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復讐の輪廻  作者: 大五郎
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第四章 魔将襲来

ファンタジーでは定番の絡みがあります。しかし冷酷非情な主人公は容赦がありません。

辺境の街のトップクラスの魔獣ハンターであるボォルグ達が魔の森の深域の奥に消えてから暫らくしてハンターギルドにグレンという名の若い魔獣ハンターが現れた。

上級貴族を越える魔力、艶やかな光沢を放つ短く切り揃えられた金髪とまだ少年といっていい端正な顔立ちは顔に斜めに走る刀傷さえなければ王族か上級貴族の子弟と言っても通用しそうであった。

ハンターギルドの受付嬢の前の椅子に座ったグレンは用件を述べる。

「グレンと言う。魔石の買取りを頼む」

「グレン様ですね。こちらは初めてでしょうか?」

「そうだ」

「では最初にハンター登録証をお作りします。魔石の買取りは登録証作成後となります」

「分かった」

受付嬢から渡されたギルドの規約書にサインし登録証が素早く作成されグレンは持っていた魔石を受付嬢に渡した。

「鑑定しますのでお待ち下さい」

受付嬢は魔石を魔力効率判定のための魔道具に丁寧に入れていった。

「まあ、これはすごいですね」

最初の一つ目で彼女がこれまで見たことのない高い数値を記録した。

そして、二つ目、三つ目と進みこれもすごいあれもすごいと言っていたが魔石も半分を数える頃には段々と無口になっていき最後の方では完全に黙り込んで黙々と作業を続けていた。

「・・・全部で2百万5千リルとなります」

ハンターギルドに隣接している酒場で耳を澄ましていたハンター達の間に騒めきが走った。

只でさえ注目を集める魔力量の上に優秀なハンターグループの一回の稼ぎの10倍以上の儲けを出しているのだ。

驚かない方がどうかしている。

「一体、どこでこんな高品質の魔石を大量に手に入れられたのですか?しかも中には私が見たこともないような高レベルのものまで入っていますし。他の街の有名なハンターチームに所属されているのでしょうか?」

「魔石は魔の森の深域の奥の方で狩った魔獣から取った。それと俺はどこにも所属していないソロだ」

それを聞いてハンター達の騒めきが一層大きくなった。

『おいおい、深域でソロは自殺行為だろ。ボォルグ達だって帰って来れなかったんだぞ』

『しかもえらく若いぞ。それにソロであの魔力量と顔の刀傷、そんな特徴の凄腕ハンターなんて噂でも聞いたことがない』

『それに見たこともないような高品質の魔石なんてあのボォルグ達ですら随分前に一回だけ数個持って帰ったことがあったがあんな値段になる量を手に入れたハンターの話しなんて聞いたことがない』

ハンター達の話し声を当の本人はスルーして代金を受け取りハンターギルドを出ていこうとした。

「よう、兄ちゃん、えらく稼いだようだが先輩達に挨拶はなしかい。ここにいる全員に1杯ぐらい奢るのが礼儀ってもんだぜ」

五人の男達がそのグレンの前に立ち塞がる。

貴族並の魔力量は持っているようだが素行の悪そうな物腰から人に礼儀を語れるような連中ではなさそうだ。

グレンのことを魔力量は大きくとも経験不足の若僧と嘗めているのだろう。

狩られる魔獣が若僧であろうと手加減する訳もないのだからなんとも目先の利かない脳筋である。

「俺の名前はロブスだ。魔の森から帰って来るのが遅れているようだが辺境中で名の知れ渡っている狂犬のボォルグってヤツを知っているだろう。ソイツとこの街のハンターギルドでトップを争っているハンターチームを率いている」

