045/戦争のやり方 狼と豚MIX
戦争?
戦争の只中でも日常は続く。
魂塊強奪から3日。
また日常の中にある。
「ああ~ミコよ、ちょっとそこ座りなさい」
ホテル・ヘブンの食堂でヒコが低い声を出す。
ミコはチョコレートケーキのホール6号を抱え込むようにして歩いていた。
唇を尖らせて渋々座るミコ。
「しょうがないから4分の1あげるょ」
「ケーキの事はどうでもいいよ。
そんなケーキいくらでも食えるからな。てかもっと美味いケーキあるんだよ。
前の通り行ったとこにさー左手にピンクの看板出してるケーキ屋知ってる? あそこのモンブランまじで美味いから」
「お兄様、話を戻しましょう」
カノンの横槍。
「え? おおーええっと、なんの話しようと思ったんだっけな」
「ミコ様の卒業式の件です」
カノンの言葉にヒコは「ああ」と手を叩き、ミコは気まずそうに眼を逸らす。
「ミコ、お前も遂に高校を無事卒業となったわけだ。この3年間、よく学びよく遊び本当に充実した高校生活を送ったことだろうな。俺も嬉しいよ」
「出会って1ヶ月も経ってないけどね」
普通の感覚からしたらそりゃ当たり前の反応だ。
手からパチパチと紫色の光を出して弾けている。
もちろん静電気じゃない。
ミコが自らの意思でそのチカラを発動させコントロールしている。
覚醒にはほど遠い微々たるチカラだが、今までのように無意識でやってるわけじゃない。大きな前進。本人が望む望まないに関わらず。
これからますますチカラは大きくなっていくだろう。
否が応でも戦争の中心となっていく。
そんなミコに愛おしさすら感じるヒコ。
いよいよ本格的に動く時が来たということだ。
「ってことで、ここからマジでやっていくので……当面の作戦を伝える」
ヒコがそばにあったコーヒーを飲み干して告げる。
カノンは姿勢を正した。
リリスはどこかで聞いてるんだろう。
アレックスはいない。
代わりにファイヤーボールがニコニコしている。
というか、これだけ?
もっと大勢の前で伝えるべきじゃないのか? とも思うが事が事だ。
多元界絡み。
すべてのメンバーにはまだ告げられないということ。
「この街を俺達の手に取り戻しグランルード……をはじめとした多元界をぶっ潰すために……」
そこまで言ってからラーメンをすする。
食べるか話すかどっちかにしろよとミコは思うが、ここは黙っておく。ケーキ美味しいし。
「多元界がこの街と繋がり、奴らがここを経由して行き来しているからこそ奴らの世界は成り立ってる。ってことは……この街を俺達が制圧してしまえば奴らは満足に動けない」
ヒコが言うとおり、この街を経由して繋がっているということは多元界にとってこの街はすべての起点になるとも言える。
そこを自由にさせなければ多元界の動き自体を封じることができる。
簡単な話だ。
すべての物流や交流、政治的経済的文化的繋がりが滞る。
まるで血液が凍っていくようにその流れが止まる。
地球世界で考えてもそんなことになれば現代社会においては致命的なことになるだろう。
「そんなことが可能なのですか?」
「おいおいー。カノン、大丈夫か? 奴らは何で移動してるんだ?」
「ポータル……ですね」
「そうだ。連盟が認可している世界を繋ぐポータル。街中に紛れさせているこのポータル。それをぶっ潰せばいい」
至極シンプル。
港を破壊すれば船は往航できない。
この世界の戦争紛争でもよくやる手だ。
海峡の封鎖や主要な交通機関の制圧。
これで相手の手を封じる。
利にかなった作戦。
だが、
「ポータルっていくつあるのですか?」
その数や規模が問題だ。
「んー連盟が把握して使用を許可しているモノで18。イリーガルなモノを入れれば……30か50か。まあ把握できてないモノもあるだろうから定かじゃねえや」
「そんなに……」
「イリーガルは気にすることない。一般の多元界人は知らないし使う奴らも限られてる。
だいたい使うこと自体犯罪だからな。
大っぴらにはできねえ。だからそれが多元界間の移動ポータルの主流になることはない」
不法違法に移動するためのポータルだ。
数があろうがメインにはならないということ。
「そもそもポータルって潰せるのですか?」
「ポータルを創れるのも潰せるのもグランルードの王族だけだ」
つまりは普通は破壊できない。
「ま、もっとも俺には元からそのチカラはないし、チカラを持ってるミコもいまのとこそこまでは無理だな」
ということは、この作戦はそもそも発動できないが、
「だもんでとりあえず封じる。封印よ封印。このホテルでも多元界のチカラを一部を除いて封じてる。それを応用する」
いまできる現実的な方法がコレ。
「そしてそれを可能にする男が! そう! ラストリゾートのシヒロだぁ!」
と、大げさな身振りと大声。
ミコがビックリしてフォークからケーキを落とす。
「……ええ、シヒロは……このあいだお兄様にヤラれてから熱が出てまだ寝込んでおります」
カノンの冷静な報告。
「よっわ! え? よっわ!!」
ヒコが思わず驚く。
「しょうがないよー。ユールフォルス世界の少数民族なら。アイツら超絶弱いもん。でも頭はいいし手先も器用だからね」
ファイヤーボールがフォロー。
「まあ……いいや。元気になったらやってもらおう。さて……じゃあ手始めに攻めるのは……」
気を取り直すヒコ。カノンの姿勢がさらに良くなる。
「八華都市南部方面一番の武闘派集団、スレッジハンマーズの皆さんの本拠地だっ」




