046/宣戦布告
スレッジハンマーズは武闘派だ。
群雄割拠の八華都市・街賊の、さらに熾烈な勢力争いが繰り広げられている南部地域にあって、一番の武闘派と呼ばれるほどの集団である。
総勢500人はいると言われ、その誰もが好戦的であり、戦いこそが至上、強さこそがすべてという戦闘民族のような奴らだ。
戦いの中でこそ輝き、死をも恐れない。 むしろ戦って死ねばヴァルハラに行けると信じているような、古きバイキングのような集団である。
もちろん、そんな北欧神話なんてスレッジハンマーズの連中は知らない。 北欧というものがあるのを知っているのかも怪しい。
つまり、
「奴らは脳みそまで筋肉だ」
と揶揄されるほどに、馬鹿だ。
馬鹿が暴力に明け暮れ、戦いに次ぐ戦いで、いつの間にやらそんなのばかりが集まり増えた。
武闘派。 むしろそこのみに特化していると言っても過言ではない。
八華南区ヘブンと呼ばれる大繁華街の東の端、南東区と接する辺りに位置するエリアをホームにしている。
同じ南区・通称ヘブンズエンドと呼ばれるセディショナリーズの本拠地の、すぐ隣の区域だ。
どちらにしろ、いずれはぶつかるであろう相手である。
「アイツら馬鹿だからタイマンしようぜーっつったら大将同士の戦いにもってけるだろ。で、勝つ。んで、お前やるな〜って言い合って仲間になる!」
と、ヒコが作戦を発表する。
「いやどう考えてもその作戦がすでに馬鹿でしょ!」
制服を着ながらミコは鏡越しにツッコんだ。
卒業式には出ない発言をしてから一夜明けて、やっぱり卒業式には出ておこうと思い直し、いま準備をしている朝である。
「それよりもなんで私の部屋でそんな話してんの? いま忙しいんだけど」
「何言ってんだよ。ここは俺のホテルだぞ? お前の部屋も俺の部屋みたいなもんだ」
ヤレヤレといったジェスチャー混じりにフライドチキンを頬張っているヒコ。
しかしいつ見ても食べているな、とヒコに対して改めて思うミコである。
魂塊を奪って1人で使うなら向こう5年は事足りるくらいの量を手に入れたのだから、それを使えばいいのに、とも思う。
まあ普通の食事でも栄養摂取できるのなら別にいいのか……。
「……って、着替え中もいるとかおかしいでしょ!」
「別にお前の裸とか見てねえよ。興味ないし。妹だぞ?」
「お兄様。私が脱ぎましょうか?」
「いや、カノンのはもっと興味ない。脱いだら俺と変わんないだろ」
「お兄様の肉体美には叶いません」
とか言って笑い合う。なんだこのブラザーは。
「いやーしっかしミコミコ。お前急に卒業式出るとか言い出してさー。ビックリだよ」
「……出席とかマジいらないからね」
冷ややかな目で見返し拒絶するミコ。ここで負けてはいけない。
けど、
「ああ、ごめんな。残念だけど出席はできそうにないわ。まあ大学の入学式は盛大にしてやるから……今日は……兄ちゃんの胸で泣いていいんだよ」
とか言いながら腕を広げてハグを促している。
そこにカノンが抱きつきにいく。
「いやカノン。お前じゃねえし。……まあいいや。よしよし」
とカノンの頭を撫でるヒコ。 だからなんなのだ、この兄弟は。
「お兄様は今から戦場へと向かわれますので」
キリリとした表情でそう告げるカノン。
「戦場は、南2区。青空町ですね」
そこがこれから戦う相手、スレッジハンマーズの本拠地であり、ターゲットとしているポータルがある場所だ。
「アオゾラ町? え? ほんとに?」
驚いた声を上げたのはミコ。
「ああ」
「……アオゾラ町って……私の高校あるとこなんだけど」
「へえ〜〜〜↗そうなんだぁ。それは奇遇だな〜」
と言ってるヒコだが、明らかに笑いを堪えながら目をわざとらしく泳がせている。
「知ってたでしょ」
「まあお前のことも心配だから近いほうが便利だわなーって」
まったく、どこまでも迷惑というか、何かと絡んでくるなあと思いながらも、そこは割り切るミコ。
もうなにを言ったって仕方ない。 それで何かを変える奴らじゃない。
それに本当に心配してくれているのも確かだ。それは真実だ。
どこか感謝もしている。口に出したら調子に乗るだろうから言わないけど。
「ま、お前は卒業式。俺らは戦争。お互いいい日にしようぜ」
いい日。 ってなんだ?
