059/緩やかに燃え迫る
八華都市・中央区。
そのさらに中心部には八華芸術大学がありそこに続く大通りには劇場やコンサートホールが軒を連ね、近くには古い町並みもあり町屋が並んでいたりする。
八華大学や医大もエリア内にはあり学問と文化を象徴するような地域になっている。
カルチャーは大事だ。
と、いうことでにこの地域をホームにしている街賊はいない。
基本的に中立地域になっている。
好きなアーティストがライブをやる場所。
好きな俳優が演劇をやる場所。
好きな画家が個展をやる場所。
そうゆうところで暴力沙汰はやめましょう、という人らしさ、
端から見れば身勝手な暗黙の了解が通ってる。
だから、そんな場所を回遊するようにゆっくりはしる髑髏印のクルマの連なりを目にして街ゆく人々は戦々恐々。
でも中学生だか高校生だかの制服を着た一団は無邪気に手を振る。
将来の街賊か。
バンの後部でフカフカのソファ仕様になった席でタバコの煙を吐き出す男。キリ。
「2周目……いきますか?」
前席からの問いかけに答えず窓から外を眺める。
よく行くクラブの入口が目に入った。
キリ率いるスナッファーは複数のグループに別れこの地域を巡回している。
目撃情報を頼りに白い連中の居場所をかなり絞り込んでいる。
焦ることは無い。ジワジワと追い込めばいい。
「……キリ君。珍しいね。この手のことでここまでするなんて……」
また前席から声。
「……キイチ。お前が掴んだ情報だしな。
それにな……。俺の街でコソコソと何かやってる奴なんてそりゃあ潰すだろ」
「ははっ。そうだね。確かにもうあの街はキリ君のものだ。そこでコソコソやっちゃあいけない、うん。
それにしてももうあの街だけじゃ収まらないな。そろそろ他のエリアにも進出だな」
楽しそうなキイチ。
あの街。スナッファーがホームとする南東部。
「……どうせいずれは八華全部が俺のもんになる」
「期待してる。……ところでだ……、南西からこっちに向かってる奴らがいる」
「南西……つったら……ラモンか」
「そう」
勢いよくタバコを灰皿に押し付けるキリ。目つきは鋭い。
そんな不穏な空気を乗せて髑髏印のバンは通りをゆく。
「あれは……スナッファーのクルマが走っています、お兄様……」
大通りをゆっくりと走っていくバンを目で追いながら。
こちらは赤いバンに乗り込んでいるセディショナリーズ。
ヒコ、カノン、アレックス、シヒロ、ファイヤーボール、ミコそしてホテルからリモート参加のリリス。
こっちはスナッファーと違って少数精鋭だ。
まあ多元界案件なのでそれを知っている者を選んだ結果。
「ってか俺今日デートなんだけどーー」
と、アレックスが唇を尖らせる。
「休暇とってるって言ったよね?」
と、シヒロがあからさまなしかめっ面。
「なんで私もいるの? 戦力外でしょ? 私街賊でもないし」
「にゃはは。んなこと言ったら俺セディショナリーズじゃないし!」
「うっせえな~お前ら。すぐ済むよ。頼りにしてるってことだよ」
ヒコはあくび混じり。
「お任せ下さい、お兄様」
と、カノンが前のめり。
「ウルサイ、カノン。今のは私に言ったのヨ」
声だけ聞こえてくるリリス。
「大丈夫だよーやるよー」
ファイヤーボールは笑顔。
「キリ様がここまで来てるとなると厄介ですね」
「あ? 問題ねえよ、こっちは居場所の目星はだいたいつけてる。
キリちゃんにはわからない方法でな、よしシヒロっち、よろしく!」
急に振られたシヒロは面倒くさそうにタブレットを開いて見せる。
「……いい? これはいま俺達ラストリゾートが開発中のポータル感知システムの……
まあベータ版。これでどこにポータルがあってそれが稼働してるかどうかを感知することができる」
「ふーん」
興味無さそうにアレックスはスマホをいじる。まあいつものこと。
「それは……どの程度の精度なのですか?」
「そこなんだよねー、ベータ版だし。まあいまのところ半径1キロ圏内のポータルが発する独特の波を捉えて……」
「半径1キロ圏内……」
「今回に関してはそれで充分だ」