自分らの実力をアピールしようとしているがそのボォルグ達のチームをほぼ壊滅させた魔人とその眷属達を倒したグレンにとってはどうということもない。

「・・・つまり、魔の森で死んだボォルグ達と同程度の実力ということか」

「なんだと!テメェー!」

ロブスは逆に嘗められたと激昂し腰の魔法剣を引き抜こうとした。

なんとも沸点が低いことである。

しかしその動きは異常に素早く明らかに身体強化魔法を使っていた。

グレンも身体強化魔法を使い相手を上回る速度で懐に飛び込み顔を殴り飛ばした。

少し手加減したのでロブスの頭がトマトのように弾けることもなくギルドの壁を壊して外に転がっていった。

チームの他のメンバーはグレンの動きが全く見えず一瞬茫然としていたが自分らがグレンのスピードについていけない事実に気付き蒼くなっていた。

「お前達、まだやるのか?これ以上やるというなら殺すことになる」

グレンが威圧するように見回す。

グレンの前に立つ残ったハンター達はじりじりと後退って距離を開けた後一斉に身を翻して逃げ出した。

「覚えてやがれー!」

お約束の捨て台詞を残してハンターギルドの外に飛び出していった。

一瞬ハンターギルド内が静寂に包まれるが次の瞬間ロブス達の間抜け振りに酒場のハンター達が爆笑した。

グレンは黙ったまま事もなげにゆっくりとハンターギルドを出ていった。



夜半に入りグレンはこの街で一番いい宿に泊まっていた。

部屋の明かりは消え既に就寝しているようだ。

宿の中も寝静まっていた。

その中で最上階である三階のグレンの部屋に静かに向かう全身黒尽くめの五人の男達がいた。

男達はグレンの部屋の前で足を止め一人が鍵を取り出し鍵穴に差し込んでゆっくりと回す。

扉を音がしないよう静かに開けて部屋の中に侵入する。

窓からの月明かりがカーテン越しに薄らと広い部屋の中を照らし出しており豪華な家具や調度品、奥には天蓋のついた豪勢な寝台がありその上に寝ている人影が見えた。

男達はそれを確認し腰の剣を抜き放つとそっと近づきその人影を一気に貫いた。

「ガハッ・・・」

くぐもった悲鳴が聞こえ血の匂いと赤黒い染みが掛けてあった毛布の上に広がっていく。

「ヘヘヘッ、殺ったぜ。幾ら腕が立つといっても寝ている時は無防備だろ。いい気味だぜ」

そう囁く男の顔には潰された鼻を手当した鼻覆いがついていた。

昼間恥を掻かされたロブスであった。

ロブスの仲間達はあれからグレンの後をつけ宿を確認し従業員に金を渡して手引きさせこうして忍び込んできたのだ。

「おいお前ら、荷物を浚って金を探せ、俺はコイツの馬鹿面を拝んでやるぜ」

カンテラに生活魔法で火を入れ布を被せて光量を落とし覗き込んだ。

しかしそこにあったのはグレンの顔ではなくロブス達を手引きした従業員の顔であった。

「な、なんだと、なんでコイツがここにいる。ヤツはどこにいった」

ロブス達はあわてて辺りを見回した。

そして入り口の扉の前に立つグレンを見つけた。

「どうやら死にたかったようだな」

グレンは無表情に呟く。

「ク、クソ、殺っちまえ、いっぺんに掛かればどうにかなる」

ロブス達が身体強化魔法を掛け斬り掛かってくる。

グレンは敢えて身体強化魔法を掛けず無駄のない動きで髪一重で切っ先を躱し剣を抜き払って一人一人斬り斃していった。

最後はロブス一人になっていた。

「なんで分かった。それに寝台のそいつは俺らが入ってきた時は一階にいたぞ。なんでここにいる」

「お前達のような連中が顔を潰されて報復しない訳はないのでね。屋根の上でお前達がその従業員に手引きされて宿の中に入るのを確認した後、当て身を喰らわせて気絶させ窓からこの部屋に運び込んで寝台に寝かせていた。後は天井に張り付いて待っていたらお前達が忍び込んでそいつを刺殺しただけだ」

