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復讐の輪廻  作者: 大五郎
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第三章 魔人

主人公は冷酷非情になりました。

王国辺境部にあるアノー城塞都市は魔獣本来の生息圏である魔の森に最も近い位置にある。

城塞都市内にはハンターギルドがあった。

ハンターギルドは魔獣の各種素材の買取りを行い強力な魔獣を屠るだけの力を持った魔獣ハンター達の身分保障や各種特典と引き替えに管理を行う組織である。

城塞都市はハンター達の食料や武器や各種装備を取り扱う商店や宿屋が軒を連ね屋台や食堂もあり歓楽街には酒場や娼館があった。

それらあらゆる需要を満足させる補給基地として又何十年に一度魔の森から大量の魔獣が溢れ出すことがありそれらから人族の領土を守る防波堤として存在していた。

魔獣ハンターの多くは貴族や貴族の従者を務める従士崩れであり貴族一般より魔力がやや劣り貴族社会から弾き出された者達で構成されている。

中には権力争いに敗れた強い魔力を持つ貴族の子弟も交じっているがそれは極少数派であった。

グレンは顔に斜めに走る傷に合わせて包帯を巻き平民並に魔力のオーラを抑え平民の質の悪い服を着て剣は背中の殆ど空の大きなリックに隠し市街に入っていった。

屋台で何の肉かは分からない串焼きを買いハンターギルドの場所や幾つかの話しを聞いて街の様子を観察しながらゆっくりと進んでいった。

屋台で聞いた通りハンターギルドの周辺には平民の男達が屯して座り込んでいる場所があった。

皆薄汚れていたが頑強な身体つきをしていてとても乞食等には見えない。

皆一様にグレンと同じように大きなリックを背負っていた。

グレンはその端の方に移動して同じように座り込む。

待つこと暫しやがてハンターギルドから数人の魔獣ハンター達が出て来た。

ハンター達は屯して座り込んでいる平民達の前に立ち声を張り上げた。

「明日から一週間、魔の森の中域で狩りを行う。飯代はこちら持ち、ポーター代は200リルでどうだ!」

つまり平民のポーター、荷物持ちを募集している訳だ。

しかし安いのか誰も手を挙げるものはいない。

この街の最低の宿は一泊素泊まりで20リルぐらいだそうだ。

「では250リル!」

何人かのポーター達が周りを見渡すが誰も手を挙げようとはしなかった。

「では300リル!」

その声と同時に数人のポーターが手を挙げて立ち上がった。

「三人か」

ハンター達は値踏みするかのように男達を見た。

少し仲間内で相談した後、声を張り上げていたハンターが二人のポーターを指した。

「お前とお前、明日の朝七の刻に南門に集合だ。遅れるなよ」

指名されたポーター達は座り込んでいる他のポーターの輪から抜け去っていく。

これがポーターを雇う手順なのだろう。

グレンはその後も数回ポーター達が雇われていくのを見て雇用条件の大体の傾向を掴んでいった。

「明日から二週間、魔の森の深域で狩りを行う。飯代はこちら持ち、ポーター代は600リルでどうだ!」

新しいハンターの声に誰も手を挙げない。

「700リル!」

・・・。

「800リル」

・・・。

「900リル」

やはり誰も手を挙げない。

中域に比べて深域はよっぽど危険なのだろう。

金額的には中域に比べて破格の値段なっているが誰も手を挙げようとしない。

そんな危険な深域に向かえるだけこのハンター達の実力も高いということなのだろうが。

「1000リル」

「1100リル」

「ええい1200リルでどうだ!」

そこでようやく五人ほどが手を挙げ立ち上がった。

グレンもそれに合わせて手を挙げ立ち上がる。

グレンもこの一年で背が伸び肩幅も増してやや細身ではあるが筋肉もしっかり付き他のポーター達に見た目で劣るものではなくなっていた。

ハンター達が相談に入り声を張り上げていたハンターがポーターの内の四人を指した。

「お前と、お前と、お前、そしてそこのお前、明日七の刻に南門に集合だ。自分の分の食料は買ってきてくれ。その分もう100リル上乗せする」

その四人の内にグレンも選ばれた。

選ばれたポーター達が輪から離れて同じ方向に歩いていった。

おそらく自分達用の食料の買い出しに向かうのだろう。

グレンもその後に続いた。

前を歩くポーターの一人がグレンに気付き声を掛けてきた。

「おいお前、新入りだろ」。

「はい、グレンと言います」

グレンは名乗った。

「俺はボブだ。しかし金に目が眩んだのかもしれんが新入りがいきなり魔の森の深域のポーターに志願するとか命知らずというか物を知らないというべきか、まあ、どちらにせよ深域でのポーターの生還率は低い、生き残りたかったら俺らベテランの指示をよく聞くことだな」

