060/マシンガンのリズムは漆黒
連なるテールランプ。左へ右へ。
赤い光が光線のように流れる。
フラットランド=八華都市 午後6時10分。
芸大へと続く幹線道路。通称・中央通り。
夕方の緩やかな渋滞の最中に地響きのようなエンジンを唸らせて、
真っ黒なウィングボディの12tトラックがゆく。
その前後を挟むようにして黒いボディのランドクルーザー。
後ろにはさらに様々な車種ながら黒ベースのクルマが連なっていく。
ただ黒いだけじゃない。ひと目でわかる。赤い髑髏マーク。
これの意味するところは一目瞭然。
スナッファーの一団。
真っ白な怪しげなトラックが走っているという報告を受けて別れて走っていたメンバーが合流した。
キリも黒いランドクルーザーで目を光らせる。
道行く人々は知っている。説明不要だ、この街では。
だからゆるゆるとみんな道を譲る。
煽られでもしてそのまま抗争にでも巻き込まれたら最悪。
だから避ける。
通常はそのへんの一般人を襲撃することなんてほとんどない事も知っているからだ。
まあ例外はあれどこの街で生き抜く基本姿勢は触らぬ神に祟りなし、いや、触らぬ街賊に祟りなしだ。
この八華都市の中央に位置する芸大周辺に街賊が現れるのは確実に何かが起こることを示していた。
それもまたこの街のある種の常識としてのこと。
事実上の中立地域。
芸大を中心にした中央地区一体は数々ある街賊組織の緩衝地帯として機能している。
だけど別に法で定められてりるわけじゃない。
定めやれていたとしても法なんて軽々と破る街賊が暴れ出したりしたら大変だ。
悠々と走りながらもそんなよからぬ空気を全開に撒き散らしながら道をゆくスナッファー。
真っ白なトラック。
土木関係や運送用で日々走り続けてるトラックとは明らかに違う、綺麗さ。
タイヤのホイールまで真っ白だとこれもまた怪しさが満ちている。
「……前方に……赤いバン。あれ、セディショナリーズっすね」
運転手が言う。
その言葉にキリも後方から身を乗り出して見つめる。
確かにその先には赤いバン。髑髏入りだ。
赤いバンか。セディショナリーズは赤や黄色やショッキングピンクに紫にと、
やたらに目立つ色を使いたがる。
「確かに……見たことあるな。セディショナリーズ……。なんで奴らが?」
ラモン一族もこの中央に向かってるしセディショナリーズまでここにいる。
「まさかあの白いのを狙ってんのか?」
キリが白い連中、ロザリー教徒を狙うのは自分のチーム、スナッファーのメンバーを拉致したからだ。未だに行方不明だし。
そして何よりそれを自分がホームとする南東部でやったこと。
それが怒りに火をつけた。
だからこうして徹底的に潰そうとしている。
南西部からやってくる、ラモン一族も、南部から来るセディショナリーズもきっとそうなんだろうと勝手に思うことにした。
それぐらいしかこのタイミングで中央に出向く理由が思いつかない。
それなら……
「奴らより先に見つけ出して連れ去るぞ」
そうするだけだ。誰よりも速く、強く、高く。
「じゃあ仕掛けますか?」
「あ? どこに?」
白い連中にか? セディショナリーズにか? 羅吻にか?
