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時を超える鳥たち  作者: ハインド
第1章 ハワイ事変編
10/23

第9話 トラウマが金切声を上げて殺しに来る その1

一話にまとめるつもりでしたが、長くなってしまったので二話に分けました。


 21世紀ソロモン諸島奪還作戦…

 磁気性積乱雲から現れた軍事勢力にソロモン諸島を占領され、占領した敵対的軍事勢力を掃討するために行われた戦闘作戦のことを指す。戦闘はおよそ三か月に渡り、国連軍のソロモン諸島奪還にて幕を閉じた。戦闘は敵勢力相当のため、アメリカ陸軍と海兵隊主導の元、近隣諸国によって多国籍軍が組まれ行われた。

 昨今までに行われた戦闘の中で、唯一の磁気性積乱雲から現れた所属不明敵対的軍事勢力との大規模戦闘であり、軍民合わせて50万人弱が犠牲になった。

 戦闘後、国連は調査委員会を設置、及び調査員を派遣。しかし、占領した敵対的軍事勢力の正体は分からずじまいのまま、調査委員会は調査を終了、そして解散。世間では、正体が公表されなかったことから、大国の秘密兵器の実験の失敗を隠すための戦闘だった、過激派宗教組織の暴走、宇宙からの来訪者、と根も葉もない噂が流れ、一時的な世界的混乱も招いた。










 バタバタと、大きな羽音を立てて蒼い海を渡るヘリ部隊。部隊が向かう島からは爆発と銃弾の音が絶えず聞こえてきていた。


「ロックブレイカー隊は、ホワイトサンダー隊を引き連れて島の西側から侵入。降下地点付近の対空兵装無力化してホワイトサンダー隊の降下部隊を(おろ)し、火力支援。レットウェーブ隊は私の隊に付いてこい。北側から上陸する部隊に航空支援を行う!」


[了解] [了解] [了解]


 通信が終わるとヘリ部隊の半数が編隊から離れていく。


「隊長、北側の上陸部隊から暗号化通信。上陸180秒前、防衛兵器、及び敵影確認できず、上空からの偵察を要求されたし。とのことです」


 タンデム操縦席の前側から声が聞こえる。前側、火器管制席にいるのはクロエ。当時19歳、階級は軍曹。


「敵影がない?おかしいな、2日前の衛生写真じゃいくつか対空兵器と、それらしい小屋があったはず…」


 後側、操縦席の男は首をかしげた。彼はルーカス・カーター大尉。クロエの父親であり上官でもある男だ。当時44歳。隊一のベテランで、彼の機体の機首に描かれるシャークマウス、また浅黒の肌、筋肉隆々で身体能力で隊内で勝てる者がいないことから、Shark(シャーク)のTACネームを持ちながら、Jaws(ジョーズ)の愛称で親しまれていた。


「…どう思う、クロエ?」


「そうだなぁ……無難に考えたら今戦闘しているところに移動した、って考える」


 ルーカスがクロエを階級ではなく名前で呼ぶときは、上官と部下の会話ではなく、親子としての会話をする合図である。


「対空兵器はともかく、潜伏するための小屋もか?この島にはいくつか小さな村があったし、そこに持って行って籠城することも考えられるが…。我々の上陸部隊が見えてない訳じゃないし、距離の短い砂浜だから上陸を阻止するには、別に悪い条件ではないはず…?」


「考察は後!取りあえず偵察!上空で機動力が一番高いのはこの機体なんだから、早く!」


 クロエがルーカスを急かせる。ルーカスの機体が編隊から離れ、編隊の前に出る。

 上陸部隊の上陸予定地点に近づく。確かに、周辺に敵影どころか、あったはずの建築物や対空兵器すら見当たらない。


「いませんね。島の中心に引きこもったのでは?北側は多数の上陸部隊、西の港付近にはロックブレイカー隊とホワイトサンダー隊、南側にはオーストラリア海軍の空母、東側には脱出出来るような場所はない上に、島に向かって定期的に艦砲射撃していますし…」


「そのようだな…」


「上陸して大丈夫ではないでしょうか?」


「……うーん。………よし、上陸部隊へ通信!敵影及び対空兵器認められず。予定通り作戦を実行せよ」


「了解。上陸部隊へ、敵影及び対空兵器認められず。予定通り作戦を実行せよ」


 ルーカスに合わせ、クロエが復唱、通信を上陸部隊へ送る。


 上陸部隊が島へ上陸を始める。戦車を乗せた小型の船、水陸両用車、装甲車が歩兵を乗せて砂浜に乗り上げる。


[上陸!戦車隊、前へ!歩兵は警戒しながら微速前進!]


 戦車や装甲車の後ろに隠れていた歩兵が前に出て、銃を構えうつ伏せになる。


[敵影なし!][敵影なし!][敵影なし!]


 歩兵たちの喚呼が通信機器から小さい操縦席に響く。


[敵影なし了解。全体前進!]


