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047/筋肉は直感を信じる

スレッジハンマーズは、馬鹿である。

南部地域最強だとか一番の武闘派だとか、生粋の戦闘集団だとか色々と言われている。

そのどれもが本当だ。


だけど、スレッジハンマーズは馬鹿である。

この事実が変わることはない。


「セディショナリーズがうちに宣戦布告してます!」


八華都市《はっかとし》・ミナミ2区アオゾラ町の複合スポーツ施設。

その建物の最上階がスレッジハンマーズのアジトだ。


ジムやプール、剣道柔道空手などの道場。

屋上にはフットサルコート、地下にはバスケットボールコートもある。

まさにスポーツマンが集まる建物である。

だが、まあフットサルはルール無用の荒くれ中世フットボールをする場所で、人工芝には血が滲んでいる。


で、この建物のすぐ隣のビル。なんてことない細長い小さなオフィスビルがターゲットである連盟公式ポータルになっている。

ここが世界の秘密。秘匿された港だ。


ここを押さえ多元界《たげんかい》のポータルを封鎖するために、ヒコ達セディショナリーズは攻め込む。


スレッジハンマーズ・リーダーのキュウタ。

久田(ヒサダ) 太一(タイチ)。愛称としてのキュウタ。

だけど誰も本名で呼ばずキュウタですべて通る。

もはや本人もそのフルネームを忘れ、自分の名前はキュウタだと思っている。

その程度に、馬鹿である。


キュウタはジムにて背筋を鍛えるマシンをやめて汗を拭く。

腕も脚もムキムキ。胸板はアツアツ。

首の太さも相当だ。

背丈は190cm。そこにゴッツゴツの岩のような筋肉が張り付いた褐色の肉体。

どこからどう見てもマッチョ。さらに金髪の坊主頭でイカつさも演出している。


「なんだって? なにか言ったか?」

首筋の汗を拭きながら、声がでかい。


「セディショナリーズが宣戦布告してきました!」

「……ほぉ! おお! 宣戦布告!? ほーー! セディショナリーズか!」

さらに大きくなる声。しかし何も大したことは言ってない。


「奴らいきなり宣戦布告してきましたよ! やべーっすよ!」

「おおー、いきなりか! そうか。セディショナリーズがな。宣戦布告をいきなりか!」

「そっすよ! まったくアイツらヤバスギ! 馬鹿すぎ!」

「そうだな。やばいな。まったく」


お互い中身のない言葉をテンション高めに言い合ってるだけで何も進まないが、それを咎める者も特にいないので汗が引くのをとりあえず待とう。

クールダウンついでに配信された動画を観る。


録画されたものだ。

画面を見つめるキュウタの目は輝いている。

自分に真っ向から挑んでくる相手。


スレッジハンマーズが大きくなってからは久しく味わっていない感覚だ。

だからこそ単純に興奮している。

いいじゃないか。面白い。


「全面戦争というわけだな」

「そうっすね。しかもタイマンとか言ってます」

「ますますいいじゃないか! よーしパンプアップだ!」

と気合一発、ベンチプレスを始める。


キュウタがこの調子なのでメンバーもだいたいこんな感じだ。

「セディショナリーズか。かなり危険な相手だな。あそこのリーダーの……ヒコ。アイツは特に有名だ。暴れまくってるようだしな。相手にとって不足なしだ!」

次は腕立てを高速で始める。


手下がプロテインを振りながら待っている。

「でも……これおかしくないっすか?」

配信された動画をもう一度見ながら、また別の手下が口にした。


「なにが?」

キュウタは腕立てをやめない。

「この、ヒコのそばにいる……高校生? このオンナが実はリーダーなんじゃないっすか? だって色々と指示出してますし……ここ! ヒコのこと叩いてますよ!」


キュウタも動画が流れるタブレットを覗き込む。

「……たしかにな」


スレッジハンマーズは武闘派であり肉体派であり、それ故に体育会系だ。

なのでリーダーに横からワーワー指示するなんてあり得ないし、ましてや宣戦布告という大事な場面で口を挟むなんてもってのほか。


さらにリーダーの頭を叩くなんて冗談だとしても切腹級である。

だから導き出した答えは、この女子高生は実はリーダーのヒコより偉い、というもの。

影のリーダー。大ボス。会長。裏番。なんでもいい。

とにかく本当のトップはこのオンナだ。

単純明快に結びつく。


「リーダーはヒコだと思わせておいて、本当はこのオンナがボスか!? なるほど、騙そうってわけだな」

両手にダンベルを持ちながら興奮しているキュウタ。


「ははっ! 見破ったぞ!」

と咆哮。


ちょっと考えればわかることだが、もちろんミコが影のリーダーなんてことはあり得ないし、だいたい影のリーダーだったらいちいち動画に映らないだろう。騙す気ならなおさらだ。


だけど、

スレッジハンマーズは馬鹿である。

そこまでは考えが及ばない。


見たものを見たまんま感じて信じる。

実直、明快、素直、よく言えばそうなる。

が、単細胞、馬鹿正直、思慮が浅いなんてふうにも言える。


「冴えてますねー! さすがキュウタさん!」

周りも持ち上げる。太鼓叩きまくり的だ。

ご満悦なキュウタはさらに続ける。


「はははっ。奴らもこれを見破られたとは思ってないだろ。先手必勝だ。こちらからこの真のリーダーをぶっ潰す!」

こうなったらもう手がつけられない。


身体中の全筋肉、全細胞が自身の考えを完全に信じ込んでいる。

人はそれを激しい思い込みと言うけれど。

だけど時にこの思い込みはとんでもないチカラを齎す。

それが間違いだったとしても関係ない。

全筋肉がそう言ってるんだから。

そして行動に移すのも早い。

そこにはなんの計算もない。

目標に向かって一直線。猪突猛進だ。


「よし、いいか!? 俺は真のリーダーがいるところに向かう。100程ついてこい! あとはこの街でセディショナリーズを迎えうて!」

キュウタが集まった幹部クラスのメンバーに指示を飛ばす。簡潔で勢いのある指示を。


小難しいことは言わない。というかまあ言えない、が正解だけど。


「その真のリーダーってのはどこにいるんすか? セディショナリーズの本隊と一緒じゃあないんですか?」

「お前馬鹿だな〜。今までずっと隠されてた裏の存在だぜ? そんなんが一緒に来るかよ。別で動いてるよ」

「馬鹿野郎! そんなのわかんねえだろ!」

とか幹部達が言い合いを始める。


「なんでもさっき入った情報だと、その真のリーダーはマジで高校生でいまその学校に行ってるらしいっすよ」

「よし」

そう言って少しニヤリと笑い、腕の筋肉をピクつかせるキュウタ。


「高校に行くぞ。まさか奴も学校で襲ってくるとは思わないだろ! 裏をかく!」

「おおー! 奴らが裏をついてきたので裏の裏っすね!」

「なに? 裏の裏は……表だろ?」

「え? いや、あれ? 裏の……」

「つまり表をかくというわけだな!」

「そうっす! さすがっす!」


スレッジハンマーズは、馬鹿である。

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