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◢◤ TH eFLATLAND ◢◤悪党だらけの日本大都市で多元界戦争  作者: りんねりん
EPISODE 1::星の少ない街を王女は駆けるが悩みは尽きない
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005/戦争は絶対に終わらせない

「言っただろ……どこにいても見つけるって。さっ、行くぞ」



爆音と共に舞い降りた男、**ヒコ**はそう言った。ちょっとぶっきらぼうに。 グイっと強引に手を引っ張られるミコ。



グリッスルの柔らかい物腰とは真逆だ。



「はっ! 戦争を終わらせてたまるかっつうの」



「え?」



「絶対終わらせねえ」



ヒコはグリッスルと、本当に真逆だった。



――戦争を終わらせない?


――あれ? この人、正義のヒーローじゃなくて……ひょっとして悪人?



「ヒコ……この忌まわしき落胤がぁ!」



グリッスルが煙の中から現れた。そこに先程までの微笑みは、ない。


目の前の部屋が歪む。ぐにゃりと、まるで溶けた飴のように。



「離れんなよ」



そう言うと、ヒコはミコの身体を抱き上げた。いわゆるお姫様抱っこだ。



――まさかこんなところで、こんな状況でされるなんて!



密かに夢見ていたことが突発的に叶う。


いや、叶うというよりは「これは無効」にしよう、とミコは心の中で無理やり納得した。



**「んあえ!?」**



内臓がキューーーーーッとなる感覚。それがミコを突き上げてくる。


景色の中を、光の筋だけが過ぎ去っていく。



**ドゥオン!!**



轟音が響き、次に衝撃が全身を貫く。



「なななななっ……!」



間違いない。あの部屋の窓から飛び降りたんだ。 何階ぐらいからだ? 少なくとも……10階ぐらいはあったはずだ。ミコの身体はガタガタと震えていた。



視線を落とすと、見事に潰れた自動車の上にいた。



「な、なんてことを……っていうかなんなの? マジで? なんでこんなことが続くのよ!」



誰にともなく喚き出すミコ。



「誕生日だからなっ」



潰れたクルマの上で、血まみれで転がる男――ヒコ。


そういえば、自分はなんだかんだ無傷だ、とミコは自身の身体を見渡して確認する。



――まさか、守ってくれたの?



でも……。



「さって、戦争を始めるぞ」



こんなことを言う奴だ。一体何を信じればいいのだろうか。



「そして18歳、おめでとう、アタシ……」



小さくミコは呟いて、涙を拭いた。



そのまま、流した涙も乾く暇なく、横付けされたクルマに押し込まれた。


落下してから、わずか15秒後の出来事だった。



「ごきげんよう、ミコ様」



「……ご、ごき……ごき? え? は、はあ」



「ゴキ」とか繰り返したから、思わずあの黒光りする生命体が一瞬頭をよぎるが、


すぐに振り払うミコ。 車内に入って、息をつく暇もなく、また新たな出会いだ。



クルマはもうとっくに走り出している。



横に、一見優雅に佇むように座る女性が無表情で前を見たまま言った。



「ごきげんよう」



全然ごきげんなんか良くないミコからすれば、


「何を言ってるんだ」という話だ。 それ以前に、彼女は誰なのか。



「ご安心ください。お兄様は無事です」



女性の次の言葉。



――お兄様?