「はい、よろしくお願いします」

グレンは大人しく同意した。

グレンの中に“久我一郎”がいなければ相手の話しを鵜呑みにしたかも知れないが“久我一郎”の部分はその危険性故に平民の犯罪者や食い詰め者が多いポーターの親切心なぞ期待していなかった。

大方雑用を押し付けて便利に使うかもしもの時の捨て石にするか魔の森からの帰還後に騙して報酬を横取りするつもりかそんなところと見ていた。

身体能力が大幅に上がった今のグレンなら少々雑用が増えたところで造作もないし捨て石にされようが自分で身を守れるし報酬の搾取も予想していれば対処は可能だ。

「そうか、そうか、じゃあまずは食料品の仕入れから教えてやる」

「よろしくお願いします」

当面は猫を被って様子見であった。



翌朝、南門ではポーター達が其々の雇主であるハンター達の元に集まっていた。

グレンも他のポーター達と一緒に雇主であるハンター達の前に集まる。

「これが持って行く装備と俺達の食料だ」

ハンター達が荷物の山を示す。

ポーターのボブが分担を仕切り案の定テントや鍋等の調理道具とかの嵩張り重い荷物はグレンに食料等の軽い荷物はその他四人で分割していった。

予想通りだったので顔色も変えず(どのみち顔に巻いた包帯でよく見えないだろうが)荷物をリックの中に入れ背負って軽く立ち上がった。

ニヤニヤしながら見ていた他のポーター達は新入りで荷物を背負い慣れていないと思っていたグレンが重いリックを軽々と背負って立ち上がったのに驚いていた。

ポーター達の思惑はここで新入りが荷物を持ち上げられず困っているところを少し荷物を減らしてポーター達が分担して引き受け恩に着せて扱き使いやすいようにするというものだった。

しかし思惑は見事に外されることになった。



門を離れ小一時間歩くと目の前に魔の森が広がり始めた。

樹木が鬱蒼と生い茂る森の中は薄暗く根元の雑草も日照条件の悪さからか低くまばらに生えているだけだ。

その中の細い獣道を辿るようにグレンを含むハンター達一行は進んでいた。

前方にハンター達三人、中にポーター達、後方にハンター三人の配置で進んでいく。

魔の森の浅い領域では身体強化魔法ぐらいしか使えない鼬型や狼型の小型から中型の大きさの魔獣しか出ず、深域を専門とするハンター達は身体強化魔法だけ使いこれを一閃の元に斬り捨てながら進んでいく。

余りにもあっさりハンター達に斬り捨てられているのでこの辺り魔獣が弱そうに見えるが平民であるポーター達にはグレンを除いて両者の動きはまったく見えていなかった。

グレンはハンター達の動きと魔力の流れを追いながら実戦での剣技や戦闘のセオリーや魔法の使い方などを学習していた。

ハンター達は深域でより多くの獲物を積むため又この辺りの比較的弱い魔獣達の毛皮や牙や爪の価値も低く魔石も期待出来ないので剥ぎ取りも内臓を捌きもせず屠った魔獣をそのまま放置していた。

中域に差し掛かり攻撃魔法を使い離れた位置から攻撃を仕掛ける魔獣が増えてくる。

前方のハンター達は一人が魔法障壁を張りそれを防ぎながら平行して残りの二人が攻撃魔法を使ったり身体強化魔法を使って瞬時に接近してやはりこれらもあっさりと斬り捨てていった。

個々の戦闘時間は短くとも数十回の魔獣の襲撃を捌いているとそれなりの時間が経過し深域の一歩手前の領域に到達する頃には日が沈み掛けていた。

流石に夜ともなれば獣である魔獣の方が夜目は利く。

比較的広い場所でポーター達が野営の準備をすることとなった。

ここでもグレンには新入りの指導という名目で多くの雑用が割り当てられた。

テント設営、夕飯を作るために石を積んで竈の作成、夕飯の素材の下拵えなどどんどん仕事を押し付けられ少しでももたつくと他のポーター達に殴られ蹴られた。

もっとも強靭化したグレンの肉体には身体強化魔法も掛けていない平民の打撃なぞ痛くも痒くもなかったが不審に思われないように殴られたり蹴られたりした瞬間だけはそれらに合わせて仰け反ったり転がったりしてダメージを受けた振りだけはしておいた。