騒ぎを聞きつけ確認しにきた扉の外にいる他の従業員や泊まり客達にも聞かせるように淡々と説明した。

「くそー、死ね!」

破れかぶれになってロブスが斬り掛かってきた。

グレンはこれも危なげなく躱し剣を横薙ぎにしてロブスの胴体を斬り裂いた。

「ガフッ」

ロブスは倒れそのまま事切れた。


「まことに申し訳ありません」

事態を目撃した従業員から説明を受けた宿の主人が従業員の不始末についてグレンに平謝りしていた。

豪華さと安全を売りとするこの街一番の宿であればこのような従業員が賊の手引きをした不祥事は信用に関わる大問題であった。

「問題ない。別の部屋を用意してくれ」

グレンが気にした風もなく要望を伝える。

新しい部屋に案内され暫らくして横柄な態度の市街警備の騎士達がやって来てグレンの異常に大きい魔力に多少疑問を覚えつつも軽い聴取を済ませ速やかに出ていった。

魔力が権力と一体化しているこの国において自分より大きな魔力には威圧され苦手意識も働くのだろう。

高級な宿では珍しいが安宿ではこういったことも珍しくなく大概は客の方が殺されて翌日発見されるそうだが形だけの見分と聴取だけして手掛かりも目撃者もおらず犯人に目星がつかなければそのまま有耶無耶になるのが普通のことらしい。

こういう市街警備につく騎士は下級貴族とはいえ貴族であるので貴族崩れとはいえ所詮平民扱いのハンター間の諍いごとはどうでもいいことなのであろう。

今回については襲ってきた賊が客に返り討ちにあっただけなので現場の見分と関係者への軽い聴取だけ済ませたら宿側に死体の処分を任せて早々に引き揚げていった。

翌日にはロブス達の凶行と顛末が知れ渡り以後グレンにちょっかいを掛ける者もいなくなった。



それから半年もせずにグレンの名は辺境中に広まっていった。

まだ年若いのに魔の森の深域にソロで入り大量の高品質の魔石を持ち帰る顔に刀傷がある凄腕ハンターであり街に戻っている時には辺境に出没する盗賊団を一人で片っ端から壊滅させ懸賞金をせしめる最凶の盗賊殺しとして名声を高めていった。

その上級貴族を越える高い魔力から政争に敗れたどこかの国の王族であるとか王族の庶子ではないかとか噂されるが本人の人付き合いが悪く素っ気なく否定するだけなので真偽のほどは誰にも定かではなかった。



