第13話 祈り
お待たせをいたしました。
「話は聞いた。聞いた上で聞こう。君は、これからどうしたい?」
「わ……私は……。私には……やらねばならない事があります。だから!……」
カーター准尉が感情的になり、声が大きくなる。
コンコンコン。
カーター准尉が次の言葉を発しようとした瞬間、キャノピーの外側からノックされた。二人の体がビクッと跳ね上がる。ノックした人物はレイリー軍曹だった。
「…………………」
アルベルとカーター准尉はしばし沈黙し、キャノピーを開けた。
「えっと……、中尉、准尉、お取込み中に申し訳ありません。ロックス艦長から指令で、御二方にこの機体の試験飛行指令が出ました。このあと10分後に増槽と試験用増設レーダーを装備し、ハワイオアフ島沖20㎞を哨戒せよとのことです」
「今からか?」
思わず聞き返してしまうアルベル。
「今からです。御支度をお願いします」
一言言うと、レイリー軍曹はその場から去って行ってしまった。
「……続きは空の上で話そう」
レイリー軍曹に続き、アルベルもその場を離れる。カーター准尉は二人の背中を見送った後、はぁ、とため息をつき自らも機体を降りた。
しばらくして、フライトスーツ一式を身にまとったアルベルが格納庫に現れた。格納庫内に佇んでいたアルベルの機体は牽引車によって、格納庫から外へ出されていた。外は既に暗く、機体は月の光に照らされ、鈍く光っていた。
「ライセンス良し。装備良し。脱出用装備良し。メット良し」
自身の装備を確認する。問題ないことを確認し、機体に乗り込んでカーター准尉を待とうと機体に乗り込む前の祈りを行う。いつものように機体の前で立ち止まり、右手で左肩、右肩、頭、腹を順に触り、十字を切る。
ガラァン!
何かを落としたような大きな音が背後からした。整備員が工具か何かを落としたのだろう。確認のために後ろを向いた。向いた先にいたのは整備員ではなく、カーター准尉だった。
「あ……うぁ…………」
地面に落ちたメットが転がり、准尉は膝から崩れ落ちた。目には大粒の涙が溜まり、カーター准尉はそれを隠すように顔を手で覆った。
「准尉!」
すぐさまカーター准尉のそばへ寄った。
泣いている。いや、泣かせてしまった。アルベルの頭は、この状況に追い付いていないが、それだけはハッキリと認識した。自分がカーター准尉を泣かせている。
なぜ?
「なぜ……祈るのですか……」
カーター准尉が小さく呟く。とても小さい声だったが、アルベルには、はっきりと聞こえていた。
「祈り?」
「そうです……祈りです……。父も機体に乗る前は、中尉と同じように祈ってました。見えるんですよ……中尉が……。中尉が十字を切る度に!中尉の背中が……父の背中と重なってしまう…………。その度に……父の最後の出撃が……お父さんの死が!頭に過って…………。どうしようも……………………なく……なる…………」
カーター准尉の瞳から、大粒の涙がボロボロと流れ落ちていく。
「なぜ祈るのですか…………。あの日も父は機体に乗る前に十字切ってた……。でも!祈ったって神様は守ってなんかくれなかった!…………なぜですか………。なんで!」
カーター准尉が叫んだ瞬間、アルベルが正面から崩れ落ちていたカーター准尉を抱き締める。
思わずカーター准尉は無言になる。
「それは違うぞ、クロエ……」
アルベルが、カーター准尉の事をクロエと呼んだ。
「あ……名前……」
「十字を切るのは、神様の為じゃない。十字を切るのは確かに祈祷のためだ。……だが、全員が全員神に祈っている訳じゃない」
「じゃあ……何に……」
アルベルが、体をクロエからスッと離し、首元から一つのドッグタグを取り出した。
「これ……は……」
「数年前まで、私の後ろに乗っていた相棒の物だ。訓練中に事故で死なせてしまった。私に責任は無いとされたが、それでも罪の意識は消えない。だから祈る。彼のために。短くとも、相棒だった彼のために……。きっと君の父も、神様ではなく、誰かのために祈っていたんじゃないかな……」
クロエが胸ポケットから血の付いた写真を取り出す。幼い頃のクロエと、若い頃の両親が一緒に写った唯一の写真。その写真にシワが出来るほどに握りしめた。
「きっと……。きっとだけだけど、姿を消した君の母親を諦めていなかったのなら、その無事と、君のことを祈っていたのではないかな……」
あふれ出る涙はとどまることを知らず、瞳から零れ落ち、クロエのフライトスーツを濡らしていった。
「沢山泣け。人の死は簡単に乗り越えられるものじゃない。特に軍人という職種はな……」
格納庫にクロエの泣き声がこだまする。格納庫内の空気が震えるほどに。
ふと、アルベルが半分外に出した機体の方を見た。格納庫の大きな扉の影からレイリ―軍曹が心配そうにこちらの様子をうかがっていた。
恐らく、クロエの大きな泣き声でこちらを見に来たはいいが、介入できる状況では無かったいった所だろうとアルベルは推測した。
アルベルはレイリ―に対し、掌を見せて「5分待ってて」とジェスチャーをした。ジェスチャーが通じたのか、レイリ―は扉の陰から小さく敬礼をして去って行った。
5分ほどが経ち、クロエの様子も落ち着きを見せた。
「落ち着きましたか?」
「はい……ありがとうございました…………」
落ち着いた様子を見て安堵したのか、少し笑みを見せると、アルベルはメットを拾ってクロエに渡す。
「さぁ、行きますよ。遺志を継ぐと決意した以上は前に進み、過去を超えねば。このフライトはその第一歩です」
そういって機体に向かうアルベルの背中が、クロエにはとても大きく見えたのだった。
一か月も空いてしまいました…。それでいて2000文字少々…。ちょっと読みごたえはないかもでした。次回は!次回こそは…っ!頑張りますので…。
では解説です。
今回は話が進むにつれて、いろいろアルベルの口調やらカーター准尉の心理描写などの二人称(?)が「カーター准尉」から「クロエ」になっているなど変わった所があります。これは一応意図的にやっていることで、新しい表現方法がないかと模索した結果です。敬語が突然平語になることによって切迫している様子を。アルベルに対し、一定の親密さになると階級から名前になるなどですね。
今回の解説はこれぐらいですかね。次回は兵器や隊関連になるかと思います。
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次回第14話です。