その後けろりとしていたので結局薄気味悪そうに見られたのであるが。

夕飯はまずハンター達の高級食材を使った料理を作りハンター達が食事をしている間にポーター達の安い食材の料理を作って食事をしていった。

ここでもグレンは食事の量を減らされたり最後に回されたりした。

辺境までの旅路で何日も狩りの獲物が取れないこともあり粗食小食に慣れていたグレンは食えるだけマシと思いながら気にしないことにした。

夜半に入りテントの中はハンター達が使いハンター達の内二人が順番に見張りに立ちポーター達はテントの周りでごろ寝となる。

これは見張りのハンター二人で夜襲に対応出来なくなった時のためのハンター達の用心でそんな時にはテント周辺のポーター達が犠牲になっている内に中のハンター達が戦闘準備を整えるということである。

要は囮であった。

この辺りの魔獣であれば熟練のハンター二人でも十分対応出来るので滅多に起きることではないのだが。

グレンは用心のため自分の周囲にハンター達にも気付かれないぐらいの弱くて薄い魔法障壁を広く展開し動的センサーとして使い奇襲に備えつつ眠りに就いた。

辺境までの旅路においても一人で睡眠をとるため魔法障壁を動的センサーとして使いそれをそのまま維持して眠るということを繰り返してきたため問題はなかった。



一夜明け朝食を食べた後は深域に踏み込んでいく。

配置はハンター三人組で前衛後衛に分かれてポーターがその後ろに続くという形に変わった。

これまでのような力押しではなくハンター同士の連係が取れるようにして攻撃力を前方に集中させている。

もし後方から襲撃された場合は最後尾のポーターが犠牲になっている内に対処するということらしい。

結局ポーター達は捨て駒ということだがそれだけ深域の魔獣は強力でハンター達にも余裕がないということでもあった。

やがて深域の魔獣と接敵した。

二足歩行をする熊型の両手に異様に長く鋭い爪を生やした大型の魔獣だ。

その巨体に似合わず俊敏な動きで瞬時に間合いを詰めて両手の爪を振り回してハンター達に襲い掛かってきた。

その素早さは明らかに身体強化魔法を使った動きだ。

ハンター達も前衛が躱したり魔力を纏わせた魔法剣で受けたりしている間に後衛が攻撃魔法を放つが魔獣の魔法障壁に阻まれ逆に攻撃魔法の応射を受けた。

後衛も魔法障壁でそれを凌ぎ魔獣が攻撃魔法を放った一瞬の隙を突いて前衛が身体強化魔法でスピードを上げ魔法剣の一撃を入れた。

「グギャアー!!」

その一撃は胸部を抉り魔獣は痛みに仰け反った。

畳み掛けるように前衛達が次々に刃を振るっていく。

そこからは一方的な展開で受け身のみになった魔獣が地に伏すのにそう時間は掛からなかった。

ここからはポーター達の仕事である。

ハンター達は周囲の警戒に立ちポーター達は剥ぎ取り用ナイフで痛みの少ない部分の毛皮を剥ぎ爪や牙を抜き取り胸部を開いて心臓横にあるはずの魔石を確認した。

幸運なことに本日一匹目の魔獣で魔石が出てきた。

魔石は魔道具や魔法剣等の核として使われておりこれに魔力を通すことで何倍にも魔力の増幅を行うことができ、魔法の持続時間延長や威力が増す効果がある。

増幅効率の良い魔石はより強い魔力を持つ魔獣から取れるため採取が難しくより高価となっていた。

深域でもまだ浅いこの辺りでは攻撃魔法と魔法障壁と身体強化魔法を使いこなせる魔獣であってもまだ比較的魔力の弱い魔獣しか出ず運が悪ければ何匹捌いても1個も魔石が出てこないこともあるので幸先が良かった。