「……それなら……ラモンなんていいんじゃない?」
キイチが微笑んでキリの方を向く。
「なんでだ……。いま一番面倒な相手だろ」
この場所に遠征に来ている中では1番の規模を出している。
だいたいラモン一族は西部一帯を支配している街賊・雅党としょっちゅうやりやってる程元気だ。
西の雅党とえば多国籍街賊で一大勢力。
規模だけで言えばこの八華最大級。
多国籍ゆえの無茶なことも平然とやる連中と名高い。
元々はチャイニーズマフィアだったが。
まあとにかく雅党なんて相手したくもないし、そいつらとやり合うような馬鹿がラモン一族。
いま、白い連中を逃したくないキリとしてはいちいち構いたくもない。
「……冗談だよ。やるなら白い連中。邪魔してくるなら知らないけど」
そう言ってまた前を向くキイチ。
「追いかけてるのも面倒だな。あの白いトラックに仕掛けるぞ。アイツらを行かせろ」
タバコに火をつけキリは指示。
「大丈夫? こんなとこでやって」
「……中立地帯? 知らねえよ。どうでもいい。
それに……あの白いのは街賊じゃねえ。
街賊同士の暗黙の了解は関係ねえ相手だ。
セディショナリーズを追い越せ。相手は任せたぞ」
スマホ片手にキリは前だけを見据えている。
相手方は了解の返答。
直後、横の車線を走っていた2台の黒のバンがスピードをあげる。
そしてキリの乗るランドクルーザーを追い越すカタチで12tの黒塗りのトラックが現れる。
横にも後ろにも髑髏印。近づく一般者は皆無。
車間を詰めれば瞬時にみんな道を譲る。
そのままどんどん前へ前へ。
黒い2台のバンに前後を挟まれたセディショナリーズの赤いバンの横を通り過ぎていく。
その状況に赤いバンに乗るヒコは軽く舌打ち。
が、ここで入電。
『ヒコくん……ポータルが創られ始めてるって反応が……』
リリスの声だ。
「どこに?」
『元いた場所より西に2ブロックいった辺り……。
クラブ・ラブジュースのへん……ダヨ』
「わかった。シヒロとアレックス向かってくれ」
黒いバンに挟まれてようが関係ない。ここから離脱だ。
だが、周りを囲まれて転換できない。
「あああーもうこっちに用はねえのに……。キリちゃんめんどくせえなー」
「降りて行きますか?」
カノンがナギナタの入った袋を手に乗り出す。
「いや……いま降りたらそれこそ生身で囲まれて身動きとれなくなる。
キリちゃんはこっちを封じたいんだろ」
通り過ぎ小さくなっていく黒いランドクルーザーと大きな黒いトラックに視線を送りながらこめかみを押さえるヒコ。さて……。
キリは上機嫌だ。
ヒコ率いるセディショナリーズは抑えた。
白い連中も目の前。
スナッファー所有の真っ黒のトラックの左半分が上へと開き始める。
ウイングボディだ。
じょじょに中身が晒される。
ゆっくりと、ゆっくりとまるでお楽しみのショウが幕を開けるように。
そこにはマシンガンやガトリングを横に向けて構える街賊の姿があった。
真横の真っ白のトラックに銃口は向けられている。
なんの合図もない。並走するトラックは絶妙の距離感を保ち続けることでそれが頃合いとなる。
だからーー
世界が割れる。そんな音、音、音、金切り声、音、音、ブレーキ。
擦れる。擦り切れる。その音は銃声。
小気味よいリズム。刻むビート。
平穏は引き裂かれた。
いま、この世界は暴かれた。どこかで高らかな笑い声が聴こえる。
幻聴かもしれない。だけど気にせず世界は割れ続ける。
ズダダダダダダダダッとマシンガンが火を吹いてスピードを上げる。
真っ白なトラックに穴が開く。蜂の巣状態。
それでも止まらないリズム。
黒いトラックのサイドウイングが開ききって中の男達は真剣に、でもどこか紅潮しながら手持ちの弾を打ち尽くすために止まらない。
身を焦がすような25秒。興奮が止め処無く溢れる。
真っ白なトラックの右半分は水玉模様だ。
煙も上がっている。
周囲にはクルマも人もいない。
みんな遠巻き。それが賢明。
ゆらゆらと真っ白なトラックが左右に揺れてバウンドするように大きく跳ねる。
その反動で、停車した。
真っ黒なスナッファーのトラックはすぐ横につける。前方にはキリのランドクルーザー。
後ろは髑髏を掲げる数台が囲うようにして停まった。
薬莢が道路に飛び散っている。
まだ耳がキーンといってる者もいる。
ドアを勢いよく開けてキリ、降り立つ。
くわえタバコ。
「さあ、ぶっ潰そうか」




