第10話 地球?それとも……
アーツとレンクスが採取した土は、すぐさま検査されて結果が出てきた。
本当に一部の機能が停止しているだけで、航宙船は普通に使える状態のようだ。
検査結果を持ってやってきたニックは、その結果に驚いているようである。
「おっ、ニック、戻ってきたか」
汗を流してくつろぐレンクスが声をかける。
「うん、調査結果を出すまでは早かったですよ。やっぱり、機能はちゃんと生きてるようです」
左手に出てきた結果を握りしめながら、ニックはまた眼鏡をくいっと触っている。
眼鏡をかけている人物というのは、どうしてもこうしてしまう癖があるようだ。
「それで、結果はどんなふうに出てきたんだ?」
「まあ慌てないで下さいよ。アーツたちも揃った場でないと、意味がありませんからね」
「……ああ、そうだったな。すまん、突っ走りすぎちまった」
思わず反省してしまうレンクスである。
土の検査が終わったということで、アーツたちは再び食堂に集まった。
「なんだよ、急に集めて」
「うん、二人が採取してくれた土の簡易検査が出たんだ。精密な検査だと時間がかかるから、ひとまず誤差は大きいけれど簡易の結果を出してもらったんだ」
ニックは左手に持った板のようなものをぶんぶんと振りかざしている。
これは、航宙船が土の簡易分析を行った結果を記録させたタブレットだ。先程の検査の結果はすべてここに記録されているのである。
「ごたくはいいからさっさと検査結果を教えてくれないか?」
アーツはニックを急かしている。
他のみんなからも熱い視線を集めており、ニックはこくりと頷いている。
「本来は精密な検査が必要なんだけど、とりあえず早く知りたいってことで簡易検査も同時にしてみたんだ。今持っているのは、その簡易検査の結果ですよ」
説明の頭に、ニックはそのように断りを入れている。
慌てて検査したから精度は怪しいぞと予防線を張っているのである。
ニックはタブレットに表示されている土の検査結果を伝える。
「……というわけで、コロニーのデータベースにある地球の成分ととても似通っているんです」
「ってことは、ここは地球で間違いなのか?」
「最後まで聞いて下さい」
アーツが確認してくるものの、ニックはそう言い返して黙らせる。
実際、説明はまだ途中なのだ。
「土の成分は地球とは似通っているのですが、未知なる成分が多量に含まれています。簡易検査ではこれが何なのかは突き止められなかったようですね。ですので、今のところ、地球もどきの場所とまでしか分かりませんでした」
ニックが説明を終えると、アーツたちには言葉はなかった。
地球に似ているけれど、地球ではない場所ということが分かっただけでも前進だ。しかし、そのせいでさらに簡単に元の場史に戻れるかどうかが不透明になってしまったのだ。
「大気中の成分も調べてみましょうか。こうなったら徹底的にこの場所のことを調べてやりましょう」
アーツたちとは対照的に、ニックのやる気はみなぎっていた。
思い立つとニックの行動は早かった。
アリが収納されている部屋へと向かい、機械を操作して外気を取り込んで精密検査にかけたのだ。
操作を終えたニックは、アーツたちのところに戻ってくる。
「まるっと一日かかりますが、これで、地上と大気中の成分が明らかになるでしょう。僕たちが元の場所に戻るための、ヒントになればいいのですけどね」
ニックは腕を組んで難しい表情をしていた。
未知のものに触れて嬉しい反面、まともな結果が出なかったらどうしようという不安などが入り乱れているのである。
「どういう結果が出るにしろ、気長に待つしかねえな」
アーツはそう言いながら、大きなあくびをしてしまう。
「おっと失礼。今日は全力で走ったからか、だいぶ疲れちまってるみたいだな」
「そうみたいね。早く寝た方がいいわよ、アーツ」
「だな。ここでの生活がいつまで続くか分からねえんだ。無理するのもよくないよな」
アーツは立ち上がって部屋へと移動していく。
「んじゃ、俺は寝るぜ。飯はとりあえず要らないから、起こすんじゃねえぞ」
後ろを向いたまま、手を振ってアーツは食堂を出ていった。
全員が揃っていないし、これ以上話すこともないために、この場はひとまずの解散となったのだった。
その夜のこと、むくりと起き上がるひとつの影があった。
起き上がった誰かは、ふらふらとした様子で部屋を出ていき、どこかへと向かっていく。
足取りはしっかりしているように見えているが、どう見ても上半身の揺れが大きいし、足もよく見るとすり足だ。どうやら、本人はまだ眠っているようである。
まるで何かに導かれるように歩くその人影は、ここしばらくニックがよく出入りしている部屋へとやって来た。
「はっ! あれ、ここは?」
部屋の中にやって来た人物がようやく意識を取り戻す。
辺りをきょろきょろと見回すものの、部屋の中は土と空気の解析を行っている光が放たれているだけだった。
「どういうことなの。あたし、部屋で寝ていたはずなのに……」
気が付いたら部屋を飛び出していたのだ。驚くなという方が無理だった。
「痛っ!」
次の瞬間、頭に痛みが走る。
『よく来た。お前、我の主となれ。お前にはその素質がある』
「誰なの? あたしに呼び掛けるのは!」
叫んでみても返事はない。
その代わり、目の前のある場所が光を放っていた。
「ここは、確かアリをしまい込んだ場所……」
気になって手を伸ばしてしまう。
そっとその場所に触れた瞬間、辺りをまばゆい光が包み込んだ。
「きゃっ!」
部屋へとやって来た人物は、光に包まれたかと思うと再び意識を失ってしまったのだった。




