第17話 ブランの能力の実演
アーツの前には倒れて動かなくなったカマキリが転がっている。
みんなが呆然とする前で、ブランが最初に動き出した。
「ねえ、ノワール」
『なにかな、主』
「この子もあたしが触れば、魔素っていうのを吸ってノワールみたいになるのかな」
『おそらくはなると思われる。しかし、主の力は目覚めたばかりゆえ、必ずしも成功するとは限らぬぞ』
ブランとノワールが話をしているが、ノワールの言葉が分かるのはブランのみ。ブランの言葉だけでは、話がつながらない。
だが、直後のブランの行動で、大体の雰囲気はつかめたようだ。
ブランは倒れたカマキリに手を触れている。
「なっ……」
次の瞬間、アーツたちは不思議な光景を見る。
ブランの体から、不思議な緑色の光があふれているのだ。
「なんだ、あれは……」
『あれこそが主が持つ魔素の光。我をこの世界に引き戻した、奇跡の光だ』
アーツが驚く中、ノワールはあごを鳴らしながら話をしている。しかし、その言葉を理解できるものは誰もいなかった。
しばらくすると、ブランから発生する光はおさまり、その場に座り込んでしまう。
「ブラン、大丈夫か?!」
「うん、平気……」
アーツが心配して駆け寄ると、ブランの顔色が少し悪そうだった。
「少し休んでろ。まったく無茶をするんじゃねえよ」
ノワールから降りたクロノが駆け寄ってきたので、アーツはクロノにブランを預ける。
俺たちはブランの心配をしながら、倒れているカマキリの様子を見る。
しばらく眺めていると、なんということだろうか、カマキリが体を起こして立ち上がっていた。
「なっ! 間違いなく撃ち抜いたはずなのに、なぜ!」
アーツが驚いて閃光銃を構える。
だが、カマキリの様子がおかしい。自分の姿を見てきょろきょろとするばかりだった。
『はっ、ボクは何をしていたんだ?!』
『素晴らしいな。起きたか、そこな同類よ』
『誰だ!』
ノワールが近付いていくと、カマキリは興奮気味に両手を構えている。
『そう興奮するな、我々は同類だ』
『同類?』
カマキリが首を横に倒している。
『そこな少女の力によって、我々は少女の支配下に置かれたのだ。ちなみに我の個体名はノワール。少女より賜った名だ。とても気に入っているぞ』
言葉は分からないが、ノワールの態度を見る限り楽しそうだなということは伝わってくる。
ノワールはまだ警戒を崩さないまま、クロノが抱えるブランへと近付く。
『今はまだお休み下さい。あやつはこの我が説得してご覧に入れましょう』
まだ意識のあるブランは、ノワールの言葉にこくりと小さく頷いていた。
「みんな、ノワールがさっさと帰ろうって言っています。詳しい話は航宙船に戻ってからしましょう」
ブランがよろめきながら話をしているので、アーツたちはそれに従うことにした。
倒したカマキリも、ノワールと一緒に航宙船まで来てもらう流れとなった。
それというのも、航宙船の中ならひとまずは安全というわけだからだ。
草や木の実といったものをたくさん持っているだけに、何かに襲われない保証はない。
今日は運よく巨大なトカゲたちには遭遇していないが、カマキリには襲われている。
さっさと摘み取った植物の詳細を知りたいために、俺たちは足早に航宙船へと戻っていった。
俺たちはどうにか航宙船まで戻ってくることはできた。
巨大なトカゲたちの姿を見ることはなかったものの、時折その巨体が歩く振動が伝わってきていた。
あまりにも大きな振動だったので、改めて奴らの脅威というものをその身に感じていた。
「ふぅ、姿が見えないのに歩く時の振動が伝わってくるって、どれだけの重量があるんだよ……」
「まったくだな」
「外で話をしている場合じゃないわよ。さっさとハッチを開けて中に入りましょう」
航宙船まで戻ってきたところで、悠長に話を始めるアーツとレンクスにクロノがお叱りを入れる。
「だな。さっさと分析にかけてもらわないと」
手の空いているアーツは、クロノに怒られたこともあって、すぐさま航宙船の出入口の操作をする。
航宙船の後部が開き、あっという間に足場ができ上がる。
「さあ、さっさと入るぞ」
「おう」
今日は最初にレンクスが中へと入っていく。
草や木の実の入ったバカでかい箱を持っているからだ。少しでも早く分析にかけたいからこそ、最初に入っていくのである。
続いて、ノワールに乗ったブランとクロノ、最後にアーツとカマキリが入っていく。
「うん? なんだよ」
アーツはカマキリがじっと自分の方を見ていることが気になった。
だが、カマキリはぷいっと顔を背けると、アーツを残してブランたちの後を追いかけて中へと入っていった。
「なんなんだかなぁ……」
言葉の通じない相手だけに、アーツは気持ちが分からずに気味悪く感じているようだ。
いろいろと思うところはあるものの、アーツたちには二体目の虫が仲間となった。
彼らがいれば、ブランの通訳が必要ではあるものの、行動範囲を広げることができるだろう。
新たな仲間を迎えたのはいいが、アーツたちの抱える問題には何の進展もない。
一体いつまでこのような生活を強いられるのだろうか。
先行きの見えなさが、少しずつアーツたちに影を落とし始めていた。




