第10話 トラウマが金切声を上げて殺しに来る その2
「補給はなしってことか…。軍曹、弾薬はどれぐらい残っている?」
「対地ミサイルが8発中残り3発。ロケット弾が半数、30mm機関砲は全弾入ってます」
現状を聞いたルーカスは眉を顰める。
「少々心許ないな。恐らくレットウェーブ隊も同じぐらいだろう。これで合流せよとは、司令部も無茶を言う」
司令部で判断を下した上官に、ふざけるな、補給ぐらいさせろ、と怒鳴り込みたい気持ちをグッと抑え、ルーカスはこれからの戦闘をどうすべきか思案する。
ロックブレイカー隊、ホワイトサンダー隊も壊滅間近。オーストラリア海軍の空母からの増援には、距離的に時間が掛かる。かといってレットウェーブ隊も二人の乗る機体も残弾わずか。上陸部隊も痛手を被り、なおかつ足が遅い。
[こちらレットウェーブ01。我々はSharkに追随する。指揮を執ってくれ]
自らの参戦の判断を嫌ったのか、レットウェーブ隊から指揮を執って欲しいという旨の通信が来た。レットウェーブ隊の隊長は先日少尉に昇進したばかり。通信の声からは隊員を、死に近づけたくないという意思が滲んでいた。
「攻勢が激しいということは、前情報より抵抗するための物資が増えている…。いや、一点に集中配備しているという事か。だとすれば、上陸作戦から守るべきこの場所を放棄したことも、衛生写真時にここにあったはずの対空兵器がここに無いのも合点がいくな」
「では尚更行かなければならないのでは?たかだか数機のロックブレイカー隊と最小限の対人兵装しか積んでいないホワイトサンダー隊では辛いと思います」
クロエが前席からルーカスに話しかける。
大体の状況の把握、友軍からの指揮要請、相棒の遠まわしの催促を受けてなお、ルーカスは踏ん切りが付かなかった。
一方で相棒、クロエは早く行かねばロックブレイカー隊は全滅してしまうと考え、遠まわしに操縦桿を握る父の判断を急かしていた。勿論行かなければ、命令違反、敵前逃亡で軍法会議にかけられる。
「ううん。動かなければどのみちロックブレイカー隊も、ホワイトサンダー隊も全滅か…。……行くしかないな。軍曹、戦闘空域までの最適なルートを出せ」
「現在位置から考えると、島の中心に向かって前進。その後、向きを変え戦闘空域裏側から奇襲をかけるのが最善かと」
「分かった。それで行こう。Sharkよりレットウェーブ隊へ。本機は島内中心へ移動後、戦闘空域裏側へ向かい進行。奇襲行動を取る。周囲を警戒しながら本機に追随せよ!」
[了解]
取るべき行動が決まった。上陸部隊の上をコバンザメのように周りながら待機していた攻撃ヘリたちが、グンッ、と前のめりになり、物凄い勢いで島の中心を目指し始める。
「まもなく中心地です。機首回頭、右76°!」
島の中心地付近に到着した一団は、飛び出した時の勢いそのままに、次々と進行方向を変えていく。勢いを落とさぬように回頭したせいか、勢いの向きを変えきれず、まるでドリフトしているかのように見える。
「全機、高度を落とせ!木の丈ギリギリで飛ぶんだ!」
クロエの後ろでルーカスが吠える。一団は覆い茂る樹木のギリギリまで高度を下げた。
「このまま後ろから敵の対空兵器を叩きます。各機は攻撃準備をしてください」
[了解][了解][了解]
各機が一斉に攻撃体制に入る。攻撃体制が整ったまさにその瞬間。
[前方よりミサイル2!迎撃します!]
横にいたレットウェーブ隊の機体が、ミサイルを補足。即座に自らもミサイルで対応する。
「っつ!なんだ!」
撃墜されたミサイルから、細く白い煙が雨のように降り注ぐ。
「レーダーに障害発生!」
「チャフミサイルか!クソッタレ!目くらましのつも…」
チャフの煙に奪われていた目を前に向ける。そこには火を纏った黒点。対空ミサイルであった。
まだ距離は少しあったが、ミサイルのスピード、自機のスピードから見て、回避できないことは明白であった。
ではどうするべきか。
一つにミサイルを機銃にて撃墜する、もしくは対空ミサイルで撃墜する。もう一つはフレア、チャフを撒き、回避行動を取るのどちらかである。
しかし二人の乗る機体にチャフは載っておらず、フレアは機体の後部から射出するため意味がない。
対空ミサイルも載っておらず、レーダーも錯乱され、しかも前席のクロエは周囲警戒で真正面から近づくミサイルの存在に気付いていなかった。撃墜は確定的。
では、どうするべきか。
どうするべきだったのか。ルーカスは思考を巡らせ、操縦桿を力強く握った。その表情には、一種の"覚悟"が滲み出ていたのだった。