ミコは首を少し傾げながら、ふと後ろを見る。 そこには、特別製のベッドシートに横たわるヒコの姿があった。



傷だらけで血まみれ。 見た感じ、全く無事ではない。 むしろ瀕死だ。悲壮感もミックスされている。



その姿は、まるでゾンビ。 「ぶほっ」とか言って血を噴いている。



それを見て、ミコが震える脚に視線を落とすと、膝にもスカートにも血がついていた。 自分の身体に怪我がないことを確認する。……きっと、これはヒコの血なんだろう。



「あ、あの……」



「ああ、私は**カノン**と申します。以後お見知りおきを」



ミコが聞きたかったのはそれではないが、女性はカノンと名乗った。


なんだか名前の響きに合っている風貌だ。



凛々しく、座っていても背が高いのだとわかる。スラリと細く、しなやかだ。


髪はゆるふわな巻き髪。肩よりも少し長く、とても女性らしく、艶やか。


無表情なのが台無しにしているけれど、きっと微笑んだらそれだけで惚れてしまう人が続出するだろう、という印象だ。



まあ、でも、なぜドレスを着ているのだろう、という疑問も残る。


ミコにとっては、次から次に「はじめまして」の者に出会う日だと改めて思う。


覚えるのが大変だ。ミコの脆弱な記憶容量にとって、今日の出来事は大きすぎる。



「あの、ですねー……」



「ご両親なら大丈夫ですよ。こんな時間になりましたが……。


心配などしていません。そもそも本当の両親でもありませんし」



「そんなこと心配してませんし、追い打ちかけるようなこと言わなくていいです!」



「ああ、そうでしたね。朝帰りも度々繰り返すような人でしたね、ミコ様は。


夜な夜な、金銭と引き換えに見知らぬ男性にその身体を預けるような……」



「いや、エンコーとかしてませんし、そういうこと聞きたいんじゃないですし!」



噛み合わない。ズレている。 ズレたまま、クルマは走り続ける。 ズレるついでに、シートからもずり落ちそうになるミコ。



「お兄様なら、この程度の傷、1日もすれば綺麗に治ります。素晴らしいでしょう? お兄様は」



それも聞いていないが、カノンがなにやら恍惚の表情になっているので、そっとしておくことにした。


しかし……1日で綺麗に治る?


有り得ない、とっさにまた後ろを振り返るミコ。



上半身裸のヒコ。 左肩から胸元にかけて、深い傷がある。


血は固まって黒っぽくなっているが……どう見えても1日で治るようなものではない。


だが、ヒコからは高いいびきが聞こえ始めた。


「むにゃむにゃ」言っている。 美味しいものでも食べている夢を見ているのだろうか。



「それであの、私はどこに攫われていくのでしょう?」



ミコが隣のカノンを見てそう言ったところで――。



**キィィィィッ!!**



ブレーキ音が響き、車体が左右に大きく揺れる。 急激な車線変更で、また揺れる。



蛇行して走るこのクルマは、シボレー・サバーバン。派手な赤だ。


自動車に詳しくないミコはシンプルに「デカイ車」という感想を持ったが、そのデカイ車が右へ左へ。


ちょっと吐きそうになるが、吐いている暇さえない状態だ。



「追っ手が意外と粘りますね。まあ、それも**ヘブン**に入れば終わるでしょうが」



カノンがまた無表情になって、ポツリと呟いた。



「へ、ヘブン!? ヘブンってあの、み、南……南区のヘブンに向かってるんですか? これ」



「大丈夫です。到着まで少しあります。今のうちに休まれては?」



「いや、休めるような運転じゃないでしょ、これ……。それに、ヘブンって……」



と言いつつ、ミコは後ろのシートに目をやる。不安が高まる。


ミコが悲鳴にも似た声を上げて驚くのも無理はない。



この**八華(はっか)都市**の最大の繁華街は南区にある。


いくつかのエリアに跨る繁華街の中でも、


特に夜を彩り、最も賑わいを見せるのが通称「ヘブン」と呼ばれる地域だ。



多種多様な人間が享楽に明け暮れる歓楽街の連なり。


悪い噂も絶えない場所。


「なんでも手に入り、なんでも奪われる街」とも言われていたりする。



そんなところを一直線に目指し、さらに「そこに行けば安心だ」なんて言えるのは、ただの一般人ではない証拠だ。 今からオールナイトで遊びに行くわけでもないのだから。



そして、夜はまだ続く。

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