グレンはとある魔道具屋に来ていた。

その店は魔石を使った魔道具の武具を取り扱う店でどれも普通のハンターでは手の出ない高額な商品が置かれていた。

「オーダーメイドの武器と防具を頼みたい」

グレンは店員に要望を述べた。

「オーダーメイドだととんでもなく高額になりますがよろしいでしょうか?」

「俺の名はグレンだ。金なら幾ら掛かっても構わない」

「貴方様がかの有名なグレン様でしたか。高い魔力と顔の刀傷、確かに噂の通りで御座いますね」

店員はギルドの身分証明書替わりの登録証も確認すると丁寧に応接室に通し店主を呼びにいった。

それだけ高額な取引になるということである。

すぐに恰幅のいい店主が出てきてにこやかに応対する。

「私が店主で御座います。辺境最強のハンターとして名高いグレン様にお会いできて光栄で御座います。して、どのようなオーダーメイドの魔道具を御希望ですか?」

店主は早速要件に入った。

グレンとしても長々とした社交辞令に付き合いたくはないのでさっさと詳細な仕様だけ伝える。

「それは又変わった御注文ですね。そのような機能は価格が高くなるだけで無用の長物になると思われますが」

「構わない、こちらの注文通りに作ってくれ」

納得のいかなそうな店主に対してグレンは押し通す。

「分かりました。では御値段はこのぐらいで手付は・・・」

グレンは値引き交渉もせず店主の言い値を了承し手付金を払いさっさと店を出ていった。

店主は大商いにほくほくしながら店先まで出てグレンの背中を見送った。



更に半年が過ぎ注文していた魔道具が完成しグレンは魔道具屋で最終調整を行っていた。

漆黒の片刃で反りのない不自然に長い直刀の双剣の其々に高品質の魔石が埋め込まれた魔法剣。

魔力を核である魔石に流すだけで通常の魔法障壁以上の防御力を発揮する白銀の全身鎧。

各種ギミックを組み込んだ籠手やブーツなど上級騎士の装備に劣らない、いやそれ以上に高性能な武具の数々。

グレンはそれらに納得がいくまで微調整を繰り返し身体に馴染ませていった。

朝方から始め夕方まで掛かって調整がやっと終わった時それが起こった。

街中に鳴り響く緊急事態を知らせる半鐘の音。

「魔獣だ!魔獣の群れが魔の森から溢れ街に向かっているぞ!」

「ハンター達は戦闘準備を整え全員ギルド前に至急集合せよ!その他の平民は家屋内に籠っていろ!」

騎士の側使えである従士らしき男達が大声で通達を繰り返しながら通り過ぎていく。

「運用テストもせずにいきなり実戦か・・・」

グレンは一言呟くと残金を払い店を出て行った。

店の店主や従業員達はそのグレンの背中を不安そうに見詰めながら見送った。



夕暮れ迫るハンターギルド前は次々に集まってくるハンター達でごった返していた。

この街にこれほどの数のハンターがいたのかと驚かされるほどの人数でその数は現時点で2千人を越え最終的には3千人に達しそうだ。

『おい、あれ、盗賊殺しのグレンじゃないのか?』

『あの高そうな魔法鎧、やっぱあいつ王族か上級騎士の出じゃないのか?』

『しかし、あの二本の魔法剣、どうやって使うつもりなんだ?魔法剣の二刀流なんて聞いたことがない』

皮鎧だけのハンター達の中、上級騎士に似た出で立ちに周囲の注目が集まるがグレンはスルーしてギルドからの通達を待つ。

「まだ、皆集まっていないようだが取り敢えずギルドからの緊急強制依頼を行う!」

ギルドから出てきた上級騎士並の高い魔力を持った貫録のある初老の男が大声を張り上げた。

『おい、ギルド長だぜ』

『しかも強制依頼だと』

『こりゃいよいよヤバイな』

ハンター達の囁き声があちらこちらで交わされ騒めきが広がる。

「現在アノー城塞都市は魔獣の群れその数二万の大規模襲撃を受けている。これから事態の終息宣言が出るまでギルド規約に基づき諸君らはこの城塞都市の防衛任務についてもらうことになる。なお、今回に限り違約金を払っての拒否は認められない。それでも拒否する者は逃亡と見做して極刑となる」

その通告に周囲の騒めきがいっそう大きくなる。

「既に魔の森の正面に当たる南門周辺の城壁では騎士団が水際で魔獣を食い止めているところだ。ハンターはチームを最小単位として隊を編成し順次他の門から出撃して魔獣の群れの横腹をついてもらう。それとクライン、ジェド、ロイ、セトのチームとグレンはギルド内に来てくれ、話しがある」

いずれもこの街ではトップクラスのハンター達である。

主戦力を抜き去るような行為に周囲のハンター達は戸惑いを隠せない。

しかしグレンはギルド側が精鋭の遊撃隊を組織するつもりであること、そして魔獣の大群に全力で対応しなければならないこの状況で主戦力を抜き去るような真似をするのは事態がより深刻であることを予見しギルド内に向かった。



「このような時に態々来てもらって感謝する。諸君らトップクラスのハンターには悪いが特別編成の遊撃隊を組んでもらう」

ギルドの応接室に通されグレンの予想通りの言葉がギルド長の口から出た。

その横には大きな魔力を放つでっぷり太った中年の上級貴族らしい男がいた。

男の顔は真っ青でいらいらしているのが座っている椅子の肘掛を指で小刻みに叩く様子からも伺えた。

「こちらはゼイラム辺境伯、このアノーを含む辺境全体の領主様だ」

「本当にこのような者達でこの最悪の事態を乗り切れるのか?」

ゼイラム辺境伯はグレン達を見渡しながら不安げに言った。

上に立つ者としては著しく下の者のモチベーションを下げる態度である。

なんらかの思惑があって演技しているのでなければ魔力量だけはある無能な小心者であるとグレンは判断した。

他のハンター達が辺境伯を見る目もグレンと同様の判断をしたことを示していた。

「ゼイラム様、落ち着いてください。この者達はいずれも騎士殿達に劣らぬ手練れでございます」

ギルド長が抑えるように言った。

ゼイラムも不承不承の様子でわかったと頷き先を促す。

「魔獣の大襲来を察知すると同時にギルド内にいた数チームに頼んで偵察に出てもらった。その結果、魔獣の大襲来より更にまずいことが分かった」

ギルド長はゆっくりとハンター達を見回す。

ハンター達もグレンを除いてはごくりと息を飲む。

「魔獣の群れの後方には魔人の眷属が約二千、魔人が数十、そしてその中心には魔人を越える魔力の持ち主、おそらく魔将がいるらしい。魔獣の群れはこの魔族の一軍に押しやられてこちらに来たらしい」

