055/街
ユールフォルス・ロザリー教徒が八華都市でニンゲンを拉致している。
その情報を多元界連盟は事実として捉えていた。
が、それを掴んでからすでに1週間。未だなにも手を打てていない。
犯罪対策本部がすることもこの事案の裏取りと調査のみ。
裏取り? すでに取れている。
だけど調査を継続している。
なんせ相手はロザリー教だ。
関わるとだいたいはグランルードに繋がる。
だから下手に動けない。
それでもそんな多元界の事情なんて八華にとっては関係ない。むしろ知らない。
街賊にとってはさらにお構い無しだ。
特に自分達に被害が及ぶなら相手が誰でも動くだけ。
そうゆうこと。単純明快。
で、いま、八華の南東エリアでまさに動き出そうとしている。
南東エリアはいわゆるハイソサエティでハイブランドな街。
文字通り海外のハイブランドの店が並ぶ通りや有名企業のビルが乱立するオフィス街、そのビジネスマン目当ての居酒屋とはまた違ったダイニングや高級志向のバーやカフェも軒を連ねる。
会員制のクラブやジムも多い。
八華都市の悪名高い街、ヘブンズのようないかがわしい雰囲気はない。
だから街賊には似つかわしくない街ではあるが、それを好んでナワバリにしている者もいる。
それが、キリ。スナッファーだ。
理由は簡単。金になる。それも莫大な。
この街の獲物は単価が高い。
それに悪巧みに出資するやつだっている。
非合法な商品も高値で売れる。
キリにとっては最高の場所。
そんな街の中心部にある10階建てのオフィスビル。
高層ビルが建ち並ぶエリアにしては見劣りする高さではあるけど立派な造りのビルのガラスには夕陽が反射している。
通称――宝島。
キリの持ちビルだ。
全フロアに悪党が巣食う。
「……また2名程行方不明……っすね。昨日から所在が……」
その言葉にキリは軽く舌打ち。
「これでうちのチームで5名です。南東エリアで言えばもう30はいってるかと……」
さらに舌打ちだ。
最初の行方不明者が出てからこの1週間程で街の行方不明者が急増している。
キリが率いるスナッファーがホームとして統括している南東エリアだけで30名程の、特に若者層が消えた。
最初はどこかの街賊かケチな悪党が拉致でもして悪巧みをしていると放っておいたがスナッファーのメンバーもその行方不明者に数えられてくるとさすがに状況が変わる。
しかももうそれが5名。
最初は冗談めかして気にしてない素振りをしてもこれでは笑えない。
目的も、一体街で何が起きているのかもわからないから苛立つ。
街の裏も表も知り尽くす、自分の街だからと。
それがキリという男。
「よし、警戒レベルを引き上げて監視も強化だ。
南東エリアを全員でパトれ。怪しい奴は片っ端から引っ張れ。そいつが誰であろうとボコれ。で、そいつの画像や情報はこっちに送れ。あとはー……キイチを呼べ」
キリがタバコを揉み消しながら指示。
動くならスピーディーに。一気に。全力で。
それが一番効果的で見栄えもいい。
「俺ならいるけど?」
エレベーターを降りて颯爽と現れる男。
黒いパーカーのフードを被って少し見える髪の毛はウェービー。
顔つきは笑顔。なんだかどこにでもいるような大学生って風貌だが、まあ実際芸大生だ。
この男が、
「あっキイチ君。早いね」
「ちーす、キイチ君」
「ちっすーキイチくーん」
キイチという男。キリの腹心。
屈託なくハイタッチや声掛けをしながらキリの下へと近づく。
「いいタイミングだな。で、何かわかったか?」
タバコに火をつけながらキリ。
それに対してレイジは小さな冷蔵庫から缶ビールを取りながら、
「どれのこと? 調べてることが多すぎて」
と、笑顔で答える。
「……緊急性が高いやつからだ」
「うん、まあわかってる。じゃあ……行方不明者の件だね。
これはまず間違いなく拉致されてる。無差別に」
「誰が?」
「それはいま調べてる」
「相手が分からないのに拉致か?」
「分からないんじゃない。 目的や背後を洗ってるだけ。
誰かっていうのは……例の全身白の連中だ」
「まあ……そうだろうな」
その答えに行き着くのは簡単だ。調べるまでもない。突如現れた怪しい連中。
「ただまあ背後がわからないから今は動かない方がいい」
「……決めるのは俺だ」
「うん。俺はあくまでも助言しただけだよ。何? いつにも増して苛立ってるけど」
「なんでもねえよ」
「じゃあ次はー……キリ君が気になってるだろうことを……」
「あ?」
「なんでスレッジハンマーズなんていう筋肉ダルマの武闘派がアッサリヤラれたか」
「あんなもん潰すのはわけねえよ」
「まあまあ。面白いから聞いてよ」
キイチはキリの苛立ちなど何処吹く風で笑顔。
「スレッジハンマーズの頭。キュウタとタイマン張り出したのは……」
キイチが一呼吸。
確かにスレッジハンマーズなんて軽く潰せるとは言え、キュウタは相当の強さだ。
普通にやり合うならスナッファー内に勝てる奴なんていないだろう。
キリだって負ける。
フツウにやり合うならね。
それをサシでやり合って倒す奴なんて。
まあセディショナリーズ側には一応アレックスがいる。
本人はセディショナリーズのメンバーじゃないと言い張るがヒコとの関係性は磐石だ。
頼まれたらキュウタともやり合うだろう。
アイツなら……倒せそうだ。
と、キリはその答えを予想する、が。
「女子高生だ」
キイチから発せられる意外な言葉。
「は?」
「だからじょしこーせー」
いやいや武闘派集団のトップが女子高生に負けた? 有り得ない。
いや、ゼロではないが……何者だ? そいつは。
「それがヒコの妹だ」
さらに衝撃の言葉。
「妹? ヒコの? ヒコに妹? 弟じゃなくてか?」
「それはカノンだろ」
そうだ。だが子供の頃から知っているキリにとってヒコに妹なんていないのは知っている。
弟しかいない。その弟がいつの間にか妹になり切ってはいるけど。
「最近現れたみたいだね」
最近。
なるほど。
ここ最近、セディショナリーズがその動きを活発化させてるのと関係があるのか?
あのヒコの妹。隠されていた存在?
「……だけどキュウタを最終的に倒したのはその妹じゃない」
「なんだ? 次は姉登場とか言うなよ」
「正体はわからない。どこの誰かも。男だ。
いきなり現れてその妹を助けあっさりキュウタを倒したらしい」
あっさり?
どんだけ強い奴なんだ。
どちらにしろ……セディショナリーズのチカラが増しているということ。
結局、スレッジハンマーズもセディショナリーズに取り込まれた。
少し前にはラストリゾートもだ。
南部の勢力図が塗り変わっていく。
それでもキリに焦りはない。
勝手に塗り替えていけばいい。
その気になれば纏めて潰せる。それぐらいのチカラはある。余裕。
だけど得体の知れない白い奴らが好き勝手やってるのは気に入らない。
「……よし。じゃあその白い奴ら。見つけ次第連れてこい。そこからだ」
気に入らない者は徹底的に潰す。
ここはキリの街だ。




