第30話 倒れた恐竜を探して
計画は持ち上がったものの、レンクスとクロノは参加を拒否してきた。
それというのも、怖い目に遭うのはしばらく勘弁してほしいとのことだった。
ニックの行っている分析のこともあるので、アーツは二人の言い分をあっさりと認めていた。
「それじゃ、俺とブランで行ってくるからな」
「ああ、気を付けて行ってこいよ」
「ブラン、本当に大丈夫?」
「怖いけれど、私にしかできないことだから。アーツの能力もあるから、きっと大丈夫だと思いたいわ」
クロノに声をかけられたブランは、眉をひそめながら笑顔で答えていた。
あまりにも困った様子だっただけに、クロノはアーツの顔をじっと睨みつける。
「ブランを危険な目に遭わせないでよ?」
「もちろんだ。ようやく俺も力の使い方が分かってきたからな。必ず守ってやるぜ」
出どころ不明の自信を見せつけるアーツだが、クロノたちからしたら不安しかなかった。
少々ばかり不穏な空気に放っていたものの、アーツは予定通り昨日の現場へと向けて出発していった。
「本当に大丈夫かしらね」
「……信じるしかねえさ。ノワールとヴェールもいるし、あの二匹ならアーツよりは頭よさそうだからな」
アーツはブランのしもべとなった虫たちよりも信用されていないようである。
しかし、今となってはアーツたちを信じるしかない。
二人は分析に熱中しているニックともども、アーツとブランが無事に戻ってくることを祈ることしかできなかった。
お昼過ぎだった。
アーツたちは昨日の森までやって来ていた。
「ひでぇな、この森の状況は……」
「こんな攻撃食らったら、私たちはひとたまりもないわね」
恐竜のしっぽによってなぎ倒された木がそこら中に転がっている。
何百本という木が、巨大なしっぽの一撃によって無残な姿をさらしているのである。
さて、アーツたちは目的である恐竜の死骸を探しに来たのだが、驚いたことに昨日倒したはずの恐竜の姿がもうすでになかったのだ。骨すらも残っていないとはどういうことなのだろうか。
「嘘だろ……?」
「これだけ木が倒れているから、ここで間違いないはずなんだけど……。一日で跡形もなくなくなるなんてあるのかしら」
アーツもブランも信じられない状況を目の当たりにして、目を逸らせずにいた。
『ありえない話だ。我のような者がいたとしても、骨まで片付けるなんていうのは不可能だ』
『俺にも無理だな。骨は堅くて食えない』
ノワールとヴェールに聞いてみても、そんな答えが返ってくるだけだった。やっぱり骨は無理らしい。
だが、せっかくここまで来たのだ。何か痕跡はないか、周囲に恐竜たちがいないか警戒しながら調べてみることにする。
恐竜が倒れていた場所まで移動したアーツたちは、ノワールとヴェールから降りてじっくりと地面を見て回る。
しっかりと調べて回った結果、恐竜が倒れていた場所は、その衝撃から地面が凹んでいることが確認できた。周りから最大で十数センチほど凹んでいる。
「ここに恐竜が倒れていたことは間違いないな」
「でも、アーツが確かに頭を撃ち抜いて倒したのよね?」
「ああ、普通なら死んでいるはず。だから、余計この状況が不可解なんだ」
アーツはあごを抱えている。
「ノワールやヴェールみたいに生き返ったってことは考えられない?」
ブランは自分の能力を例に出してみるが、これにはアーツが首を横に振って否定する。
「いや、ありえないだろう。理由としては、俺がしっぽを切り落としていることだ。それこそ、クロノみたいな治癒能力でもないことには説明がつかない。大体、閃光剣で斬られたところはくっつくわけがないんだしな」
「そっか……」
アーツに自分の意見を否定されて、ブランは落ち込んでしまっていた。
「しょうがない。ないものはどうしようもないから、もう少しだけ調べて戻るとしようか」
「うん、そうだね」
このまま恐竜がいなくなっていたという情報だけ持って帰るのも癪だったようで、アーツとブランは、恐竜が倒れていた場所をもう一度詳しく見てみることにする。
ところが、恐ろしいまでに何もない状態になっていた。
凹んだ地面と倒れた木々だけが、そこに巨大な生物がいたことを物語っているのだ。
結局収穫なしかと思われた瞬間だった。
「アーツ、こっち!」
ブランが何かを見つけたらしい。
「どうした、ブラン」
アーツが駆け寄って地面を見てみると、何かが落ちているようだった。
地面の色と混ざってよく目を凝らさないと見つけられないくらいだった。
『さすがは主。我らでも見つけられぬものをよく見つけたものです』
ノワールに褒められて、ブランは照れているようだった。
「なんだろうかな。チップのようにも見えるが……。とりあえず拾って帰るか」
アーツは壊さないように慎重に拾い上げて回収する。
「何も手掛かりなしかと思ったが、これでも来たかいがあったものだな」
「そうだね。恐竜が跡形もなくなっていたのは驚いたけれど、何事もなくてよかったわ」
ブランはほっと安堵のため息をついていた。
「いや、航宙船に戻るまで油断は禁物だ。ノワール、ヴェール、航宙船まで頼んだぜ」
『承知した』
ノワールたちは二人が乗りやすいように身をかがめる。
背中に乗ったことを確認すると、立ち上がって航宙船へと向かって走り出した。
「そういや、虫ってかがめないはずだよな?」
「構造的に無理だと思うわ。でも、この子たちはしゃがんでるわよね」
「分かんねえことだらけだよなぁ、ここって」
ふと思ってしまったノワールたちの何気ない行動の謎。
この世界の謎に首を傾げながらも、アーツたちは無事に航宙船まで戻ることができたのだった。




