理由さがし
三十分ほど本棚の前で悩んだあと、青地は一冊も本を手に取ることなく、肩を落としてとぼとぼと図書室を後にした。
「あれ……青地くん、今日は読みたい本が無かったのかな」
鳰は首をかしげ、不思議に思った。
かがみは先ほどまで青地が立っていた本棚の前に足を運ぶと、彼と同じように背表紙にそっと指先を滑らせる。
「ううん。彼、今日は借りていたはずの本を返さなかった。昨日まで毎日返していたのに」
「でも、今まではこんなに難しそうな本を毎日何冊も借りてたんでしょ?それはそれで素直に尊敬しちゃうけどなー」
「……ねえ、鳰。もしも『本を読むこと』自体が、彼が図書室で本を借りる目的じゃなかったとしたら?」
鋭い指摘に、鳰の瞳がぱっと歓喜の色に染まる。
「いいね、かがみ!なんかすごく探偵っぽいよ!」
「彼が今まで借りた本の一覧さえ分かれば、何か大きな手がかりが掴めそうだけど……」
「ふふん、かがみがそう言うと思って、もう図書委員の子から聞き出してメモってあるよ!」
鳰は得意げに鼻を鳴らすと、手帳から破り取った小さなメモ用紙をかがみにかざしてみせた。
「……手際が良すぎるでしょ。まあ、助かるけど……」
かがみは呆れつつもメモを受け取り、記載された本の一覧と目の前の本棚を見比べる。一見すると、作家もジャンルもバラバラで、タイトルにも何ひとつ共通点は見当たらない。
「……ううん、多分タイトルやストーリー自体は関係ない。見るべきなのは、背表紙のラベルか文書コードの方」
指先で背表紙の下部に貼られた識別シールをなぞりながら、かがみは呟く。
「990、960……分類記号、一体、何の意味が……?組み合わせる?いや、何か数式を……」
「はい、ストップ」
背伸びをした鳰の手が、かがみの頭をぽんと優しく叩いた。
「うぐっ……でも鳰、もう少しで何か掴めそうで……」
「ダメダメ。かがみ、頭固くなってる。全然わかってないよ」
なんとか数字の法則性を見出そうと脳をフル回転させていたかがみだったが、鳰によって強制的に思考を停止させられた。
「難しく考え過ぎなんだって。多分、もっと単純だよ。例えばさ、借りた順番にタイトルから連想される言葉を繋げていくとか……ほら、ここ見て」
鳰がメモから指し示したのは、ここ数日で青地が借りていた本のタイトルだった。
『I miss you』
『冬を待つ』
二つの題名を並べ、鳰がささやいた言葉。そこから浮き彫りになる意味は――『あなたが恋しい。早く冬が来てほしい』と読み取れる。
かがみは目を見開いた。無機質な文字が並んでいるだけだと思っていた貸出履歴に、生々しい誰かの気持ちが透けて見えた瞬間だった。