卒業して人生の旅立ちをしていく日。 それをいい日にしたいのはわかる。
で、戦争? それをいい日に。
何を言ってるんだとも思うが、ひとまず作り笑顔で答えるミコ。
それにしても、もういきなり行動開始なんてスピーディーな話だが、
「だからアイツらは脳みそまで筋肉だからさー」
ということで、そこまでの駆け引きや情報戦、細かな罠の仕掛け合いなんていらない。
ドカーンと攻め込みバコーンとやるだけ。
というか、よくそんな単純なクルーがこの生き馬の目を抜く街賊の世界で勢力を拡大させてきたとも思うが、逆に言えば下手な小細工なんてなくても、その溢れんばかりの武の強さだけでここまで来たということでもある。
「頭数はラストリゾートが加わったのでほぼ同数となります」
カノンが気合を入れようと少しばかり肩を回した。
「ああー……ラストリゾートくそ弱いけどね、ケンカは。あれ数にいれちゃだめだろ……。シヒロまだ寝込んでんの?」
「熱はだいぶ下がったようですが、3日ほどうなされてましたのでゲッソリしております」
新加入のシヒロ率いるラストリゾートは、言ってみればスレッジハンマーズの真逆。
武の強みは皆無と言っていい。 要は若干圧され気味なのはセディショナリーズの方なんだけども。
『ヒコ君……宣戦布告のグラフィティー完了したょ』
部屋中に響くスイートボイス。 リリスからの報告。
壁に映し出される、グラフィティー。様々な壁なんかに描かれているもの。中には何が描いてあるのかわからないものもあるが、すべてに赤い髑髏が入っている。
「宣戦布告……グラフィティー?」
ミコが首を傾げる。
「街賊のルールとして最初期にできたもののひとつです」
街賊の戦い方は様々だ。そして流動的。
騙し討ちや闇討ち、罠にかけたり駆け引きで出し抜いたり……。
勝てばすべてを得られる。負ければそれで終わり。
どんなやり方だって構わない。
だけどあえて宣戦布告を行ってから戦争に入るという場合もある。
主にもはや策を講じて騙し合いをするような段階が過ぎ去り、お互いの全力をぶつけ合うしか方法が残ってないような、全面的に衝突するような、そう、全面戦争に突入した時に出される流儀。
自分達のホームタウンと相手のホームタウンの主要な場所に、宣戦布告を意味するグラフィティーが描かれる。
そして街に髑髏の旗が掲げられる。
これが本来までの宣戦布告。
最近はそこから、
「じゃあ動画配信しちゃいますかっ」
というように、トドメのリーダー自らによる宣戦布告の動画配信までがセットになっている。
グラフィティーや旗だけじゃイタズラか、他の第三者の罠なのかわからない。 それらを確定的なものにするために始まったのが動画配信。
『いつでも……いいょ』
リリスがそう言うと、小型ドローン・通称ミツバチが飛び出した。これで撮るということ。
「おし、じゃあやるかー。んんーーっと……」
「ちょちょちょ待って! ここで? え? いま? 私も映ってるんだけど!? そんな軽いノリなの?」
ミコが慌ててアワアワ。 部屋中を右往左往している。
が、
『もう流れてるよ……』
「いやいや、一回止めよう! なんで流してんの? おかしいでしょーーがー!」
喚きながらヒコを平手で叩く。
「いてえな。ちょっ……ああ、とにかくだ。スレッジハンマーズに対して俺達セディショナリーズはぁ」
「だからなんで進めてんの? 待てって言ってるでしょうが!」
『こんな途中で……止めたら余計変だし……ナメられるだけだし……』
やけにボリュームの上がったリリスの声が反響。
「わかったから。落ち着いて。チャッチャッと済ますからよ」
「チャッチャッとかって問題じゃないから! ああーもう! だったら早くして!」
「え? あーうん……ええーっと。だからスレッジハンマーズに俺らセディショナリーズは宣戦布告する。 全面的にやり合う、んでアレだ。トップの……キュウタだっけ? にげずに出てこいよ。タイマン張ろうぜ〜〜はははーっ」
雑な宣戦布告だ。 これが本当に宣戦布告かも怪しい。
こんなんでいいのかとも思うが、どうせこの動画配信はグラフィティーや掲げられた旗といった、すでに公式に出された宣戦布告が本物だよという補足程度のもの。だから真偽がわかればそれでいい。
だけど、これで街中に、まあネットに乗ってるので世界中に配信された。
そして世界中と言えば……つまりは多元界の知るところにもなったということだ。