そこから十数回戦闘を続け偶に魔石が出て来ないこともあったがまあまあの成果が出たところで日が傾いて来たので中域まで戻り夜営の設営に入った。

それを十二日繰り返し誰一人欠けることなく予定日には無事街に戻って来ることができた。

深域に挑むハンターのチームでポーターにすら一人の犠牲者が出ないのは珍しいことでありかなりツキに恵まれたといえた。



ハンターギルドで魔獣の魔石を含む各種素材を換金したハンター達から報酬を受け取りグレンは今夜の宿を取るためハンターギルドから宿屋街に向かった。

「よう、グレン」

声を掛けて来たボブを含む三人のポーター仲間がグレンを囲むように寄ってきた。

「このまま帰るなんてつれないじゃないか。一杯飲んで行こうぜ」

グレンを引っ張っていこうとする。

「いえ、今日は疲れていますので宿を取ってゆっくりさせて貰います。飲みにいくのはまた今度にでも・・・」

「何だ、お前、世話になった先輩の言うことが聞けないっていうのか」

狩りの間中いいように使われいびられ続けたことを世話になったといえばこちらが仕返しをしなければならないような意味で世話になったともいえるがここまで厚顔無恥だといっそ笑えてくるグレンであった。

「何ニヤニヤしている、ちょっとこっちに来い!」

嚇し掛けるように凄んでポーター仲間達全員でグレンを掴み路地裏に引っ張っていった。

グレンは容易にそれを払い退けることもできたが敢えて大人しく従った。

「グレンよう、世話になった先輩に付き合えないっていうならこれまでの授業料を払って貰おうじゃないか」

言っていることが無茶苦茶であるが明らかに飲みに連れて行き酔い潰して財布を抜き取る気満々であったのが丸分かりであった。

「授業料ですか、幾らぐらい払えばいいんでしょう」

いくらいびられ扱き使われたといっても狩りに付随する様々な知識をレクチャーして貰ったのも事実なのではした金ぐらいなら払うつもりで一応聞いてみた。

「一人頭400リル、後迷惑料を載せて全部で1300リル払って貰おうじゃないか」

要は食料品代の上乗せ分も含めて全額を寄越せと言っている訳だ。

「お断りします」

グレンは即答した。

「何、逆らってやがる!」

ボブが殴り飛ばした。

グレンは仰向けに後ろに転がった。

他の二人も加わりグレンを蹴りまくった。

「どうだ、払う気になったか」

ボブが再度催促した。

「返事は変わりません。お断りします」

グレンはダメージを感じさせない声で平然と応えた。

「ちッ、じゃあ死ぬか」

ボブが剥ぎ取りナイフを抜いた。

他の二人もそれに続いた。

「まるで追剥ですね。自分の行いが恥ずかしくないのですか?」

「うるせぇー!弱いヤツは強いヤツに踏みつけにされても仕方がねぇんだよ!弱いのが悪いのさ!」

ボブが突き掛かってきた。

グレンは自然な動作でそれに手を掲げた。

「弱いのが悪い、ね。成程」

グレンは二本の指でナイフの刃先を挟み止めていた。

ボブが全力で押そうが引こうがびくともしなかった。

「くッ、このー!おい!お前らもやれ!」

残りの二人が刺そうと突っ込んできた。

“アイスブレッド”

“ウインドカッター”

グレンは発動ワードを念じて2方向に攻撃魔法を並列発動、一人は氷の礫で頭に穴を明けもう一人は目には見えない真空の刃で首筋を切り裂かれた。

二人は声も上げずに即死した。

実はグレンの攻撃魔法の使い方はこの世界の攻撃魔法の常識から逸脱していた。

本来攻撃魔法に使う現象を具象化するためには自分の身を守る本能的な部分に働き掛ける魔法障壁や身体自体を強化する身体強化魔法と違ってそこにないものを実体化させるため強い集中力がいる。

訓練によってその時間の短縮はできるが具現化して使う瞬間にはどうしても大きな隙ができ近接戦闘中には致命的な隙となるため使いどころが難しくなっている。

そして強い集中力がいるために幾ら短縮しようとも連射には一定の間が必要であり並列発動は事実上不可能で違う方向に放つなどは論外であった。

それならば何故グレンに並列発動ができしかも違う方向に撃つことができるのか?