 上陸部隊の指揮官が前進を命じた。まず戦車が前に出る。次に装甲車。水陸両用車。歩兵は前方を警戒して戦車や装甲車に隠れて進んだり、戦車の死角を補うように並びながら続く。


「俺らの仕事はなしか?まぁ、無ければ無いに越したことはないが…」


 ルーカスがボヤいた。その瞬間だった。


 ドドンッ…。


 周囲に非常に大きな爆発音が鳴り響く。

 クロエとルーカスはすぐさま下の上陸部隊を見た。見ると一番前にいた戦車が引っ繰り返りながら燃えていた。

 周りにいた歩兵もただでは済まなかった。

 爆風に吹き飛ばされ宙を舞い、爆発に巻き込まれ肢体が千切れ飛び、弾け飛んだ戦車の破片が当たり血がダバダバと大量に流れ、至近距離の激しい爆発で鼓膜が破れ痛みで悶え叫び、変わり果てた隊員を見て動揺し動けず、畏怖を覚える。

 一瞬にして、目の前の南国の島は、地獄へと生まれ変わる。


「な……何が起こったの?」


[なにが起こった!?状況を説明しろ!各隊被害確認!状況報告!衛生兵(メディック)も呼べ!]


 指揮官が通信機越しにギャンギャンと叫ぶ。クロエは一体何が起きたか全く分からない、という顔をした。


「対戦車地雷だ…」


 ルーカスが呟く。呟くと同時に機体を傾け、上陸部隊の上空を旋回しながら周囲の状況を探る。


「地雷?あの爆発が?地雷なんて物の爆発に見えないよ!」


「地面に埋まってた!踏んだ!爆発した!それで十分地雷だ!…クソッ、一体いくつ重ねたらあの威力が出るんだ!通常の威力を遥かに超えてる!」


 一隻のボートが海岸に到着したのが見える。どうやら、衛生兵(メディック)のようだ。大きな荷物を背負った兵士が走って怪我をした兵士の元へ駆けつける。


[大丈夫か!しっかりしろ!]


 衛生兵(メディック)の声が通信機を通じて聞こえてくる。状況が状況なだけに全員必死である。


[今行く!待ってろ!すぐに血をとめぇ……]


 何か柔らかいものが破裂する音と、ガサリというノイズが聞こえた。


「?!」


 衛生兵の一人が突然倒れて動かなくなった。ジワリ、ジワリと、倒れた兵士の周りの砂が赤く染まっていく。


「何!下で何が起きているのよ!」


[おい!どうなって…(カチッ)…何かふん…(ガガガ…ガサッガガガガ)]


 先ほどの衛生兵のように突然倒れこみ、血を噴き出して動かなくなる兵士が続々と出始めた。

 ルーカスはまず、スナイパーの存在を考えた。砂浜から、おおよその敵の潜伏場所までの道中は視界の悪い森である。視界の悪い場所で、相手の兵を効率よく減らすにはスナイパーはうってつけである。つまり、この状況下においてスナイパーが目の前から撃ってきていても、不思議はないのだ。


「スナイパーか?にしては初手攻撃が遅い…」


 初手攻撃が遅い。地雷の効果を最大限に利用するとしても初手攻撃が遅いのだ。戦力を効率よく減らすのであれば、対戦車地雷で相手が固まった所を、確実に撃てる者から撃つ。しかし、今回はそうではない。狙って撃っているというよりも、一定の狭いエリアに来た敵を撃っているだけに見えた。なおかつ、飛んでくる弾丸は連射されている。


「連射、エリア…。……………ブービートラップか!」


「ブービートラップ?」


 ブービートラップ。戦争における戦術の一種で自陣に侵攻する勢力に対し、撤退する部隊やゲリラ組織が残したり、警戒線に張っておく罠のことである。つまりその射線の先には、機械がある。


「そうだ!ここにもう敵兵はいない!俺たちはまんまと騙された!…クソォ…こっちの被害はそれなり、向こうは被害ゼロ…。まずは地雷を撤去する!」


 ルーカスが操縦席で叫ぶ。


「撤去って…どうやって目に見えない地雷を撤去するの!?」


「上陸部隊を波際まで後退させる。最初の地雷爆発地点周辺でラインを設定。レットウェーブ隊と共に、対地ミサイルを主導誘導で爆撃する。カーター軍曹、貴様の腕の見せ所だ。やって見せろ」


 階級で呼ばれ、一気に緊張感が張りつめる。親子の関係から、一軍人として上官から命令を受けたのだから。


「了解!FCS 起動(オープン)、射撃管制、手動固定。発射準備完了。レットウェーブ隊へ火力支援要請。データ送付!」


 ルーカスとクロエを乗せた攻撃ヘリ、AH-64Eは上陸部隊上空でのホバリングから、大きく機体を傾けてその場を離れる。


Shark(シャーク)から展開中の上陸部隊へ。正面の対戦車地雷を一掃する。爆発の飲まれたくなければ波際まで後退せよ!繰り返す、対戦車地雷を一掃する、波際まで後退せよ!」


[了解した。全体波際まで後退!衝撃に備えよ!動けぬ者は背負って貰ってでも後退だ!]


