、そこにあったのは、父ではなく、変わり果てた"父の右腕だけ"だった。
呆然としていると視界の端に映る大きな血だまりが少し離れた場所に見えた。その中心にいたのは父であるルーカスであった。
「あ…あぁ………そんな……………なんてことなの………」
あまりの出来事に頭を抱える。
チュンッ、カンッ。機体に銃弾が当たり、金属音があたりにこだまする。その音を聞き、クロエは急いでルーカスのもとへ動く。
「お父さん……今…行くからね……今…」
ルーカスのもとに辿り着き状態を見たクロエは息を飲んだ。右腕が無いだけではない。右足は骨が見えるほど肉を抉られ、左脚も右腕と同じく千切れ飛び、爆発により全身が焼け爛れ血が滴り落ちている。明らかに致命傷、死んでいてもおかしくない状態だった。
「ク…………ロエ。そ……こに…………い………る……」
かすかな呼吸の合間に言葉を絞り出す。
「ここに……ここにいるよ……」
残ったルーカスの左手をギュッとクロエが握る。その眼には涙が溢れる寸前だった。
「すまん……なァ…………なに……も…して……やれ…なくて…」
機体を撃つ銃声を背に、フルフルと頭を振った。
「こ……れを…………」
クロエの手をほどき、ルーカスは血まみれの胸ポケットから、血の付いた写真を取り出した。写真には、若い夫婦が赤ん坊を二人で抱いている写真だった。その写真をクロエに握らせる。
「クロ…エ……。母を…………さが…せ……。あ…いつ…は……雲……の………向こうに………」
「お母さん……。雲の……向こう……」
突然、ドン! という音が背後から聞こえた。思わず振り向くと敵の歩兵が火に包まれていた。直後、けたたましい風切り音が耳を切り裂く。
「援軍…」
上空には戦闘機が物凄い勢いで行ったり来たり、軍のヘリコプター部隊も戦闘機に続いて上空に現れた。
「負傷者2名発見!重症1名、重体1名!これより収容作業へ移る!攻撃隊は援護せよ!敵を近づけるな!」
[了解!全機、全火器の使用を許可する。薙ぎ払え!]
上空の機体の隊員たちが叫ぶ。そして一機がクロエたちの近くに降下してきた。
「やった……援軍だ……お父さん、援軍が…………ぁ…」
クロエがルーカスの方を向くと、ルーカスは既に息をしていなかった。
クロエの瞳から涙がボロボロと零れ落ちた。歯を食いしばり必死に涙をこらえようとした。しかし、一度零れた涙は止まるはずもなく。
ただただ、涙を流し、突きつけられた愛する父の、突然の死を、見ていることしか出来なかった。
どうも皆様。今回はあまりにも長くなったために分割しました。9話の時にも同じことを言っていたので、最終的に3分割です。ややこしくてごめんなさい。
さて、今回はきつめの表現(私基準)が多数です。一応R15指定は避けていますが、もし付けた方がいい、不適切だと感じた場合は感想か、私のTwitterに指摘をお願いします。
今回は特に解説はなしです。次回はあるかも…?
Twitterもやってます、アカウントはハインド@なろう作家挑戦中です。進捗やなんてことはないつぶやきが載っています。よろしければこちらもお暇があればどうぞ。
次回第12話です。