それはグレンの在り様による。

本来のグレンは十四年間単独の意志を持って成長ししっかりとした自我を持っていた。

そんなグレンに後付のように“久我一郎”の記憶と人格が焼き付けられたように顕在化した訳である。

下手をしたらその時点で精神分裂、もっと悪くすれば自我崩壊を起こし発狂してもおかしくなかった。

そうならなかったのは“久我一郎”の部分が目覚めた時、文字通り魂を揺さぶるような強い悲しみに満ちていたためそんなことを考えることさえ出来ず一旦潜在化し、そしてその後は強い怒りと憎しみを共有することによって二つの人格は強く結びつき一部融合し記憶も整理されていったためであった。

そのままならやがて一つの人格として再統合していただろうが復讐の手段を求め魔法の試行錯誤を続ける内に互いの人格部分を使って並列思考を行い同時に攻撃魔法を構築、融合部分を使って同期や連係を取ることができるようになっていったのである。

これまでグレンは攻撃魔法については生活魔法の火種の発展型である炎弾や空気中の水分を集めて作る水弾の並列発動や連射ぐらいしか使えなかったがハンター達の攻撃魔法を見て現象の具象化の方向性を学習したことにより新しい攻撃魔法も使うことができるようになっていた。

しかし攻撃魔法を使えない平民であるボブにはその異常さは分からないし、そんな力を持たないと思っていた相手にいきなり攻撃魔法を使われ混乱している状態では気付きようもなかった。

「ま、魔法だと!」

ボブは慌ててナイフを放すと後退った。

「お前、貴族崩れだったのか!しかし魔力のオーラは平民並じゃないか!」

ボブは死んだ二人の仲間を信じられないと言った感じで見た後、恐怖に引きつった顔でグレンに目を戻した。

「ハンター達も獲物を狙う時には魔力制御で魔力を抑えるだろ。俺はそれを平民並に抑えているだけだ。貴族や従士の常識や一般的な魔法の使い方を知らない俺がいきなりハンターになってあいつらの中に入って行く訳にもいかなかったし第一攻撃魔法等をじっくり観察するのにはポーターの方が都合よかったからな」

グレンはゆっくりと立ち上がるとボブに近づいていった。

「さて、弱いヤツが悪いのだったな。なら俺に殺されても文句はないよな」

無表情に確認する。

「ヒッー!!助けてくれ!命ばかりは!」

ボブは腰が抜けたように尻餅をついて失禁していた。

「ま、暴力的ではあったが色々教えて貰ったのは事実だし見て覚えたハンター達の攻撃魔法の再現実験もできたことだし命を助けてやってもいいが一つ質問に答えて貰おうか。今まで何人同じようにして殺してきた?」

「一人も殺っちゃいねぇよー。出来心だ。ナイフを出したのだって少し傷つければ金を出すと思ったからなんだよう」

「そうか・・・」

グレンはその答えに納得したのかどうか分からない無表情で指に挟んだままだったナイフをボブの前に放り捨てると背中を向けて立ち去ろうとした。

ボブは素早くナイフを拾い上げるとグレンの背中に身体の全体重をかけ突き刺した。

「へッ、油断したな。今まで何人も殺ってるさ、殺そうとした相手の言葉を鵜呑みにするとは甘いぜ!」

「・・・」

グレンは無言のままだが倒れる様子もなかった。

おかしく思いボブは手元を確認した。

ナイフは背中に刺さって・・・いなかった。

ナイフの切っ先は衣服に入り込んでいたがそこで止まっておりどう見ても身体の内部に入っている様子はなかった。

「陸○圓○流、金剛とか。ちょっと厨二病入り過ぎだしこっちの世界では知っているヤツもいないか。実際には身体強化魔法の応用で皮膚を硬質化してみただけなのだが」

グレンは振り返った。

「さて、殺すか」

「ヒッー!!助けてくれ!助けてくれ!俺が悪かった!金輪際しない!だから・・・」

ボブは後退りナイフがカランと地面に落ちた。

“サンダーボルト”

電撃が一瞬にしてボブの身体を黒焦げにした。

路地裏には三つの死体が転がっていた。

グレンは三人の懐から金を全て抜き取りナイフも全て回収すると死体を一ヶ所に集め魔力をしっかり込めた超高温の炎弾を撃ち込み骨まで焼き尽くした。

そこには灰の塊が残るだけだった。

グレンはそれを見下ろしながら初めての殺人なのに罪悪感もなにも感じていないのを確認していた。


それから約一ケ月が経ちグレンは幾度かの深域でのハンター達の狩りにポーターとして参加し情報や経験を蓄積していった。

他のポーター達は最初の狩りに同行したはずのボブ達ポーターが狩りから戻った翌日に行方不明になったのを不審げに見ていたが何を言われても顔色一つ変えずに平然としているグレンを見て有耶無耶の内に沈黙していった。