ヒコが手を叩く。そしてドーナツの入った箱を開けた。
「ポータルが開くとお兄様はお考えですか?」
「……なんでロザリー教徒が身を潜めてるかってそりゃあ助けを待ってるからだろ。
この街でいくら潜伏したって奴らにとっちゃ無意味だ。早いとこ帰りたいだろ。奴らの帰る方法と言えばポータルしかない」
「なるほど」
「で、いま圏内に常設のポータルは1つ。動きはないけどね」
シヒロが付け加える。
「それを監視してるわけですね、さすがですお兄様」
「いいや。そこはどうでもいい。動くとしたら特別に創られるポータルだな。
常設を使うなんて奴らはしない」
簡単なことだ。彼ら――ロザリー教徒は無許可かつ違法にこの八華でニンゲンの拉致という犯罪行為をした。
そんな連中が堂々と誰もが使用する常設のポータルなど使わない。
そもそも常設だとは言え、使用には許可がいる。
犯罪者がパスポートもなしに飛行場に行って搭乗しようとしても空港で即拘束されるだろう。それと同じ。
だから、特別にピンポイントで創られるポータルを使う。
それが創造されるのを検知しようと待っているわけ。
「もし……この辺りでなかったら?」
「もう崖っぷちに追い込まれてる奴らは危ない橋でも渡らないと逃げ切る可能性なんてないからな。それならこの辺りだ」
自信満々に言うヒコ。その自信を裏付けるようにシヒロが、
「まあぶっちゃけ俺もヤバい時はこのへんまで逃げて隠れたりもしたからね」
「わかるわー、俺も俺も。てかこの街に逃げてきてすぐはこのへんに隠れ住んでたもん俺」
と、ファイヤーボールも続ける。
「このへん……というか八華芸大は聖地になってる。
そこを管轄するのは連盟の犯罪対策本部の奴らじゃないんだ。
この世界でもよくあるでしょ。ケーサツ内とかの部署や組織の違いみたいな」
シヒロがさらに続けながらタブレットを注視している。
つまりはそうゆうことだ。
管轄する組織同士のあーだこーだもあって本来聖地とか言って護られるべき重要な場所は逆に潜みやすい場所になってしまっていると。
「芸大って……私1週間後ぐらいからそこ通うんだけど……」
不安そうなミコ。
「よかったなー聖地デビューだな。聖なる大地に抱かれた不遇な王女! いいねー」
まるで他人事のヒコの言葉。
「お兄様……お話中失礼しますが……あのトラック……。おかしくないですか?」
カノンがゆっくりとフロントガラスの向こう側を指さす。
そこには……ボディもタイヤもホイールさえ真っ白のトラックが走っている。
どこを切っても真っ白。この白への拘り。
もはや狂ってると言ってもいい程。
つまりは、奴ら。
ロザリー教徒だ。
「なんで……トラック? 確かに怪しいな」
「なんでそんなトラックなんかで走ってんだ?」
「どっかに移動してるとか?」
「よし追うか」
「しかしながら……ここまであからさまな……確実にキリ様も気づくと思うのですが……」
その通りだ。
この白、高貴なるこの色への拘りによってロザリー教徒はキリ達スナッファーに見つかり追い込まれた。
それでもまだ拘る。狂気すら感じるがわざわざこんな真っ白なトラックで移動しなくてもいいはずだ。
すぐに追っ手、つまりはキリに見つかる。
「罠じゃね?」
スマホを見たままアレックスが笑う。
「リリス。キリちゃん達はいまどこ?」
「ヒコくん……。えっとねエットー、この通りを2キロ程行った先を走ってるょ。このまままっすぐ行けば……エンカウント」
わざわざそっちに!?
不可解だ。
だが、意図がまだわからない。
「追うしかねえか……」
と、ヒコはドーナツを頬張りながら呟く。
「じゃあ俺はこのへんのカフェでポータルの検知を続けるよ」
シヒロは言い終わる前にドアに手をかけている。
「あっじゃあ俺もこのへんでナンパでもしとくー」
とかわけのわからないことを言って追従するアレックス。
「……まあいいや。じゃあお前ら2人はこのへんにいろ。連絡は入れてくれよ」
白いトラックを追って走り出す赤いバン。
人知れず異世界同士の紅白戦。
その後方で緩やかにカーブを曲がり悪意を撒き散らす黒が迫る。




