第16話 突然の襲撃
目の前の光景は信じがたいものだった。
大量の摘んだ草や木の実が放り込まれた箱を、レンクスが軽々と持ち上げていたのだから。
そもそも鍛えていて筋肉がついているとはいえど、そう簡単に受け入れられる状況ではなかった。
「すごーい。レンクスかっこいい……」
ところが、ブランとクロノの二人は、重い箱を軽々と持ち上げているレンクスを見て、そんな感想を漏らしている。
これには、アーツは少しばかり面白くなさそうな顔をしていた。
「へへっ、そうか?」
当のレンクスは照れている。
「レンクス、照れてないでさっさと帰るぞ。食べられるかどうか、ニックに調べてもらわないといけないからな」
「ああ、そうだな。にしても、サンプルだけならこんなに採る必要なかったか思うんだがな」
怒ったように歩いていくアーツの後ろで、レンクスは箱の中身のことで思わず呟いていた。
再びここまで取りに来るのは大変なのは分かるが、安全性が分かっていないものを大量に拾ってくることもまたリスクが高いからだ。
「ま、まあ。採っちゃったものはしょうがないわよ」
「そうね。航宙船の設備を使って長持ちさせるようにしてみましょうよ、ね?」
「まっ、そうだな。今日は運よくでっかいトカゲも他の虫どもも見ずに済んだが、どんな危険があるか分からないからな」
ブランとアーツの言い分に、レンクスも他の理由を思い浮かべて納得するのだった。
いくらレンクスが怪力に目覚めたとはいえ、相手は炎を吐くような化け物だ。
それにあの巨体である。レンクス一人ではとても太刀打ちができるものではない。遭遇しないに越したことはないわけである。
「よし、とりあえず帰るぞ。虫が出てきたら、俺が相手をするから、レンクスも安心してそのまま抱えてろ」
「頼むぞ、アーツ。今の俺は両手が塞がってるんだからな」
「任せておけ」
アーツはそう言いながら、閃光剣と閃光銃を振り回していた。
だが、すぐにクロノに危ないと叱られてしまい、アーツはもごもごとしながらしまい込んでいた。
たくさんの草や木の実を持って、アーツたちは来た道を戻っていく。
ノワールが道が分かるというので、おとなしく彼女を先頭にしている。
しばらく歩いていると、ノワールが突然立ち止まる。
「どうしたの、ノワール?」
『襲撃だ。たった一匹ではあるものの、警戒を怠らぬように!』
ノワールが叫んでいるので、ブランが通訳してアーツに伝える。
現状で戦えるのはアーツだけだ。
「どこから来る?」
アーツは閃光剣を取り出して構える。
ブン……。
鈍い音を放ちながら、ショートソードほどの長さの光の剣が姿を見せる。
「キシャーーーッ!」
次の瞬間、羽音を立てながら、目の前からでかい虫が襲い掛かってきた。
「なんだこいつは」
『カマキリだ。両手についたとげとげがかなり強力ゆえ、捕まらぬように注意を!』
「了解!」
ブランの通訳を通じて、ノワールの忠告を聞く。
アーツはカマキリの動きをじっと見つめている。なにぶん初めて遭遇する相手なので、どんな相手か分からないからだ。
(くそっ、こんな時にニックがいれば、いろいろ分析してくれただろうに……)
こんな時に考えごとである。
「キシャーーッ!!」
あっと今に目の前まで迫っており、鋭い両手の鎌が振り下ろされようとしていた。
「おらぁっ!」
だが、攻撃はアーツの方が早かった。
手ごたえありと思われたアーツの攻撃だったが、カマキリは羽ばたきを使ってうまく速度を落として回避をする。
「ちっ、妙なことを!」
速度を落として一度着地したカマキリは、再びアーツに飛び掛かってくる。
武器の扱いに慣れていないアーツは、先程の攻撃が大振りすぎて二撃目に対応できそうになかった。
「剣だけだと思うなよ!」
アーツは無理な体勢ではあるものの、素早く閃光銃を取り出してカマキリに向けて撃つ。
「ギィッ?!」
攻撃は命中したものの、さすがに体勢に無理があったのでかすめた程度だ。
それでも、カマキリと距離を取って体勢を立て直すには十分といったところだ。
「もう一発食らいやがれ!」
怯んだカマキリに向けて、アーツはもう一度閃光銃を放つ。
完全に不意を突いたはずだった。
ところが、カマキリはその閃光銃を躱していた。
「くそっ、当たれぇっ!」
アーツがそう叫んだ時だった。
「ギィッ!?」
ズドンと、後方から閃光銃の弾道が戻って来てカマキリを撃ち抜いていた。
まったくもって何が起きたのか分からない。
体を撃ち抜かれたカマキリは、全身をがくがくとさせながら、最終的にはその場に崩れ落ちた。
「倒せた……のか?」
閃光銃を構えたまま、アーツはその場に腰が抜けたように座り込んでしまう。
「な、なんだったんだ、今のは……」
レンクスも驚きの現象だった。
閃光銃というのは基本的に一直線にしか進まないので、今のように弾道が戻ってくるということは考えられない。
「まさか、アーツに能力が目覚めたっていうのか?」
レンクスはそのようにつぶやくが、確証があるわけではない。
一度にたくさんのことが起こりすぎた。
そのため、アーツたちはしばらくの間、その場で呆然としたまま動けなくなっていたのだった。




