第28話 勝者の帰還
「勝ったぞーっ!!」
アーツの雄たけびがこだまする。
「嘘……。あのでかい恐竜を倒しちゃった」
「すごいわ、アーツ」
ブランもクロノもただ呆然とその姿を眺めている。
だが、いつまでもそうのんびりとはしていられない。
「おい、今の音に気が付いて駆け寄ってくるかもしれねえ。さっさと逃げるぞ、アーツ」
「ぐっ……、そうだな」
レンクスの呼び掛けに、アーツは我に返る。
「ノワール、ヴェール、俺たちを乗せたら全速力で航宙船に戻ってくれ。これを持って帰るだけの余裕がないからよ」
「分かっただって」
ブランを通じて意思疎通をすると、アーツたちはノワールとヴェールの背中に急いで飛び乗る。
乗った時にヴェールが露骨に嫌な顔をしたが、今は非常事態だ。倒した恐竜をそのままに帰ろうとする。
「……いや、ちょっと待て」
いざ走り出そうとしたところでアーツが止める。
「しっぱの先っぽだけでも持って帰ろう。これくらいならかさばらないし、血も少しばかり採取してっと……」
「急げよ。足音が聞こえ始めてるからよ」
レンクスが急かす中、アーツはしっぽの一部と血液を採取すると、ヴェールの背中に乗る。
「よし、いいぜ。全力で離れるぞ!」
『言われなくとも!』
ズシンズシンという実に重たそうな音が響き渡る中、アーツたちは一目散にその場から逃げ帰った。
航宙船に戻ると、アーツが操作をしてハッチを開く。
何度となく後ろを振り返りながら戻ってきたが、恐竜たちが追跡してくるようなことはなかった。
「なんとか戻ってこれたな」
「まったくだぜ。まさか立ち向かうとは思ってもなかったから、あの瞬間だけは生きた心地がしなかったぞ」
「私もよ……」
「本当、無茶苦茶するわよね、アーツって」
一人だけ爽やかにほっとしているアーツだが、残りの三人からはすごく冷ややかな目を向けられている。そのくらい無茶をしたのだから、こんな風にみられるもの無理はない。
ハッチが開き切るまでの間、アーツは三人と二匹からすごく冷ややかな視線を浴びせられ続けていた。
「ま、まったくなんなんだよ。あの時はしょうがねえだろ。最低限追い返すでもしないと、俺たちは全滅してたかもしれないんだぜ?」
「くっ、そこを突かれるとまぁ、そうなんだがな……」
実際にかなり危なかったのは事実なのだ。
なにせ相手は火を噴く化け物である。あのまま森にいたら、一瞬で炎に巻かれていた可能性だってある。
結果論ではあるものの、アーツが相手をして撃退したために、こうやって全員無事に航宙船まで戻ってこれたのだった。
「あっ!」
ハッチが開き切る寸前、クロノが何かに気が付いて声を上げている。
「どうしたの、クロノ」
ブランが気になって声をかけるが、クロノはそのままアーツに向かって歩いていく。
「ここ、ケガしてるわ。ちょっとじっとしてて」
「あれ、本当だ。どこでケガしたんだろうな」
指摘されたアーツは首を捻っている。ケガをした覚えがまったくないようだ。
「まったく、無茶をするからよ」
クロノは文句を言いながらも、ケガの上に手をかざして能力を使う。
ほんのりと光を放ちながら、アーツのケガが治っていく。前回もだが、実に不思議な現象である。
「おおっ、すっかり治ったぜ。サンキューな、クロノ」
「こ、これくらい仲間なら当然でしょ。そこまではしゃがないでよね、アーツ」
真っ白な歯をむき出しにして笑うアーツに対して、どことなく嫌そうな表情をしながら言葉を返すクロノ。
レンクスもブランも、その様子を微笑ましそうに眺めていた。
「ああ、ようやく戻ってきたんだ。早く入ってくれよ。外の空気があまり吸いたくないんだ」
「おお、悪いな。すぐ入るぜ」
ハッチが完全に開いていたようで、中からニックの苦情が聞こえてきた。
昨日の朝以来となるニックの姿に、アーツたちは笑いながら航宙船の中へと入っていった。
中に入ると、アーツたちは早速外での成果をニックに話す。
「なんだって、恐竜に勝っただって?!」
「でかい声を出すなよ、ニック」
恐竜を倒したという事実に、ニックは驚きを隠さなかった。アーツたちにしてみれば、ニックの大声なんていつぞやぶりだろうか。
「周囲に他の連中がいたんでな。細胞と血液をちょびっとだけ持って帰ってきた。早速分析にかけてもらいたいんだけど、いいかな」
アーツがサンプルを渡すと、ニックは怪しく笑いながら受け取っていた。
「よかった。僕だけ仲間外れになるかと思いましたよ。いいでしょう、この天才ニックが、すべてを解き明かしてみせましょう。はっはっはっはっ!」
「……気でも触れたか?」
「一人だけ留守番になってやけになってるんだわ、きっと」
あまりに様子のおかしいニックに、みんな揃ってこの言い分である。
「別にいいですよ。先日の金属の分析がまだ終わりませんし、やることを持て余していたところですからね」
サンプルを大事に抱えながら、ニックは憎まれ口を叩いている。
「それよりも、もっと面白い話はないんですかね。この二日間で見たことを全部話して下さいよ」
ニックがあまりにもせがむので、アーツたちは今回の探索の成果のすべてをニックと共有するのだった。