今日もハンターギルドから出て来たハンターが声を張り上げた。

「明日から三週間、魔の森の深域で狩りを行う。飯代はこちら持ち、ポーター台は2000リルでどうだ!」

深域にしても破格の報酬である。

それには理由があった。

街でもトップクラスのハンターチームであり深域でもより深い領域に踏み込んでいくため危険度がケタ違いに高いのも一つの理由であったが本当の理由はこのハンターのチームの悪辣さにあった。

リーダーのボォルグは上級貴族並の魔力を持ちチーム内の他のハンター達も下級貴族並の魔力を持っていた。

普通そんな魔力を持っていればそのまま実家を継ぐかより強い魔力を持つ兄弟に後継を奪われたとしても魔力に見合った他の貴族に跡継ぎの養子となるか最悪でも従士の家に入ることもできるはずであった。

つまりそれすらも出来ない札付きの悪の集団であったのだ。

ポーター仲間の噂ではリーダーのボォルグは同じ貴族であってもちょっと気にいらないことがあったら殴る蹴るの暴力三昧、挙句に同じくらいの家格の上流貴族の令嬢に暴力を加えた上に強姦したため実家から放逐されたらしい。

それを酒場で武勇伝のように語っていたのだから救いようがない。

チームの他のメンバーも似たり寄ったりの境遇で極めて抑制力が足りない連中であり平民のポーターなど使い捨ての玩具以下の扱いであったためよっぽど高額報酬でなければ応ずるポーターもいない訳である。

「4000リルでどうだ」

あっという間に2倍の値になりやっとちらほらと手が上がり始めた。

しかし人数が足りないのかその後も4500リルまで上がり十名ほどのポーターが雇われることとなった。

その中にはグレンの姿もあった。


次の日、ボォルグのチームの計六人は魔の森の浅い領域からポーターを後ろに配置しどんどん進んでいった。

運良く中域の夜営地までポーターに犠牲が出なかったが運が悪ければここまでで何人かのポーターが命を落としていたかもしれなかった。

夜営に入りボォルグ達の傍若無人振りは続く。

飯が不味いと配膳係のポーターを殴り目の前を横切ったポーターを態度が悪いと蹴り飛ばす。

グレンを除くポーター全員が青痣だらけであったがグレンは同じ殴る蹴るを受けても痣一つ無く平然としていた。

ボォルグ達はポーターのことなど気にも掛けていなかったのでその不自然さに気付きもしなかった。

同じポーター仲間達は気味悪そうに見ていたがこれ幸いとボォルグ達の近くでやる仕事ばかりを押し付けられグレンは暴力を振るわれながらも黙々と仕事をこなしていった。

もしグレンがその役回りを引き受けなかったら暴行の果てにここでも数人のポーターが命を落としていただろう。


翌日深域に入り本格的な狩りが始まった。

流石に札付きの悪とはいえトップクラスのハンターだけあって危なげなく魔獣を屠っていく。

攻撃魔法、魔法障壁、身体強化魔法全てが他のハンター達よりも上のレベルで魔獣が魔法障壁を張ろうが魔力を込めた攻撃魔法の一撃だけでこれを貫き、魔獣からの攻撃魔法も一人の魔法障壁だけで軽々と受け止め、並のハンターでは魔法剣を使っても斬れない魔獣の強靭な爪や牙すら易々と斬り裂き、身体強化魔法では魔獣を陵駕する動きを見せていた。

そしてどんどん深域の奥に進んでいった。

しかし何日も深域で夜営を繰り返しポーター達に魔獣の夜襲で犠牲が出始めた。

夜目が効かないため攻撃魔法が届く距離まで魔獣の接近に気付かないことがありテントの周辺で寝ているポーターに攻撃魔法が届くことがあったのだ。

二週間が経過した今残りのポーターは半数の五人になっていた。

死んだポーターの内一人は先の四人が死んだ後、帰還すべきと三日前にボォルグに掛け合い不興を買って斬られていた。

とはいえボォルグと他のハンター達もいくらポーター達に無理をさせたとしてもこれ以上は魔獣の素材の運搬も不可能になると判断し今日一日狩りをしたら引き上げることに決めた当日にそれは起こった。

