第13話 魔素と能力
航宙船に戻ると、アーツたちはニックに出迎えられる。
「無事に戻ってこれたんですね」
「ああ、このノワールのおかげでな」
笑顔を見せるニックに、アーツはブランがつれた黒い大きなアリを見ながら答えている。
驚いた表情を見せながら、ニックはノワールを見ている。
「なんでも、見えない印をつけているそうよ。それをたどれば、来た道を戻るのはたやすいことだって言っているわ」
「ブラン、そのアリの言葉が分かるのですね」
「ええ。でも、どうやらあたしだけみたい」
ブランはノワールの頭を撫でながら話している。
今日のことがあったからか、ブランはすっかりノワールに気を許しているようだった。
どこまで許しているかというと、まだ仲間にした虫がノワールだけだからと、航宙船の中でいさせてあげたいというくらいだった。
正直言うと、クロノがかなり気持ち悪がっているので、アーツやレンクスとしては外に追い出してやりたいところだ。でも、まだノワール一匹だけという状況では、ノワールだけが仲間外れだという認識を持たせてしまう。
アーツたちはやむなく、ノワールを航宙船の中に留まらせることにしたのだった。
「仲間が増えたら、外で見張ってもらうからな。いいな?」
『承知した。そもそも我の役割は哨戒ゆえ、外で単独でも構わぬのだが、主の希望だから仕方がない。もし敵襲があれば知らせよう』
ノワールの言葉はブランが伝える。
「しょ、哨戒? どういう意味だ?」
だが、哨戒の意味が分かる人物が少なかった。
「敵の侵攻や襲撃に備えた見回りのことですよ。彼女はそういう役割を持っているようです」
「彼女?!」
「あれ、ご存じありませんか? 外に出て活動するアリはメスなんですよ」
「なんだってー?!」
驚愕の事実に全員が驚いている。
そう、働きアリというのはメスなのだ。ノワールは言葉遣いの割にメス、つまりは女性なのである。
「とりあえず、詳しい話はあの分析室でしましょう。ちょうど土壌と大気の詳細な分析結果が出る頃ですからね」
「お、おう」
ニックの言葉に従って、アーツたちは分析を行う部屋へと移動していった。
部屋に入ると、壁で何かが光っている。そこにあったのは、昨日も見たタブレットである。
結果が出たので、分析結果をタブレットにコピーしていたのだ。
「詳細な分析結果ですけれど、やはり土壌も大気中も、正体不明の成分が検出されたようです。濃度は地面の方が少し濃いようですね」
「正体不明って、そのアリが言っていた魔素ってやつじゃないのか?」
「なんですかね、その魔素っていうのは」
レンクスが反応すると、ニックが引っかかりを覚えて質問をしてくる。
「俺たちだって詳しいことは分からねえよ。そのノワールに聞いてくれ」
口に出しながらも説明は全部丸投げである。なんて酷い男なのだろうか、レンクスは。
ところが、話を振られると、ノワールは淡々と説明を始める。気が付いたブランがその言葉を一言一句違わずに伝える。
「なるほど、昨日アーツたちが見たっていう、トカゲの吐いた火の元となっている大気中の成分ですか」
ニックは腕を組みながら深く唸りながら喋っている。
未知の単語にも、ニックはすんなりと対応をしている。さすがは博識なニックといったところだろう。新しい知識にもすぐに対応してしまっている。
「ということは、ブランがノワールを手懐けたのも、その魔素によるものというわけですね」
「ノワールの説明ではそうみたい。あたしもまだ信じられないけれど、こうやって話ができている以上、信じるしかないわ」
今日一日活動しておきながらも、ブラン自身もまだ気持ちの整理がついていないようだった。
一同が黙り込む中、クロノがノワールに近付いていく。
「この子、大きいけどよく見てみたら思ったより可愛い感じかしらね」
最初こそ気味悪がっていたものの、ブランをおとなしく背中に乗せている光景を見たせいか、クロノもノワールには興味を強く示しているようだ。
「撫でても、大丈夫かしらね」
「ノワール、いいかしら」
ブランが確認をすると、ノワールはこくりと頷いている。
首を縦に振るノワールの姿を見て、クロノはかなり気に入ってしまったようである。
「か~わい~」
撫でるどころか抱きついていた。
いきなり抱きつかれたノワールは驚いていたものの、敵意がないと判断すると、おとなしくクロノにされるがままになっていた。
その様子を見ていたブランだったが、急にノワールに聞いた内容を思い出す。
「そうだ。これも伝えておかなきゃ」
「どうしたんですか、ブラン」
ニックが気になってブランに声をかける。
「さっき話題に出ていた魔素だけど、吸い込んでいるとあたしのように特殊な能力を発露させることになるらしいの。もしかしたら、みんなも何か能力に目覚めてるかもしれないわ」
「それは本当なのですか?」
ニックは確認する。
これに対して、クロノに抱きつかれているノワールも首を縦に振っている。つまりは、間違いのない話のようなのだ。
ブランの能力はまだ自分たちにとって有益なもののようだが、アーツたちの能力はどのようなものになるのか分からない。
言い知れぬ恐怖と期待感。
アーツたちはしばらくの間、その現実に悩まされることとなるのである。