ハンター達は又もグレンを除いて全員青ざめた。

眷属一体が騎士に匹敵する魔力を持ちこの街には五百人程度の騎士しかいない。

単純に4倍の兵力差に更に上級騎士を越える魔力を持つ魔人が数十人とその魔人を越える魔力の持ち主である魔将がいるのであればこの街は滅びたも同然であった。

「そこで諸君ら遊撃隊には他のハンター達が魔獣を殲滅している間に魔族の本隊の後方に回り込んで魔人の眷属達が城壁に接敵したタイミングで強襲を掛け魔将の首を取ってもらいたい。もちろん、今回の強制召集の報奨金の他に特別手当として一人頭百万リルを出すつもりだ」

ギルド長の最後の報奨金の話しに逃げ出したそうな顔をしていたハンター達の目の色が変わった。

ギルド長にしても遊撃隊のハンター達が全滅する可能性が高いと踏んだ上での成功報酬の金額であるのに誰も気付かないようである。

例えハンター達が全滅しても魔将に手傷の一つも負わせて撤退に追い込めれば充分成功といえる作戦である。

なんらかの手を打たないかぎり街が壊滅するのは免れないため仕方のないことではあるのだがグレンを除いては金に目が眩んだようであった。



既に明け方であった。

街の外には魔獣とハンター達の屍が無数に転がり凄惨な戦いの模様を物語っていたが本番はこれからであった。

魔獣より更に強力な魔人の眷属達が参戦し半数まで数を減らしていたハンター達を蹴散らしていく。

一晩中奮戦し疲れきっている上に力が上の眷属相手では一般のハンター達には為す術がなかった。

総崩れとなるが眷属達はハンター達を深追いはせず正面の南門周辺の城壁に取り付いていった。

一蹴りで城壁の上に降り立ち騎士達と戦い始めた。

その様子をグレン達は魔族本隊の後方から眺めながら突入のタイミングを図っていた。

そしてある程度の数の眷属達が城壁に取り付いたタイミングで指揮を任されたグレンが言い放つ。

「俺が道を切り開き魔人と魔将を始末する。お前達は俺に追随し魔将を始末する間だけ魔人の眷属達を抑えておいてくれればいい」

「お、おい」

総員突撃すると思っていた他のハンター達が突然のグレンの先行宣言に戸惑いの声を上げるが駆け出したグレンにつられるように追走していった。

グレンは本陣を守るように立っている眷属達を鎧袖一触で蹴散らしながら道を斬り開いていく。

舞い踊る漆黒の双剣が朝日を受け虹のように煌めく。

その一振り一振りが眷属達の命を散らしていく。

攻撃魔法を使う眷属もいたがその白銀の鎧が全て弾いていった。

そして開いた道に遊撃隊のハンター達が続いていた。

やがて眷属達を抜け魔人と接敵するが同様にこれらを斬り倒していく。

この一年で十人以上の魔人を喰ったグレンにとって既に魔人も敵ではなかった。

瞬く間に数十人の魔人が斬り伏せられていく。

後に残ったのは鎧姿の魔将ただ一人。

頭部の二本角以外は普通の人族の姿で端正な顔立ちの美丈夫であった。

「貴様か、ここ一年魔族領の外縁で狩りに出ていた魔人や眷属達を屠っていた者は」

魔将はグレンの隠している魔力量を越える魔力を放出し周囲を威圧した。

爆発的に膨れ上がった魔力量にグレンの後方で眷属の足止めをしていたハンターも眷属達も一瞬身をすくませ動きが止まった。

グレンも身をすくませたりはしなかったが一旦足を止めた。

魔将は剣をゆっくりと抜き放ちグレンに相対する。

「人間風情が偶々持って生まれた分を越えた魔力を過信し魔将にすら挑むか。思い上がりも甚だしい」

グレンは魔将の口上を無視して双剣で斬り込んでいく。

