第23話 それぞれのやること
朝食を食べれば、今日も調査のために出かけることにする。
「よし、今日はさっきの変な金属のあったあたりの近くを調べてみるか」
「本気か? あそこには巨大トカゲがいたんだぞ? また大ケガするつもりかよ」
アーツの意見に、レンクスが正面からぶつかる。
だが、アーツにもアーツの考えあってのことだった。
「そこなんだよ。だからこそ、あそこを調べるんだ」
アーツの意見に、レンクスたちが首を捻っている。
「ノワールたちが言っていただろう。あのトカゲどもは単独行動をする。ということはあまり近くで行動することはないってことだ」
「ああ、そうなるよな」
「だがな、よく思い出してみろ。俺が奴と戦って気絶した時、直前に別の個体がいただろう。色が違うから、別の個体で間違いない」
「た、確かに……」
アーツに言われて、レンクスたちは思い出していた。
あの日目撃した一匹目は緑色の強い個体で、アーツにけがを負わせたやつは赤みがかっていた。つまり、まるで違う個体だということだ。
単独行動が基本のトカゲどもがそんな近い距離に二体も存在するだろうか。アーツはそう言いたいのだ。
「となれば、考えられるのは、あの近くに重要な何かがあるってことだ。守りを固める時ってのは兵士を増やすからな」
「た、確かに……」
これにはレンクスも納得する。二人とも学習プログラムの中に戦闘についての情報もあったからだ。
だが、次の瞬間、レンクスは別のことにも気が付いたようだ。
「そう考えるなら、他にもああいう連中がいる可能性があるってことじゃないか。とても大丈夫とは思えないんだが……」
そう、ここでレンクスが危惧したことは、他にもあのバカでっかいトカゲが隠れている可能性だった。
あの二体だけで済むわけがないというわけだ。
それでもアーツは笑っている。
「数がいればいるほど、あのあたりは重要な情報がある可能性が高い。いいじゃねえか。前日やられたことをやり返してやろうじゃねえかよ」
レンクスの心配をよそに、アーツはやる気十分のようだった。
「本当に行くのね、アーツ」
ちょうどアーツとレンクスのやり取りが落ち着いたところに、他の三人がやって来た。
先日大ケガをしたポイントまで行くと言って聞かないアーツのことに驚くかと思われたが、声をかけえてきたブランは意外と落ち着いていた。
「ああ。あの謎の物体が落ちていたことが気になるしな。ニック、あれの調査は進んでるのか?」
話を振られたニックは、眼鏡に手を触れながらアーツのことをじっと見ている。
「進めてはいますよ。ですけれど、先日の草や空気のこともありますし、一日で調査が終わるとは思えません。魔素でしたっけか、あの物質が少しでも含まれている限り、調査は困難でしょう」
やはり、難しそうだった。
魔素は航宙船にはまったくないデータなのだ。
つまり、未知のデータとして、ろくに調べられずに片付けられてしまう可能性があるということだ。それを防ぐためには、より多くのサンプル数が要るし、詳細な情報も与えていくだけの根気がいる。
それはアーツだって百も承知だ。だが、この手のものを任せられるのはニックしかいないのだ。
「まあ、僕にだって意地がありますから、やれるだけやってやりますよ」
「その意気だ。俺たちは調査に向かうけど、今日はもしかしたら戻れないかもしれない。頼むから飲まず食わずだけはやめてくれよ」
「分かってますよ。十分な栄養と休息を取ってこそ、頭脳というのはちゃんと働くんです。そこまで愚かではないので、ご安心を」
にやりと笑い合うと、アーツはニックはこつりと拳を合わせていた。
「それじゃ行ってくるぜ」
「はい、気を付けていってきて下さいよ」
ニックは手を振りながら、アーツたちを見送る。
「さあ、みんなが頑張ってるんだ。僕だって頑張らなくっちゃね」
ハッチを閉めると、ニックは分析室へと向かって、ブランから渡された物質の本格的な分析を始めたのだった。
―――
一方、航宙船を出発したアーツたちは、二人ずつ性別ごとに分かれてノワールとヴェールの背中に乗っている。
二匹ともかなりがっしりとしていて、アーツとレンクスという重そうな二人を乗せてもヴェールはまったく苦にしている様子はなかった。
「悪いな、野郎二人でさ。ヴェール、重いんだったら言ってくれよ」
「大丈夫だって。それよりも急ぐから黙ってろって言ってるわ」
「ははっ、よろしく頼むぜ、ヴェール」
ブランの通訳を挟みながら、アーツたちは虫たちとも意思疎通を図れている。
そのおかげか、アーツたちは二匹の性格というのも大体分かってきた。
ノワールは冷静なタイプで、ヴェールは攻撃的なタイプなのだ。
それはそれとして、なぜ全員が虫の背中に乗って移動しているかというと、歩くより速いからだ。
今回の目的地は、日中の半分を使ってしまうような距離にある。いつものようにちまちま歩いていたのでは、調査の時間が削れてしまうからだ。
ノワールが自分たちに乗って移動するといいと申し出てきたので、今回はこのような移動手段となったわけなのだ。
付き合わされたヴェールは少々不機嫌そうだが、ブランのためならと我慢しているようである。
「よし、ここが今回の調査ポイントだ」
空に太陽が高く昇り切る前に、アーツたちは先日やって来たポイントに到着したのだった。




