冬が来た
舞い散る雪が、街の輪郭をうっすらと白く染めていた。
急に訪れた本格的な冬に、人々は慌ただしく厚手のコートやマフラーへと装いを変えていく。
その日、道が凍っていては自転車は危ないという理由で、永原鳰は珍しく電車で登校することにした。
電車を降り、階段を登って改札を抜けると、正面の壁際に白い息を吐きながら待っている親友の十二里かがみを見つけた。
鳰はスマートフォンを注視している彼女へ足音を殺してそっと近づくと、かじかんだ両手を伸ばした。
「えいっ!」
氷のように冷えた手のひらを、かがみの柔らかい両頬へ突然ピタッと押し当てる。
「ひゃあ!?」
朝の駅の構内に、かがみの情けない悲鳴が響き渡る。飛び上がって肩をすくめるその姿があまりにも面白くて、鳰は笑うのを我慢できなかった。
鳰の不意打ちで散々な目に遭わされたかがみは、学校までの道でしばらくムスッとしていた。
当の鳰はそんな親友の様子などどこ吹く風で、昨夜SNSに届いた出来事を語り続けている。
友達の友達だという見ず知らずの男子から突然ダイレクトメッセージで告白されたこと。そのあまりの軽薄さに腹が立ち、相手の男子に長文でお説教をかましてやったこと。愚痴とも自慢ともネタとも取れない、とりとめのない調子で話し続けた。
「で、付き合うつもりは最初から無かったわけ?」
「当たり前じゃん。だって、私にはかがみがいるし」
鳰があざとく首をかしげ、かがみの右腕にぎゅっと抱きつく。
かがみは顔を背けつつも満更でもなさそうな笑みを浮かべ、いつの間にかすっかり機嫌を直していた。
教室に入ると、急な冬の訪れに苦しめられた生徒たちの姿が、あちこちに目についた。
道の真ん中で足を滑らせて腰を強打したらしく悶絶している男子や、霜焼けで赤くなった手足をストーブにかざして暖をとる女子たち。突然の初雪に喜んでばかりもいられないのが現実だった。
かがみと鳰の二人は、彼ら先人が歩いて踏み固めてくれたルートを冷静に選んで歩いたため、そうした災難を見事に回避することができた。
「ねえ、知ってる?日本の積雪量の歴代一位って、実は滋賀県の伊吹山なんだよ」
席に着くなり、かがみは特に必要もない豆知識を誇らしげに鳰に披露してみせた。
「えーっ!すごーい、かがみってほんと物知りだね」
鳰は目を輝かせて大袈裟に感嘆してみせた直後、少し背伸びをしてかがみの耳元にそっと唇を寄せた。
「……そういう『私、とっても物知りなんです』っていうアピールは、減点だかんね?」
「っ、いいじゃん別に!」
かがみは少しいじけたように顔を赤くし、鳰の肩へ抗議の肘打ちを軽くお見舞いした。