魔将はそれを剣で軽く受け流す。

魔力で燃え上がるようなオーラを放つその剣はグレンと同じ魔法剣であった。

双剣の手数の多さに任せて連撃を放つが悉くそれを捌かれていった。

魔将はグレンが左右から順次繰り出す斬撃を魔法剣で防ぎ左右同時の斬撃については体を躱して避けていく。

「面妖な剣術だ。魔力を二本の剣に流して我の剣と打ち合えるとは?普通ならその剣ごと断ち切れるはずだが」

魔将は体を躱した時少し距離を取って疑問を呈した。

普通二本の剣に魔力を流した場合、意識が分散されるため魔力が弱まり剣に埋め込まれた魔石の増幅があっても魔力が格下の相手の魔法剣の魔力にすら打ち負ける。

ましてや魔力が上の魔将が相手であれば本来なら一瞬にして剣ごと断ち切られてもおかしくはなかった。

グレンの場合は並列思考によって消耗は激しくなるが通常レベルの魔力量を二本の剣に流し更に魔人の魔石で増幅率を高め辛うじて魔将の魔法剣と同等の威力に無理矢理引き上げているのであった。

当然短期に決着をつけなければグレンの魔力量が先に底をつく。

グレンはブーツの仕掛けを発動した。

足裏に赤熱の魔力光が発生しグレンの身体を普通の跳躍を遥かに越えるスピードで一気に魔将の頭上に押し上げた。

「!!」

身体強化魔法で強化された魔将の動体視力を以てしてもグレンが瞬間移動をしたかのように見えただろう。

グレンは頭部めがけて双剣を振るい、魔将は虚をつかれていたが辛うじてこれを躱す、が角を一本斬り取られた。

「き、貴様!!」

反対側に着地したグレンに怒りに燃えた魔将が厖大な魔力を収束した火柱のような攻撃魔法を放った。

グレンはこれを回避せずそのまま突っ込み鎧の仕掛けた二つの魔石に魔力を注ぎ込み防御力を最大限に引き上げ凌ぎ、双剣を一本に合体させ魔力を魔石による増幅も併せて数倍に上げた大剣で魔法攻撃後大きな隙ができた魔将を横薙ぎにした。

魔将の鎧にも防御魔法があったようだがそれを越える魔力量に打ち負け紙のように引き裂かれた。

その瞬間戦場が静寂に包まれた。

魔人達が瞬く間に討たれ魔将との戦闘が始まった時点で城壁に取り付いていた眷属達は踵を返し本陣に戻ろうとしており、騎士団は追撃の構えを見せ始めた矢先に厖大な魔力を放つ魔将が魔力量から見れば格下と思しき相手にあっさり討たれてしまったのだ。

誰もが茫然としていた。

しかし次の瞬間、眷属達は一斉に魔の森へと撤退を始めた。

魔将を討ったグレンらにもお構いなしである。

眷属達が森の中に消えた後グレンは魔将の上半身が二つに別れた屍に近づき胸部をナイフで開き心臓と魔石を取り出す。

血塗れの魔石を拭う素振りを見せながら心臓を素早く隠しに入れた。

そして右手で魔石を掲げ大きく叫んだ。

「我らの勝ちだ!!」

その声を聞き後方や南門左右に押しやられていたハンター達、城壁の騎士達までもが歓声を上げた。

グレンの右手の魔石が朝日を受け虹色に輝く。

絶望的な戦いの中で死を覚悟していた者達の目にそれは希望の光として焼き付いていった。

「勇者が現れた」

「あれは辺境最強のハンター、グレンだ」

「グレンは勇者だ」

誰とはなしに言葉が漏れていく。

勝利の歓声はいつしかグレンを称える声に変わっていった。

しかし当のグレンは無表情に冷めた目でそれを見ていた。

昨日の強敵は今日の雑魚。

パワーインフレーションは果てしなく。

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