第31話 一謎、一解明
「今戻ったぜ」
「お帰り、アーツ。ブランにけがはさせてないわよね?」
航宙船に戻るなり、アーツはクロノに詰め寄られていた。
そこへブランが元気な姿をひょっこり見せると、アーツを押しのけてブランに駆け寄っていた。
「無事だったのね、ブラン。心配したんだから」
「あ、うん。恐竜とは遭遇しなかったし、何も危険なことはなかったわよ」
強く抱きしめられているせいか、ブランはちょっと戸惑い気味である。
「ったー……。突き飛ばしておいて俺には何にもなしかよ」
想いきり壁にぶつかってしまったせいか、アーツは少し痛がっているようだった。
ところが、クロノはブランを心配するばかりで、アーツにはこれっぽっちも気にかけやしない。
「おう、アーツ。戻ったのか」
「ああ、見ての通りピンピンしてるぜ」
適当に体を動かして無事をアピールしている。
アーツの変な動きに、レンクスはつい笑ってしまう。
「そうだ。恐竜の件はどうなった?」
どうにか笑いを堪えたレンクスは、アーツに首尾のほどを尋ねる。
するとどうしたことか、アーツは渋い顔をしてすっかり黙り込んでしまった。
「ニックも集めてくれ。報告したいことがあるんだ」
「分かった。それじゃ食堂がいいか?」
「ああ、そうしてくれ」
レンクスは走ってニックを呼びに行く。その間に、アーツはクロノとブランにも声をかけて食堂へと集合した。
ノワールとヴェールの二匹にも同席してもらい、食堂に全員が集まる。
その雰囲気はどことなく重苦しく、誰もひと言も喋ることはなかった。
「それじゃ、今日の報告をさせてもらう」
アーツが立ち上がって宣言を行う。全員がこくりと頷き、報告が始まった。
「ニック以外は知ってる話だが、昨日現地の恐竜を倒した。今日はその亡骸を味方にできないかと確認に行ったんだ」
アーツが話を進めているが、しんと静まり返っていて、場の空気がかなり重たい。そのくらいに、今回のことはみんな関心があるのだ。
「それで、ノワールとヴェールの背に乗って、昨日のポイントに到着したのだが、そこで俺とブランを待っていたのは信じられない光景だったんだ」
「その光景というのは?」
唯一現場を見ていないニックが、興味津々に食いついている。
レンクスとクロノも気になっているのか、アーツの顔をまじまじと見つめている。
「実は、俺が倒したはずの恐竜の姿が、影も形もなくなっていたんだ」
「マジかよ!」
「本当なの、それ?」
アーツの証言に、レンクスもクロノも大声で叫んでいた。
「どういうことかな、説明して下さい」
ニックは一人冷静に更なる説明を求めている。
アーツはそれに応じて、説明を加えていく。
「なるほど……。しっぽを切り落とし、頭を撃ち抜かれたはずの恐竜が、跡形もなく消え去っていたと……。そういうことですね?」
「そういうことだ」
アーツがこくりと頷くと、ニックは考え込み始めた。
「確かに妙ですね。一日で腐ることなんてないですし、食べ尽くされたとしても骨くらいは残ります。再び動き出したとしても、しっぽが閃光剣で斬られた以上、接着は不可能……。何とも奇妙な話です」
「だろ?」
ニックはあっさりと状況を理解していた。まるでその現場を見たかのようだ。
「可能性としては恐竜たちの吐く火で焼き尽くされた可能性ですが、その場合でも地面に焼けた跡が残りますからね。それもなかったのですよね」
「ああ、どこにもなかった。嘘だというくらいきれいな地面だったぜ。周りの木にも燃えた形跡はなかったしな」
ニックはさらに考え込むものの、さっぱり分からないとあっさりと考えることを放棄していた。ニックの頭脳でもダメだったようだ。
「ああ、でも、アーツが持ち帰ってくれた組織細胞から面白いことが分かりましたよ」
「おっ、それは何だ?」
アーツの報告が終わったので、今度はニックから報告が始まる。
「完全に恐竜でしたね。データが示すものは」
「やっぱりそうか」
ニックの第一声に、アーツはどこか喜んでいる。
「ただ、僕たちの持つデータは骨格データだけです。細胞から培養シミュレータにかけてみた結果が、アロサウルスに酷似しているという判定でしたね」
「マジか……。じゃあ、ここは古代の地球に似たどこかってわけか?」
「他の植物や、そこのノワールたちを見てみても、そう判断するのが筋でしょうね」
ニックの出した結論に、アーツたちは唸っている。
「培養シミュレータに結果によれば、見慣れない不明な内臓器官が一つ見つかりましたから、おそらくそこが火を吐くための器官なのでしょう」
「そんなことまで調べられたのか。この航宙船、意外と高性能だな……」
親に買ってもらったとはいえ、あまりの性能にアーツは驚きを隠せなかった。
これだけのことが行えているのだから、ニックが言っていた故障がないという言葉も信じられてしまうというもの。
「ねえ、ニック」
「何でしょうか、ブラン」
「ノワールが発見した、あの金属の正体は分かったの?」
話がひと区切りついたとみて、ブランがもうひとつの疑問をぶつけていた。
ところが、これにはニックは首を横に振るばかり。どうやら、まだ分からないらしい。
「金属の成分自体はほぼ分かっているんですよ。正体不明の要素、おそらく魔素でしょうが、それが入っているだけで正確な分析ができないんですよ。生物では分かったというのに、金属だとエラーを吐くんです」
珍しく声を荒げるニック。結果が分からなかったのが相当悔しいようだった。
今回の調査で、恐竜のおおよその正体はつかめたものの、謎も同じように増えてしまっていた。
できることとできないことの境界もあやふやなままだ。
この生活が一体いつまで続くのか。アーツたちの中には少しずつ苛立ちが募り続けているのである。




