第32話 ニックの不思議な夢
謎の金属を調べ終えた日の夜のこと、ニックは不思議な夢を見た。
『私を調べようとした愚か者はお前か?』
「だ、誰?!」
不思議な声が響き渡り、ニックは叫んでしまう。
『どこを見ている。私ならここにいるぞ』
きょろきょろと辺りを見回していたニックだったが、声は意外と近いところから聞こえてきていた。
「これは、調べていた金属?」
ニックの目の前に、不思議な金属の塊が浮いていた。
『その通りだ。今、私の中にある魔素の力を使って話し掛けている。しばらく一緒にいたので調べさせてもらったが、どうも私と波長が近いようだな』
「金属が喋れるなんて、夢ですよね。うん、そうに決まっている」
ニックは現実逃避を始める。
『その通りだ。これは夢で間違いない』
ところが、金属はそれを肯定してきたのでニックは困惑してしまう。
『夢の中だからこそ、私はお前に話し掛けられているというものだ。そして、今から話す内容を心して聞くように』
金属が真面目な口調でいうものだから、ニックも応えるべく表情を引き締めていた。
『君は外にあまり出回らなかったために魔素の影響が小さかったようだ。そのために、他の連中に能力が芽生えた今も何の能力も目覚めなかった』
「……なるほど。やはり、航宙船の外に出るというのがひとつのポイントだったんですね」
『その通りだ』
金属の話す内容に、ニックの理解は早かった。
『君はまったく外に出なかったが、私に触れるという機会が訪れた。私は成分分析で分かったと思うが、魔素の量が多い。徐々にその条件を満たしつつあるというわけだ』
「ふむふむ、なるほど……」
ニックはあごに手を添えて何度も頷いている。
『私は何度となく呼び掛けていたが、ようやく声が届いた。目が覚めれば、君にふさわしい能力が目覚めていることだろう』
「それを今知ることはできますか?」
『私が教えるまでもない。君の頭の中にはすでにその能力に関する知識があるはずだからね』
「そうですか。ならば、起きた時の楽しみに取っておきます」
『うむ、それがいい』
結局、夢の中ではニックが手に入れた能力を知ることはできなかった。
『その能力が君たちの役に立つことを切に願っているよ。私の主の二の舞になってくれるなよ……』
「ちょっと待って下さい。主の二の舞って何の……!」
最後の最後に気になる言葉が出てきたので、慌てて聞き出そうとするニックだったが、その意識はそれよりも早く覚えろげになっていく。
もう目を覚ますんだ。
そう思ったニックの意識は、一度消え去ってしまった。
「はっ!」
ニックはベッドで目を覚ます。
隣のベッドでは、レンクスがうるさいいびきをかきながら、まだ夢心地である。
「……僕の持つ、特殊な能力ですか」
ぽつりと呟くニックは、自分の手をじっと見ている。
「この力なら、きっと僕もみんなの役に立てるんでしょうね」
ぎゅっと拳を握りしめ、ニックは外へと視線を向ける。
今日もいい天気で、探索にはもってこいの天気のようだった。
そこでニックは、朝食の席でみんなに一つお願いをすることに決めた。
「すまない、みんな」
「どうしたんだよ、ニック」
「なんでもいいので、金属を見つけたら持って帰ってきてほしいんです」
突然のニックのお願いに、アーツたちは顔を見合わせている。
しかし、ニックの表情は真剣そのものだ。これには全員首を縦に振るしかなかった。
「分かった。なんに使うか知らないが、拾ってくればいいんだな」
「はい。僕に戦う力はないですから、みんなにお願いする形になって悪いとは思います」
「心配するなよ。俺たちは幼馴染みなんだ。そのくらいの望みなら聞いてやるよ」
「そうそう、ニックには留守を預かってもらっているしね」
「ノワールとヴェールに聞いて、見つけたら拾ってもらうようにするわね」
「みんなありがとう」
お願いを聞き入れてくれたことに、ニックは素直に頭を下げていた。
朝食を終えると、今日も四人は探索に向けて出かけていった。残っていてもやることがないし、ニックの頼みごとがあるのでみんなで出て行った方がいいと判断したのだ。
一人残ったニックは、分析を終えた金属をじっと見つめている。
「夢の中で話し掛けてきたのは君ですよね? 今は喋ることはできるのですか?」
じっと見つめる金属だが、まったく何の反応もない。
ニックは金属を手に取ると、掲げて覗き込んでいる。だが、見た目にはなんの変哲もない金属だ。
「やっぱり、現実ではただの金属ですか。しかし、僕に本当にそんな能力があるのですかね……」
ニックには、夢の中で金属が言っていた通り、とある能力が目覚めていた。しかし、その能力を発揮させるための何かが足りないらしく、その力はまだ日の目を見ないでいた。
焦るニックではあるものの、みんなが帰ってくるまでは何もすることができなかった。
「仕方ないですね。汚れたものをきれいにする溶かしておきますか……」
分析対象もない現状では、片付けや掃除などの簡単な作業をすることはなかった。
今日もニックはもどかしい気持ちを抱えながら、一人で航宙船でみんなの帰りを待つのだった。




