第25話 横穴の中で
アーツたちは初めての航宙船の外での夜を過ごしている。
「う……ん」
慣れない環境のせいか、アーツは寝付けなかったようだ。
夜中に目をうっかりと覚ましてしまう。
「今は……いつだ……」
寝ぼけた意識のせいで、現在の正確な時間がまったく分からない。ただ分かるのは、辺りが真っ暗というだけだ。
「えっと、明かり明かり……」
すっかり寝ぼけてしまっているアーツは、航宙船の中だと思っているのか手を伸ばして何かを探している。
明かりとか言っているので、おそらくは照明のスイッチか何かだろう。
だが、ここは探索の途中で見つけた横穴の中。そんなものがあるわけもないのである。
アーツの手は虚しく空を切るばかり。
「明るくできないのなら、仕方がない。……寝よう」
むにゃむにゃと言いながらそのまま横になっていた。
その様子を見張りをしながらノワールとヴェールが目撃していた。
二匹はお互いの顔を見ながら何かを話し合っている。
結局、一度背に乗せたことのあるヴェールが向かい、体の上からずれ落ちた大きな葉っぱをアーツに掛け直していた。
『まったく、世話のかかる連中だ』
『だが、主に仕える眷属となった以上、主を悲しませるわけにはいくまい』
『……まあ、そうだな。弱っちそうな連中だが、退屈はしなさそうだしな』
『そうですとも。弱っちいのは事実ですが、私たちに一度は勝っている方々というのもまた事実。大切にしてあげましょう』
すやすやと眠るアーツたちに一度視線を向けたノワールたちは、再び外へと警戒を向けるのだった。
翌朝目を覚ましたアーツたちは、食事もそこそこに探索を再開する。
昨日見つけた金属の板の正体は結局分からなかったものの、恐竜時代とは似ても似つかぬ何かがいる可能性が浮上してきた。
アーツたちは更なる調査のために、航宙船から少しずつ遠く離れた場所を目指していく。
同時に、虫や恐竜たちも警戒をしている。
ノワールやヴェールたちには勝てたとはいえ、まだまだアーツたちには不安があるのだ。
「やっぱり、この岩肌だよな。俺たちが休んだ横穴も、なんだか違った雰囲気を持った場所だったからな」
「そういえばそうよね。入口付近はあんなに狭い感じだったのに、中は広くて地面はほとんど平坦……。自然にできたとは言いづらいわ」
「言われてみればそうだわ。夜は暗くて分かりにくかったし、朝も慌てていたから気が付かなかったわね」
ブランとクロノもよく見ているようだ。
「そういえばそうだな。アーツ、帰りがけにもう一度見てみるか」
「分かった、そうしよう。明るい時間帯なら何か新しい発見があるかもしれないしな」
ただ、気が付いたのがずいぶんと横穴から離れてからだったので、やむなく帰り道に寄り道をすることになってしまった。
話もほどほどに、周辺を見回しながら進んでいったアーツたちだったが、岩山は途中で途切れてしまっていた。
何かないかと凝視していたのに、何も発見できなかった。
「しょうがない。ひと晩は帰らないとしか言ってないから、航宙船へ向けて戻ることにするか」
「ああ、そうしよう。ニックのやつを一人にしておいて本当に大丈夫かっていう心配もあるしな」
「それは確かにそうだわ……」
クロノに続いて、ブランもこくこくと激しく首を縦に振っていた。
ニックはひとつのことに集中すると、一気に周りはおろか自分自身のことまでもが見えなくなってしまう。なので、念入りに確認していったとはいえ、本当に食事をしたり睡眠をしたりしているのかが心配になってきてしまうのだ。
航宙船に向けて引き返す道中、ちょうどひと晩を明かした横穴のところまで戻ってきた。
「よし、休憩を兼ねてここで調査をするぞ」
「おう!」
「分かったわ」
「了解」
アーツが宣言をすると、他の三人は元気よく返事をしている。
改めて中に入ると、地面は確かに多少の凹凸こそあれ、ほとんどきれいに整地されていることがよく分かる。
多少ガタガタなのは、整地されてから時間が経過しているのだろう。
横穴の入口は狭いとはいえ、地面にはしっかり下端が到達している。そのため、雨が降れば雨水が流れ込んできてしまう。そのことによって多少のでこぼこが地面にできていると思われるのだ。
それを加味しても、ここだけがかなりほぼ平坦とあって、アーツたちに強い違和感をもたらしている。
「絶対ここ、何かあるよな」
「あるよな?」
「期待はするのはいいけれど、落ち着いて話をしてちょうだい」
「あっ、はい」
クロノに呆れられながら叱られると、アーツとレンクスは黙り込んでしまった。
しばらく調べてみたアーツたちだが、違和感を感じたというのに、何も見つけることができなかった。
「くそう、怪しいと思ったんだがなぁ……」
「探し方が悪かったのかしらね」
結果、収穫はなしとあって、アーツたちはがっくりしてしまう。
やむなく航宙船を目指して戻ろうとした時だった。
『主たち、外は危険だ』
ノワールとヴェールの二匹が俺たちの前に立ちふさがる。
「一体どうしたんだ」
『理由は分からねえが、トカゲどもがうようよ集まってきてやがる』
「なんだと!?」
ブランによる通訳で、外に敵の気配を感じたようなのだ。
『外に出ると、間違いなく奴らに吹き飛ばされちまう。まだきょろきょろしているところを見ると、俺たちにはまだ気が付いていないようだぜ』
ノワールの見立てによれば、外には恐竜が集まってきているが、アーツたちにはまだ気が付いていないらしい。
だが、姿を発見させれば、間違いなく一斉に襲い掛かってくるのは容易に想像できる状況だった。
完全に横穴の中に閉じ込められてしまったアーツたち。
この絶体絶命的な状況を、どうやれば乗り越えられるのだろうか。