[こちらレットウェーブ01。火力支援要請を受諾。我々はShark(シャーク)に続く]


 上陸部隊がゾロゾロと動く始める。レットウェーブ隊の攻撃ヘリ達がルーカスとクロエの乗るAH-64Eの後ろに続く。


「攻撃を開始する。全機攻撃開始!発射(ファイア)!」


 クロエの掛け声と共に、バシュッ、と小さな音を立ててミサイルが攻撃ヘリのもとを、高速っで離れていく。レットウェーブ隊のミサイルも加わり、雨のように対地ミサイルが、美しかった砂浜に降り注ぐ。上空の攻撃ヘリはミサイルを撃った後、爆発に巻き込まれぬよう離脱行動をする。


[着弾!衝撃備え!]


 着弾。激しい閃光。けたたましい爆音。熱を持った爆風。そして、火柱。


「なんという熱量だ…。あれが地雷とは恐ろしいな…。軍曹、次は上陸部隊正面の森林内にあるトラップの排除だ。旋回して海岸側からロケット弾を撃ち込め!」


「了解」


 クロエのルーカス乗った機体を含め、一時離脱していた複数の攻撃ヘリ達が、横一列に陣形を組んで海側から飛来する。


「全機、正面のトラップにロケット弾をぶち込め!」


「了解!全機攻撃開始!発射(ファイア)!」


[了解、発射(ファイア)]


 通信機からも、攻撃の宣言が聞こえてくる。直後、多くの火の玉が森林に向かって放たれる。

 着弾。放たれた火が森林を燃やす。その中で先ほどに比べると小さいが、爆発が確認できた。恐らくトラップに備えられた弾薬に引火したのだろう。


「トラップは何とかなりそうだ…。だが、上陸部隊はだいぶ損耗した。戦車は一両だけだが、歩兵が2割強損耗している」


「そんな状況で作戦を続けるでしょうか…?」


「どうだろうな…2割強ならまだ…」


 旋回して周囲を警戒していた二人のもとに、通信が届く。


[メーデー!メーデー!メーデー!こちらロックブレイカー04!ロックブレイカー04!敵性軍事勢力の攻勢激しく、部隊の6割を損耗!ホワイトサンダー隊も損耗が激しい!至急救援を乞う!至急救援を乞う!メーデー!メーデー…]


 通信は救援を求める、ロックブレイカー隊の4番機からの悲痛な叫びだった。クロエにとって、トラップでの損耗は、衝撃的で、悪夢のような出来事だったが、悪夢の本番はここから先にあった…。


[こちらHQ、作戦司令部。現在戦闘中もヘリ航空隊、全隊に告げる。]






[至急、島の西側にて交戦中の部隊と合流し、参戦せよ。なお損傷機以外の撤退は認められない。急行せよ]





 無慈悲な通信が悪夢として機内にこだました。



お久しぶりです。遅くなりました…。今回はしっかりとやりたかったので、ゆっくりじっくりやっていました。はい。

さて、今回のお話は、時間軸を遡りまして、過去の話になります。戦闘機メインの話ながら、戦闘機が出て来ないことには謝罪を申し上げます。でもストーリーを進めるためには必要な話なのでご容赦ください…。

では今回もちょこっと解説を。

今回登場したのは攻撃ヘリコプターですね。攻撃ヘリはミサイル、ロケット弾を装備できるヘリコプターのことです。通常のヘリコプターと違って大人数は乗れないのです。アメリカ軍のAH-64 アパッチや、ロシア軍のMi-24 ハインドが有名ですね。まあ、Mi-24はなんでもできる感ありますが…。

隊名に関しては、今回ルールを適応していません。なので適当に、自然のもの+色で付けました。

[]内にある()は通信機から聞こえる音として使用しています。本当は半角カタカナを使いたかったのですが…。使えないんですよねぇ…。システム上の仕様をどうこう言っても仕方なので素直に諦めます。

最後、隊名の後に、隊ではなく数字が入っていることについてです。01だの04だのは、その隊の番機を表していて、01なら1番機。04なら4番機です。

解説は以上…、まだ前回の解説をしていなかったですね。

前回、第8話 シャワー(ルーム)で、日本海上自衛隊第923戦闘飛行中隊所属、スワロー隊、中国海軍第285戦闘飛行隊所属、シィー隊、韓国海軍第38飛行中隊所属、トゥッキィ―隊がでましたね。これらについて解説を。

これらは隊名ルールにのっとり、命名しました。

スワロー隊は、現在は九州地区の特急、昔は東京、大阪を結んだ特急「つばめ」から取っています。

シィー隊は、新潟地区の特急、今は新幹線で使われている「とき」を中国語に直し使いました。

トゥッキィ―隊は、ウサギを韓国語にしたものです。特急でウサギといえば金沢、越後湯沢を結んでいた特急はくたかの車両の愛称、スノーラビットから持ってきました。

こんなところですかね。また解説が必要になればあとがきに書きます。書きすぎてあとがきが本編とか言われそうですが(笑)

Twitterもやってます、アカウントはクラカヂール@なろう作家挑戦中です。進捗やなんてことはないつぶやきが載っています。よろしければこちらもお暇があればどうぞ。

次回第10話です。

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