第20話 光の奇跡
「アーツ、しっかりしろ!」
「アーツ、大丈夫?!」
レンクスとブランが声をかけるものの、アーツはまったくもって反応がない。
『ふむ、骨が折れているし、あちこち損傷がある。このままでは危険だ。すぐに主たちの拠点に連れて帰るぞ』
『しょうがねえ、俺も手を貸すぜ。あらよっと』
ヴェールがアーツを背中に乗せる。
『主たちも我に乗れ。我らの足ならさほど時間をかけずに戻れるであろう。一刻を争う』
「分かったわ。二人に任せるわ」
返事をすると、ブランはレンクスと一緒にノワールに乗り、航宙船へ向けて一気に走り出した。
「うおっ、はっや」
虫たちの疾走スピードはかなり速かった。
『我らは一度死んだ身。主の手によって蘇ったので、多少の無茶はできるというものだ』
「そ、そうなんですか。で、でも、無茶はしないで、下さいね」
速さに怯えながらも、ブランは二匹の言葉に反応している。
ただやっぱり、少々ばかり恐怖が優先するので、とぎれとぎれにしか喋れなかった。
『とりあえず口を開かずにしっかり捕まっていることだ。どのくらいのケガかは俺たちには分からないが、勘が危険だと告げている。全力で行くからな、振り落とされんなよ』
アーツたちを乗せたノワールとヴェールは、航宙船へと一目散に走っていく。
二匹の頑張りもあり、行きの半分程度の時間で航宙船へと戻ってくることができた。
航宙船に戻ってくると、レンクスが急いでハッチを開く。
正直、ハッチが開くのをじっくり待っている時間すらもったいない。イライラした様子でレンクスはハッチが開くのを待っている。
ようやく開くと、ノワールとヴェールが小走りにニックのところへと向かう。
「ただいま、ニックはいるかしら」
「どうしたんだい、ブラン。そんなにあわ、ってぇ!?」
ブランの呼び掛けに出てきたニックが衝撃のあまり、後ろの壁に激突していた。
「あ、アーツ?! い、生きてるのか?」
「ノワールの話ではまだ生きているわ。呼吸はしてるみたいだけど、危険な状況には変わりないわ。簡易の治療設備があるはずだけど、使えるかしら」
「ちょ、ちょっと待っててくれ、見てくる」
あれやこれやの分析に追われていたせいか、ニックは設備のことが一部頭から抜け落ちてしまっているようだった。
慌てて出て行くニックと入れ替わるように、今日は留守番をしていたクロノが顔を出してきた。
「ブラン、戻ってきたのね。って、アーツ!?」
ブランの姿を見て駆け寄ってくるが、ぼろぼろになったアーツの姿に気が付いて思わず大きな声を出してしまう。
「ねえ、一体何があったの、ブラン」
クロノがブランの肩をつかんで、必死の形相で状況の説明を求めている。
だが、肩をつかむ力が強すぎてブランの顔が苦痛で歪む。
『女、それ以上はやめろ。主が痛がっている』
ノワールが割って入ると、クロノはようやく落ち着いた。
言葉は分からないが、なんとなく雰囲気で分かるのだ。
「ごめんなさい。取り乱してしまったわね」
顔を押さえて、クロノはブランに頭を下げている。
「いきなりでびっくりしたけど、クロノの気持ちは分かるから。とりあえず状況を説明するわね」
ブランはアーツに起きたことをクロノに説明する。
「そんな……。それじゃアーツは……」
「ええ、このままじゃ危ないわ。でも、私たちではどうすることもできないの。ニック、早く戻ってきてよ」
祈るような気持ちで、二人はアーツの姿を見つめている。
全身を強く打っていて、どれだけ苦しんでいるかというのは気を失った表情を見ても伝わってくる。
「くそっ!」
そんな中、ニックの怒鳴る声が聞こえてくる。
「ニック、どうしたのよ」
声を聴いたクロノが駆けつける。
「救急医療設備が動かないんだ。まさか、こんな時に動かないだなんて……」
ニックは悔しさをにじませている。
このままでは、アーツは助からない。
「いやよ。絶対アーツは助けるんだから!」
クロノは絶望的な状況を受け入れられず、アーツのところへと走っていく。
「アーツ! ねえ、目を覚ましてよ、アーツ!」
クロノが叫んだその時だった。
クロノの全身が急に光り始める。
「な、なによ……これ」
あまりにも突然のことだったので、クロノは驚き戸惑っている。
「クロノも、何か能力に目覚めたのかしら」
『分からぬ。だが、主たち同様に魔素を吸い込んできたのだ。能力に目覚めても何の不思議もない』
ブランの質問に、ノワールは実に冷静に答えていた。
しかし、その能力が何かまでは分からないようだった。
(これなら、多分助けられる!)
何の能力かは分からないが、クロノには妙な確信があった。
アーツの体の上に手を置くと、アーツの元気な姿を思い浮かべる。
(アーツ、頼むから元気な姿を見せてよ!)
元気なアーツの姿が見たい。そう願いながら、クロノは自分の両手に意識を集中させる。
すると、体を取り囲んでいた光が、少しずつアーツの体へと吸い込まれていく。
「あっ、見て……」
『おお、これは……』
「なんだ、どうした」
ハッチを締め終えたレンクスがようやく合流する。
「傷が、塞がっていく……」
地面と激突した時にできた擦り傷などが、跡形もなく消え去っていっているのだ。
目の前で起きる不思議な現象を、全員がただ息をのんで見守るばかりだった。




