なんでかなって、気になるから
窓の外では雪が再びちらちらと舞い始めていた。
教室全体がストーブでぬくぬくと暖められ、その心地よさと教壇で教科書を読み上げる教師の平坦な声が重なり、大半のクラスメイトがうとうとしていた。
鳰は頬づえをつきながら、そんなクラスメイトたちの表情や姿勢をひとりひとり観察していく。
その中で、一人だけ違和感のある存在がいることに気づいた。
青地旭人。中学から一度もクラス替えがないため見知った顔ではあるが、大人しく控えめな眼鏡の男子生徒で、鳰自身もこれまでまともに会話を交わしたことはなかった。
いつもなら黒板を食い入るように見つめ、熱心にノートを取っている彼が、今日は教員の声など一切耳に入っていないかのように、思い詰めた表情で手元ばかりを凝視している。
――あの子、何を隠してるんだろう。
頭の中で小さなスイッチが入る音がする。鳰の悪い癖が騒ぎ出した。
「青地くん……?珍しいね、鳰が自分から男子の話を聞きたがるなんて」
昼休み、机を寄せ合って弁当を開けながら、鳰は午前中の授業で青地に対して感じた違和感をかがみに打ち明けた。
「だってさ、いつもなら黒板を手が止まる暇もないくらいノートに書き写してるのに、今日はペンすら握ってなかったんだよ?ずっと手元を見つめてさ」
「そんなに気になるなら、本人に『どうしたの?』って聞いてみたら?」
「うーん……でも多分、あの感じだと直接聞いてもはぐらかされて終わりな気がするんだよね」
「……つまり、本人に気づかれないように、何に悩んでるのか裏から探り当てたいわけだ」
「正解!さすがかがみ、私のことわかってる!」
鳰があざとく胸を張ると、かがみは小さく溜め息をつき、鳰の弁当箱からおかずをひとつ奪い取った。
「本当に、そういうところは相変わらずなんだから」
放課後、鳰とかがみは図書室を訪れていた。もちろん、純粋に読書を楽しむためではない。青地が放課後、毎日のように図書室へ立ち寄るという情報を鳰が入手したからだ。
「青地くん、毎日本を二、三冊借りて帰るんだって。しかもね、次の日にはもう全部返却するらしいよ」
「……なんでそんな情報が速攻で手に入るの? 私、ちょっと鳰のことが怖いよ」
かがみは呆れと感心を混ぜあわせ、冗談めかして身を引く仕草をしてみせた。だが鳰はそんな反応などどこ吹く風で、かがみの腕を引くと本棚の影へと身を潜めた。
鳰は持ち前の外面の良さと社交性をフル活用し、クラスメイトや図書委員、果ては司書の先生からまで、探偵ごっこに必要な情報を手際よく聞き出していたのだ。
やがて、図書室のドアが開き、青地が入ってきた。彼は迷うことなく小難しい純文学や海外文学が整然と並ぶ書棚の区画へと向かう。指先で背表紙をゆっくりとなぞり、手を額に添えて、酷く眉間を寄せて悩み始めた。