その日もいつものようにボォルグ達が魔獣を狩っていると突然森の雰囲気ががらりと変わった。

森中に響いていた魔獣の咆哮や鳥の囁きがピタリと止まったのだ。

静寂で満ちる森の中にそれらは現れた。

見た目はこれまで見たことの無かった人型、数は三体。

だが額に生えた一本角と両手の黒曜石のような指が人外であることを示していた。

身体は毛深く顔は人のそれのように無毛で造形も人そのものであった。

ボォルグ達に緊張が走った。

「魔人の眷属かよ」

ボォルグが呟き他のポーター達の顔が真っ青になった。

魔人、人族の貴族すら陵駕する魔力を持つといわれ魔の森の深域の更に奥地に広がる魔族領に住まう者達で深域から帰ってこなかったハンターチームの何割かはこれに出会い全滅させられたと思われている。

この千年の間幾度となく数千人から数万人規模の騎士団による魔族討伐遠征が繰り返されてきたが何れも騎士団側の壊滅という結果に終わっていた。

魔族は強大な魔力を持つと云われる魔王を頂点としその下に直属の魔将達がおり更にその下に魔人とその配下の眷属と続くピラミッド型の社会構成を持ち魔の森の深域の更に向う側に広大な魔族領を占有している。

そして魔人に従う眷属の魔力は貴族に匹敵し並のハンターでは敵う術も無かった。

しかしボォルグ達も並ではない。

果敢に臨戦態勢に入ろうとしたが眷属達の間から出てきた者の姿を見て動きが止まった。

その姿の特徴は額に生えた一本角と両手の黒曜石のような指までは眷属と同じ、しかしその体躯は一回り大きくしかも鎧を纏っていた。

何より違うのはその魔力の大きさで上級貴族並の魔力を持つボォルグを軽く上回っていた。

ハンター達の間では死神と称される魔人であった。

「くそ、逃げるぞ」

ボォルグ達は身体強化魔法を使い高速で後方に移動していった。

当然、ポーター達は置き去りである。

ポーター達はグレンを残し眷属達に瞬時に引き裂かれた。

グレンは身体強化魔法も使わず眷属の一体の攻撃を飛び退いて躱した。

もっとも相手側もまだ身体強化魔法を使ってはいないようだ。

ボォルグ達が逃げ去った方向から戦闘音が聞こえた。

新たに後方から現れた十体の眷属に囲まれている。

遭遇したハンター達を悉く全滅させているのだから当然そのぐらいの布陣はしているだろう。

グレンは背中のリックから隠していた剣を抜き他の荷物は捨て去った。

三体の眷属達は油断なく三方向から仕掛けてくる。

身体強化魔法を使っているようでスピードは先程の比ではない。

魔人はボォルグ達の方に向かっていった。

“ファイアーボール”

グレンは攻撃魔法の発動ワードを念じ左の眷属に牽制の拳大の炎弾を放ち右後方に下がり樹木の裏に回り込んだ。

そして直ぐに更に後方に飛び退いた。

左側の眷属は炎弾が魔法障壁に当たって弾け視界が塞がったため一旦足を止めたが真ん中の魔族はそのまま樹木を引き裂き一拍遅れたが真っ直ぐ突き進み、右側の眷属は既に掴み掛からん位置に来ていた。

グレンはその眷属に剣を一閃した。

眷属は黒曜石のような指を揃えて剣のように受けようとした。

グレンは打ち合う瞬間、剣に爆発的な魔力を通してその指ごと身体を袈裟斬りに両断した。

「グフッ!!」

その眷属は一言呻き声も漏らし肩口から斜めに身体を両断されて地に転がった。

正面に迫って来た眷属には剣に纏っていた魔力を切り替え並列して具現化の前準備まで整っていた攻撃魔法に注ぎ込みを最大火力で放つ。

“ファイアーボール”

相手の魔力量を上回る白い閃光を放つ炎弾が咄嗟に張られた眷属の魔法障壁を貫通してその頭部を吹き飛ばした。

それを見た残り一体の眷属は瞬時に反転し魔人が向かった方向に逃げ始めた。

グレンは身体強化魔法を身体の限界値近くまで掛け一瞬で追いつき眷属を背中から叩き斬った。

「ギャ!!」

眷属は一言悲鳴を上げ倒れた。

グレンはそのまま魔人の方に向かった。


ボォルグ達の方も既に決着はついていた。

ボォルグを残して他のハンター達は全滅、ボォルグも魔法剣ごと右腕を斬り取られ地に伏して喚いていた。

「止めろ!止めてくれ!頼む!」

十体いた眷属は残り一体までに減り健闘したとはいえるが最後が見苦しい。

眷属は構わず黒曜石のような指を貫き手のように突き込んで止めをさそうとしていた。

“ファイアーボール”

