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◢◤ TH eFLATLAND ◢◤悪党だらけの日本大都市で多元界戦争  作者: りんねりん
EPISODE 1::星の少ない街を王女は駆けるが悩みは尽きない
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006/GO TO HEAVEN

ミコが呆然としている間に、クルマは大通りから脇の小道へ。


そこからまた大通りへと戻り、急カーブしてUターン。さらに小道から小道へ……。



そんな風に、執拗なまでの走行を繰り返す。



「……ってか、マジでよく眠れるわね」



「お兄様にとっては、なんてことないことですから」



「あっ、そう、ですか……。あの、なんでヘブンに?」



「おやすみにならないのであれば、順を追って説明を少々しましょうか?」



「え? いま!? この状況で!?」



「ええ」



不思議そうにミコを見つめ返すカノン。


このオンナも、感覚が相当に麻痺している。



会話するのもままならない状況での説明――それでも、早く事情を聞きたいという気持ちもミコにはあった。



わけも分からず見知らぬ人のクルマに乗せられ、ヘブンと呼ばれる悪名高い街へ連れていかれる。


それってもう、立派な拉致被害と同じなのだから。



いろいろな諸事情で犯罪件数の多いこの街の中でも、その割合を大きく占めるのが、この「ヘブン」という地域だった。



「わ、わかった。じゃあお願い」



「はい」



ギュギュギュッ。


左への急カーブ。シートに身体が強く押し付けられる。



「ミコ様は、**グランルード**と呼ばれる世界において絶対的に君臨する王家筋、つまり王女であるという話は、先程一緒にいた『スカしたナルシズムだけが取り柄の男』に聞かされましたね」



「は? ええ、まあ、はい」



聞かされてはいるが、ミコ自身が理解しているわけではない。


話が荒唐無稽すぎて、どう答えていいかさえわからないのだ。



「ぐ、**グランルード**って……なに? なんか上位世界とか言ってたけど……何がなにやら」



「この世界と繋がっている数多の異なる世界。異世界の者達はそれを総称してマルチヴァースとか多元界などと呼びますが、それを統治している、と思い込んでいる上位世界です」



カノンは即答して時計を見た。 0時28分。



そしてすぐにミコに視線を移す。



「記憶は、まだ戻らないのですね。時間差があるのか……。まあいいでしょう」



ため息混じり。 どこか残念そうな雰囲気だ。



勝手に落胆されても……と、ミコの胸の奥がキリキリと痛む。



「前方、犬です! いや、オオカミか……? でかい!」



運転手が叫んだ。



フロントガラスの向こう側。


確かに、犬らしきモノがこちらに向かってきている。



そして、デカイ。 見る間に近づいてきて、目前で飛び上がる犬。


一瞬見えたその姿は、2メートルはありそうだった。



「……普通の犬ではなさそうですね」



カノンが小さく呟くと、クルマの上部で爆音のような衝撃音がした。


犬が屋根の上に乗っている。



蛇行しながら猛スピードで走る車上に乗っているだけでも凄まじいが、そこからさらに攻撃を加えてきている。



カノンがゆっくりとウィンドウを開ける。


ドレスの裾を捲り上げると、その太ももにはピストルが備え付けられていた。



峰不二子的な、アレだ。



「え……えええ……!?」



驚愕と恐怖で青ざめるミコ。


お構いなしに、カノンは窓の外に上半身を投げ出し、車上へと発砲した。



もう、街中でこんなことが起きるのは立派な事件だ。 ミコはアワアワと取り乱す。



「落ち着いてください、ミコ様。すぐ済みますから。話の続きが気になるでしょうが」



「いやいや、そんなのいまいいからーー!」



「え? いいんですか? 続き、気にならないのですか?」



「そういうい……」



ミコが蒼白になってツッコミを入れようとした矢先、カノンに巨大な犬が襲いかかる。


牙を剥いた大口。深緑色のヨダレを撒き散らしている。



噛まれたら、骨まで砕けそうだ。


そして――カノンは噛まれていた。



「いやああああああ〜〜!」



ミコの叫びに、鈍く低い金属音が混じる。 後ろに吹き飛んでいく犬の影。



カノンは、犬の口の中に手を突っ込んだまま発砲し、見事に吹き飛ばしたのだ。


腕に少々の傷。だが、流れる血などカノンは気にも留めない。



「ジタバタと動き回る犬をおとなしくさせるなら、噛ませるのが一番です。


覚えておいてくださいね」



拳銃をしまいながら、しれっと言うカノン。



――いやいや、覚えといても使う時ないでしょ!?


てかそんな時は来て欲しくないです!



ミコはガクガクと震えていた。 なにこれ? 映画の撮影かなにか?



「まずいっすね。犬、増えました。追ってきます」



振り返ると、猛スピードで三匹の犬が走ってきている。


さっきと同じぐらいの大きさ。もう追いつかれそうだ。



その時、一匹が跳ね上がり、そのまま空中で変化した。 ヒトガタへ。まさに人の形。 頭部は犬のままだが、それもゆっくりと人の顔へと変わっていく。



「んなあああああ〜〜」



ミコが変な声を発して窓に頭をぶつける。


ヒトガタになった犬は、ガッチリとドアを掴んでいる。



「振り落とせます?」



カノンは冷静だ。


運転席からの返答は――



「穴です!」



声がカットインする。まったく関係ない答えだ。



「穴……?」



目を若干細めて、カノンは前方を凝視した。



ヘッドライトに照らされるアスファルト。


前を走るクルマもなく、閉まったショップのライトや街灯が煌めいている。



いやいやいやいや、穴ってなんだよぉぉ! 激しく揺れる車内で頭を抱えるミコ。



犬の次は穴!? この街の道路に穴!?



まあ、もっと言えば、今日はずっと深い穴に落ちていっているような気分だ、自分は。


まだ落ちている。落ち続けている。


一体どこまで深い穴なのか……一瞬、妄想に耽りそうになるが。



――リアルを見よう。穴だ。穴なんだ。



もうこの世界は、自分の知る世界とはすでに違っているのかもしれない。 そんな戸惑いを感じながらも、その「穴」へとまっしぐらに、フルスロットルで突き進んでいくだけだ。



それにしても……穴? その穴はどこに? 同じように前方を凝視していたミコは、不思議に思った。



見通しはいい。どこにも穴なんて……。



そう思った瞬間。


前方に、黒く澱んだ球体。


その周囲には、深い紫の光がバチバチとスパークするように点滅している。



さらによく見ると、その球体から両側に伸びるようにして出ているのは……脚?


どデカイ、人の脚? ゆうに10メートルはある。なんのモニュメントだろうか。



クルマが近づくにつれ、球体の上に、鈍く照らされた「女体」のようなものが浮かび上がる。



巨乳だ。柔肌に二つ、ぽっこりと山のように。 つまりは、そのまんまの姿。



深夜の大通りの真ん中に、巨大な女体。 ビルの谷間に、巨大な裸の女。 そしてその股の部分が……**穴**だ。



もう、目眩しかしない。

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