第14話 長引くゆえの不安
魔素と呼ばれる不思議物質が漂う謎の場所に不時着してから、早いもので二十日が経過していた。
周辺の地理はだいたい把握してしまい、アーツたちはニックに伝えて航宙船から歩いて半日で到達できる範囲の地図を描き上げてもらった。
「うおぉ……。すげぇ、立体的だな」
「アーツとレンクス、それとブランの記憶から作り上げたものですからね。三人の記憶から詳細な地図ができましたよ」
操舵室の窓に浮かび上がった地図に、みんなが興奮をしているようだ。
ブランの隣にいるノワールも、その地図を認識しているらしい。口がぽかんと開いているようだった。
『面白い。この技術があれば、あやつらの支配から逃れられるかもしれない』
「ノワール、あやつらっていうのを詳しく教えてくれないかな。今までも何度か尋ねたけど、全部はぐらかしていたじゃないの」
『ぐぬ……。我らの問題ゆえ、あまりよその者を巻き込みたくなかったからな』
「あたしはあなたの主よね? もうよそ者なんて認識じゃないわよね?」
ブランにじっと睨まれると、さすがのノワールもたじたじだった。
自分たちの問題ゆえにあまりブランたちを巻き込みたくなかったらしく、ノワールは自分たちの身の上に関してはほとんど話してこなかったのだ。
『承知した。我の知り得る限りの情報をお教えしよう』
さすがにここまでがっちり問い詰められてしまっては、もうはぐらかすのはやめようと決断したのだった。
『……というわけで、いつから大きくなったのかは分かりませぬが、トカゲどもは特殊な能力を得て、我が物顔でこの大地を支配するようになったのだ。我ら虫の類は奴らの餌にされるばかりで、その日生きるのも必死なのだ』
長々と語ってくれた。
そのすべてはブランが間に入って一言一句違えずに伝えてくれた。
「なんてことなの。それじゃあのトカゲも元々はそれほど大きくなかったというわけなのね」
『左様。我らの記憶をたどれば、主たちとそれほど大きさが変わらぬほどだった模様。その原因がまったく分からぬのだ』
トカゲたちが大きくなった理由は、ノワールにも分からないらしい。
しかし、トカゲたちは現に大きくなり、火を噴くなどの特殊能力を得て、今では地上の支配者として君臨しているというわけである。
その迫力は、アーツとレンクスが体験した通りなのだ。
「なるほど、原因が分からないというわけか」
「これだけうろついている姿があるということは、そのトカゲたちの動きを観察していれば、出どころをつかめるかもしれませんね」
「あのくそバカでかい連中を見張るっていうのか? 滞在が延びてきちまって、食事も底をつき始めているのに、そんな悠長なことができるのかよ」
ニックが可能性を見据えているが、アーツの方は現実を見ていた。
確かに航宙船に備えられた食事は、その蓄えがなくなりつつあった。
そもそも積まれていたのは五人分を一か月分だ。すでに三分の二が過ぎてしまっている。活動が控えめなニックとクロノが食事を我慢していても、その残りはもう半分を切っていた。
『主たちはどのようなものを食べるのですかな。我でよければ、食べられそうなものがある場所へと案内しましょうぞ』
「えっ、それ本当なの?!」
ノワールの提案に、ブランが驚いた声を上げている。
「ど、どうしたの、ブラン」
隣にいたクロノが、さすがにびっくりして飛び退いてしまっていた。
クロノはブランと仲がいいし、ノワールも気に入っている。そのため、すぐ隣にいたからしょうがない。
「ノワールがね、食べられそうなものがある場所を知っているみたいなの。これ以上滞在が延びるのなら、現地のものを食べられるようにしておかないといけないし、ノワールの提案に乗ってみる?」
ブランはクロノたちに確認をしている。
なにせ自分たちのこれからに関わることなのだ。一人で決めるわけにはいかないのである。
「そうだな。よし、ノワールに教えてもらったものを持って帰ってきて、食べられるものかどうか解析してもらおうか。ノワールの見識と俺たちの世界の知識が一緒とは限らないからな」
アーツのひと言で、ノワールに食べ物のある場所を教えてもらうことになった。
ニックだけは調べ物があると言って残ることになったが、今回はついにクロノも航宙船の外に出ることになった。
みんなが頑張っているのに、自分だけじっとしているわけにはいかなくなったからだ。
「私も乗って大丈夫かしら、ノワール」
『主くらいの重さがもう一人加わったところで問題はない。我とてアリの戦士、甘く見てもらっては困る』
「だそうよ。よかったね、クロノ」
ノワールを気に入っているクロノは、その背中に乗れるとあって、素直に喜んでいるようだ。
改めてその場所を確認すると、どうやら今まで行ったことのある場所の中に、該当の場所があるそうだ。
「そうか。だったら日帰りは十分可能だな」
「問題は、採取したとしてそれを持って帰れるかってところだな」
荷物持ちとなるアーツとレンクスが、自分たちの抱えることになる箱を見てげんなりとしていた。
目の前にある箱自体は、大した重さじゃない。
これ一杯に物を詰めたとすると、どれだけの重さになるのか想像がつかめない。そのため、複雑な表情を浮かべているのである。
「まっ、みんなが生き延びるためだ。やってやろうじゃねえか」
「だな」
みんなのためという思いだけで、二人は改めて気合いを入れていた。
食べ物の問題を解決するべく、ニックだけを残してアーツたちは航宙船から出発していった。




