第12話 魔素というもの
真っ黒なアリであるノワールと一緒に近くの探索を行うアーツたち。今日はこれまでとは違った方向へと進んでいる。
「それにしても、こいつって確か頭を撃ち抜いたよな。なんで動いてるんだよ」
「まったくだ。確かに動かなくなったのは確認したのにな」
周りの景色よりも、ノワールが気になって仕方がない二人である。
「あたしも不思議に思っているよ。でも、ノワールは確かに語りかけてきたの。あたしが主だって」
ノワールの背中に乗るブランは、じっとその後ろ姿を見つめている。
『肉体は確かに死した。だが、主の中の魔素が我を蘇らせたのだ。きっと奴らによる支配を終わらせるための使者に違いない』
「奴らの支配? 終わらせる? どういうことなのよ」
ノワールの言葉に、ブランは聞き返している。
「おい、ブラン。何を一人でぶつぶつと言ってるんだ」
「えっ、今ノワールが話し掛けて……って二人とも聞こえないの?!」
レンクスに指摘されて、ブランは驚いてしまっている。どうやらノワールの声はブランにしか聞こえないらしい。
その上、知らない単語がたくさん出てきて、ブランは今ものすごく混乱している。
『我の言葉は主にしか聞こえない。特殊な魔素の絆によって、主と我は結ばれているのだ』
「魔素って何なのかしらね……」
何度も出てくる単語に、ブランは思わず首を捻ってしまう。意味が分からないからだ。
『魔素というのは説明が難しい。だが、奴らが火を噴く様を見たのであれば、納得ができると思う。あの火を生み出しているのが魔素というものだ』
「アーツたちが言っていたことは本当だったのね。トカゲが火を噴くのは、あなたが話すその魔素と呼ばれるものによるものなのね」
『そうだ。魔素は呼吸と一緒に体内に取り込まれる。おそらくそちらの連中にも、何かしらの影響が出ているはずだ。珍妙な物体の中にいるあの者たちにもな』
ノワールの言葉に、ブランは黙り込んでしまう。
「おい、ブラン。そのアリと何を話しているんだ」
「アーツ、ごめんなさい。詳しい話は航宙船に戻ってからするわ。私もちょっと気持ちの整理がつかないの」
声を荒げるアーツに、申し訳なそうな表情をしながらブランは謝罪をしている。
いきなり聞かされた信じられない話に、頭も気持ちもついていけないのだ。
しばらく歩いていると、ノワールがぴたりと止まる。
「おい、どうしたんだ?」
アーツが気になるようだ。
「近くに大きなトカゲがいるらしいわ。ノワールたちもさすがに太刀打ちができないみたいで、危険を察知する能力が高くなったそうよ」
「それはいいな。危険な目はなるべくごめんだからな」
便利な能力だなと、アーツはもちろん隣のレンクスも感心しているようだった。
その直後、ずしんと地面が大きく揺れる。
慌てて木の陰に隠れたアーツたちは、息を殺しながらそーっと顔を覗かせる。
「ガアアアッ!!」
咆哮が響き渡る。
ノワールが感じ取った通り、巨大なトカゲが姿を見せたのだ。
「相変わらずでけえな。あいつらからしたら、俺たちなんてそこらに落ちてる石ころみたいなもんだろうな」
「まったくだぜ。あいつらに出くわしたとして、俺たちが戦ったり逃げたりっていうのができる姿が想像できねえぜ」
自衛のための閃光剣と閃光銃は常に携帯しているものの、まともに戦える姿がまったく思い浮かばない。
最初なら閃光銃でどうにか応戦できると考えたものの、火を噴く姿を目撃したせいで完全に潰えてしまったのだ。
ギリッと歯を食いしばりながら、トカゲが歩き去っていくのを息を殺して待つ。
大きな足音はやがて遠ざかっていき、ようやくアーツたちに安堵の表情が戻った。
「まったく、生きた心地がしねえぜ」
「本当にな。でも、こんな調子じゃ調査なんてのは進みやしねえ。早く対抗手段を手に入れないとな」
『我も主のためにご協力しましょう。そのためには、我のように使役できる虫を増やすのがよいかと』
考え込むアーツとレンクスを見て、ノワールがブランへと提案をする。
「虫を増やすってどうやって?」
『我にしたことをすればよいのです。一度倒した上で、主の魔素を我と同じように流し込めばいいのです。そうすれば、主に仕え、力となってくれましょう』
ブランが聞き返すと、ノワールは虫を仲間にする方法を教えてくれた。
しかし、これ以上虫が増えることは、なんとも言えない気持ちになるというものだ。
なぜなら、アーツたちは虫という存在の実物を、今回初めて見たのだから。
見慣れない人間からすれば、虫というのは気持ち悪いものだ。それゆえに、数が増えるというのはどうしても受け入れられないのである。
『心配は要りませぬ。我らを主らの拠点の周りに配置するのです。そうすれば、我らは主たちの住処をその身をもって守護するでしょう。そのためには、我と同じような存在を増やすのです』
ブランが通訳をすると、アーツとレンクスは難しい表情を浮かべてながら顔を見合わせていた。
やっぱり気持ち悪いという気持ちが先に立ってしまうようである。慣れるまでは時間がかかりそうだ。
結局、この日も大きな収穫はなく、アーツたちはノワールの能力で無事に航宙船まで戻ったのだった。