先程と同じ最大火力の炎弾が魔法障壁を貫通、眷属の頭を吹き飛ばした。

グレンはボォルグと魔人の中間位置で一旦足を止め相手を見やる。

その足元にボォルグの右腕と魔法剣が落ちているところを見るとこの魔人が斬り取ったのであろう。

身体強化魔法を掛け一瞬で相手の間合いに入り魔力を纏わせた剣を振った。

魔人は左手全体を黒化させるとグレンの剣を掴み右手をグレンの右肩に伸ばしてきた。

次の瞬間その右手の黒い指先が剣のように伸びた。

グレンは咄嗟に剣を離し後方に逃れた。

剣に拘って一瞬でも手を離すのが遅れていれば腕ごと持っていかれていた。

ボォルグはこれにやられたのだろう。

素手になったグレンに魔人の猛攻が迫った。

伸び縮みする黒い指先が自在にリーチを変化させ素手のグレンを防戦一方に追い込む。

グレンは時に躱し時に手に魔力を纏わせ受け流して凌いでいた。

やがて膠着状態に焦れたのだろう魔人が後ろに飛び退き先端が白い閃光を放つ炎の槍を生み出し撃ち放った。

“ウォーターボール”

グレンは応射するように水弾を放つ。

炎の槍が水弾を撃ち貫いた瞬間激しい爆発が起こり魔人は爆風を魔法障壁で弾いた。

次の瞬間、魔人の胸から魔法剣が生えた。

いつの間にか魔人の後ろに回り込んでいたグレンがボォルグの魔法剣で魔人を刺し貫いていた。

「ゲフッ、まさかこの俺が人族なんぞと一対一で戦って敗れるなど・・・」

魔人はよろよろと力なく前のめりに倒れた。

「人族と同じ言葉が話せたのか・・・」

グレンは荒い息を吐きながら呟いた。

グレンは魔人の炎の槍に水弾をぶつけ水蒸気爆発を起こし目眩ましを掛けた後、身体強化魔法を身体の限界を越えて掛け相手の後ろに回り込みボォルグの魔法剣を拾って魔人の背中に突き込んだのだ。

もちろん限界を越えた超加速でグレンの身体も多大なダメージを受けたが辛うじて動けないほどではない。

一対一に持ち込んだから使えた手で眷属が残っていればかなり不利になっていただろうし魔人を討ち損じていたら致命的だったろう。

「話せるなら魔王について聞きたいことがある」

息を整え問い掛けた。

「貴様らごとき・・・人族の虫けらが・・・魔王様の何を・・・知りたいというのだ」

途切れ途切れに魔人が応えた。

「魔王の魔力はどのくらいだ?」

その問い掛けに魔人が笑い出した。

「グワハハッ、俺を斃したとていい気になるなよ、人間。俺は魔王様の配下である魔将様にも遥かに劣る。俺程度にここまで手古摺る貴様は魔将様にすら絶対に勝てん」

最後の息を吐き出すように魔人は一気に喋り息絶えた。


「おい!そこのお前!俺の傷の手当をしろ!」

ボォルグが尊大に声を掛けてきた。

グレンと魔人の戦闘があまりにも高速で行われていたため何が起こったのか理解できていないようだ。

右腕を斬り取られた痛みで意識が朦朧として幻覚を見たと思っているのかもしれない。

グレンはボォルグに歩み寄った。

「おい早くしろ!死んじまうだろうが!」

「・・・」

ボォルグの状態を確認する。

身体強化魔法の応用で傷口の止血だけは行っているのか思ったより地面に広がる出血の量は少なかった。

「おい!黙ってないで返事をしろ!」

「・・・一つ質問しよう。お前達がさっさと逃げた後、俺を除いて他のポーター達は皆殺しにされたがそれについてはどう思う?」

「平民のクズのことなど知るかよ。早く手当をしろよ!」

「もういい、黙れ」

グレンはボォルグの胸に剣を突き立てた。

「ガッ!何を・・・」

ボォルグは永遠に口を閉ざした。

グレンは魔人、眷属の順に胸を切り開き魔石を回収し心臓を喰らっていった。

著しい魔力の上昇を感じる。

「次は魔将か・・・」

グレンは深域の奥を見やって呟いた。

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