第11話 目覚め
翌日の朝を迎える。
眠い目をこすりながら体を起こしたアーツやレンクスたちだったが、突然の叫び声に目がぱっちり覚めてしまう。
「どうした、クロノ!」
叫び声の主はクロノだった。
どうやら、部屋にいたはずのブランが姿を消してたようで、それに驚いて叫び声を発してしまったようだ。
「ブランがいないわ。一体どこに行ったのかしら……」
顔を真っ青にしながら、クロノはおろおろとしている。
ブランとクロノは普段から仲がいいし、家族のような付き合いをしていた。そのためにここまでうろたえているのだ。
「落ち着け、クロノ。まずは航宙船の中を探すんだ」
アーツが必死に声をかけているが、クロノは震えた様子のまま、落ち着きを取り戻せそうになかった。
「なに、今の声は」
そんな中、原因であるブランがひょっこりと顔を出してきた。
「ブラン!」
ブランの姿を見つけるや否や、クロノはブランに勢いよく抱きついていた。
突然抱きつかれて、ブランは困惑した表情を浮かべている。
「えっと、どういう状況なのかな」
「いや、ブランが部屋にいないからクロノが取り乱しちまったんだよ」
「あっ、そうか。そういうことなのね。ごめんなさい、クロノ」
アーツに言われて、ブランはクロノに謝っている。
「そうだ。朝食前にみんなに教えておきたいことがあるの。こっちに来てくれないかな」
そうかと思えば、両手をパンと叩いてクロノたちを指そう。
ブランの行動の理由は分からないものの、紹介したくてたまらない顔をしているブランの誘いを、そう簡単に断ることができなかったようだ。
誘い乗ってやって来たのは、ニックがよく入り浸っている部屋である。
ところが、部屋に入るなりアーツたちは驚いてしまう。
「な、なんでそいつが動いてるんだよ!
それもそのはず。ブランが立つ隣にいるのは、初めて外を歩いた時に撃ち抜いて倒したはずのアリだったのだから。
「昨夜に呼ぶ声が聞こえきたの。それに誘われてやってきたら、知らない間にこの子の主にされていたの。でも、あたしが主なんだから、あたしが指示しないとこの子はみんなに襲い掛かることはないと思うよ」
「はあ?!」
ブランの話す内容がまるっきり理解できないアーツたちである。
信じられないというような様子を見せているので、ブランはアリに声をかけて、自分を背中に乗せるように指示を出す。
すると、アリはしゃがみ込んで乗りやすい姿勢を取る。
ブランがまたがって乗ると、きちんと乗ったことを確認した上で立ち上がっていた。
「すげえ、いうことを聞いてやがる」
目の前で起きたできごとに、誰もが息を飲んでいた。ニックだけは眼鏡を持って軽く上下させている。
「この子が言うには、あたしには虫や植物を従わせる能力があるらしいの。どうしてそんな能力を持つようになったのかは分からないのだけれどね」
ますますわからない話である。
「なあ、ニック。もしかして昨日の簡易結果で言っていた未知の成分っていうものって……」
「そんなわけありませんよ。世界のあらゆるものが科学で解明されている今、そんな不可解な現象など起きてたまるものですか」
アーツがニックに声をかけると、強い調子でニックはアーツの言葉を否定している。
しかし、ニック自身にもそれを否定する根拠というものは乏しかった。それだけに、ニックはやる気をみなぎらせ始めていた。
「それじゃ、ニックは引き続き調べ物を頼むぜ。俺たちは昨日とは違う方向に調べに出てみようと思う」
アーツが宣言すると、レンクスも強く頷いている。
ところが、ここで予想外な反応が出てきた。
「あの、あたしもついて行っていいかしら。この子がいればきっと今までよりは楽になると思うから」
そう、ブランがアーツたちについて行こうとしてきたのだ。
正直言って、女の子にきついことなどさせたくはない。
アーツとレンクスを顔を見合わせて結論を渋っている。
「大丈夫。この子がいれば私は平気だから。それに、帰り道も任せてほしいって言っているわ」
ブランが強く言ってくるものだから、アーツとレンクスは押し切られてしまう。
「しょうがねえな。危なくなったら俺たちが守ってやるからな。無理はすんなよ」
「分かったわ。きっと役に立ってみせるから」
ブランは鼻息を荒くしていた。
しかし、すぐに何かに反応したのかびっくりした表情を見せている。
「えっ、名前が欲しいって? えっと、そんな急に言われても……」
どうやら、使役するアリが名前を要求したようだ。
アーツたちが名前で呼び合っているのを見て、自分も欲しくなったようである。
「黒っぽいからノワール。ノワールでどうかしら」
少し考えたブランは、アリにノワールと名前を付けていた。
アリは喜んでいるようで、頭を上下させていた。
「ブランとノワールか。いいじゃねえか」
「それじゃ、話もまとまったみたいだし、今日の調査に向かうぞ」
「おうっ!」
こうして、ブランとノワールを新たに加えて、アーツとレンクスは周辺の調査へと向かっていった。
残されたクロノは、ブランのことを心配そうに見送ったのだった。




