第29話 手探りの中の妙案
結局、ニックから二日間のことを根掘り葉掘りと聞かれたアーツたちは、ここまでの長い冒険のせいですっかり疲れ果てていた。
この状況ににこやかにしているのは、いろんな話を聞くことができたニックくらいだろう。
「取っ手の壊れた金属のふたかぁ……。おそらく、なんらかの地下設備の出入口でしょうね、考えられるのは」
「やっぱ、ニックもそう思うか?」
最初の段階で見つけた奇妙な金属のふた。現場にいなかったニックも、アーツたちと同じ結論を導き出していた。
「そう思う根拠は?」
気になったアーツが、ニックに理由を尋ねてみる。
すると、ニックは先日手渡された金属の塊を取り出していた。
「それ、分析にかけてたんじゃなかったのかよ」
「分析自体は終わっていますよ。ただ、詳細の解明ができなかっただけですからね」
アーツが確認するように尋ねれば、ニックはすました顔で答えを返している。
どうやら、アーツの購入した航宙船では分析ができなかったらしい。
ただ、一種類の金属ではなく、何種類もの金属を混ぜ込んだ合金であるということまでは突き止めた。
「残念なんだけど、それ以上の結果は出せなかったです。おそらくこれも魔素という物質の影響と考えられます。まったく、悔しいかぎりですよ」
「お前でも分からねえってことは、相当なんだな」
「はい。ところで、アーツ」
「なんだ、ニック」
突然名前を呼ぶので、アーツは何事かと返事をする。
「恐竜の細胞と血液を入手したと言っていましたね。今から解析にかけますので、渡してもらえますか?」
「ああ。悪い、これだ」
ニックが恐竜の細胞と血液を要求してきたので、アーツは服から取り出してニックへと渡す。
「ありがとうございます。それでは、僕は早速解析を行います」
アーツから受け取ると、ニックはすぐさま分析室へと向かっていってしまった。
「……あの様子じゃ、しばらくは出てこねえぞ?」
にやけた表情を見せたニックの姿に、アーツはやれやれと本気で思ったのだった。
ニックとの話が終わったアーツは、ひとまず昨日今日とでかなり泥だらけになったとあって、さっさとお風呂に入ることにしたのだった。
お風呂から出たアーツが操舵室にやって来ると、みんながそこに集まっていた。
「なんだ、お前たち、ここにいたのか」
アーツが声をかけると、全員が一斉に顔を向けていた。
「アーツ、やっとお風呂から出てきたのね」
「ああ、悪いな。泥だらけになったし、あの恐竜を倒した時にいろいろと土埃もかぶっちまったから、徹底的に洗い落としてたんだ」
がさつのように見えて、結構きれい好きなアーツなのである。
「それにしても、なんなんだ、こんなところに集まってさ」
てっきり個別の部屋で休んでいると思ったのだが、食堂ではなく操舵室に集まっていたのだ。なんとも不思議な話である。
「ねえ、私たちって、いつ元の世界に帰れると思う?」
突然クロノがアーツに問いかける。
不意の質問だけに、アーツは戸惑った表情を見せている。
なぜなら、これにはっきりと答えられる人物は誰もいないからだ。
ついでに言えば、アーツたち誰もが思っていることである。
しかし、このほぼ一か月の間、何のヒントすらつかめずにいる。みんな、クロノと同じように焦っているのである
「そのヒントを探るために、俺たちは調査をしてるんじゃねえか」
「まったくだ。愚問というものだぞクロノ。焦るのはよく分かるが、何も分からない間はうかつに動けないというものだぞ」
アーツとレンクスが落ち着かせようとするものの、クロノは落ち着く様子がない。
思った以上に長期化していることで、不安が大きくなりすぎているようなのだ。
このままではヒステリックを起こして暴れかねない。そう思われた時だった。
『心配するな。我らも協力する。いずれ元の世界に戻れるようにな』
『まったくだ。俺たちもついているのだから、少しは落ち着け』
ノワールとヴェールの二匹が、クロノにそっと寄り添ったのだった。
「ノワール、ヴェール……」
ブランの通訳を通じて聞いた二匹の心の内に、クロノはすっかり落ち着きを取り戻したのである。
「とりあえず、最終目標は元の世界の帰還だが、その前に一つずつ問題を潰していかねえとな」
「まったくですよ」
「ニック!」
分析装置に恐竜のサンプルをセットしてきたニックが操舵室にやって来た。
「うるさいから、どこにいるのかよく分かりますね」
ニックが苦笑いをすれば、一番の原因であるクロノが恥ずかしそうにしている。
「クロノの気持ちはよく分かりますが、航宙船の飛行機能、通信機能、音声機能がダメになっている状況では、元の世界に帰るなんていうのは夢のまた夢です。原因を解明して復旧させなければいけませんから、この世界の調査がまずは大事ですよ」
「そうね。……一人で焦りすぎちゃったわね」
周りからの声で、クロノはすっかり元の落ち着いた雰囲気に戻ったようだ。
「そうなれば、昨日見つけたあの場所が怪しいわね。あの金属のふた、どうすれば開けられるのかしら」
「それがわかりゃ苦労しないぜ」
「俺の怪力で開けられれば良かったんだが、ふたの引っ掛かりがないから無理だったな」
「それに、今戻っても恐竜がたくさんいそうだし、近付くのも無理かもしれないわね」
「……しばらくはニックの分析待ちだな」
せっかくのヒントも、今は使える状況ではなさそうだった。
「そういえば、ブラン」
「なによ、アーツ」
「俺が倒したあの恐竜、お前の能力で味方にできないかな?」
アーツの言葉で、場に緊張が走る。
火を噴く恐竜を仲間にする。
その発想に、場はしんと静まり返ったのだった。




