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# 043/混ぜるな危険もやってみると意外とイケてる2人

カノンのナギナタ捌きは達人級だ。

長さを感じさせない切り返し、スピード感。繰り出される手数も多い。


空を切り裂く音から、その剣圧の高さも伺える。

が、アレックスは飄々とすべてを避ける。ニコニコ顔で。

これはアレックスが本当に本気を出しているということでもある。


「おいおい〜カノン〜。お前さ〜俺には敵わないのわかってるっしょー? 無駄じゃない?」


そう。カノンはわかっている。 アレックスには敵わないことぐらい。

わかっているからこそ……ナギナタを投げた。

アレックスめがけて一直線。そんなものは軽々と避けられる。


当たり前だ。渾身の一振りさえ躱すアレックスに、こんな直線的で直情的な攻撃が通じるわけがない。

けど、この意外性を利用する。 実際アレックスは少しばかり驚いている。まさかナギナタを投げるとは、と。


そこでできた僅かな隙。これを狙っていた。

バサリ……とアレックスを覆う布。視界と動きを封じる。


「え? ちょっなに?」

何が起きたかわからなくなり、さすがのアレックスも余裕ではいられない。


「覚悟です」

小さくそう言うと、バタついているアレックスの後ろに回り込み、首根っこを掴むカノン。

見ると、カノンは裸だ。いや正確には下着姿。ブラとショーツ。水色のレースをあしらった可愛らしい下着を顕にしている。


アレックスを覆っているのはカノンのドレスだった。

できた隙に一気にドレスを脱ぎ、それをさらにアレックスへと被せる。最速のスピードで展開した作戦。


すべては――リリスに賭けるため。

自分の耳からイヤホンを取り、アレックスの両耳にねじ込む。


そこでカノンはアレックスに思いっきり投げ飛ばされた。下着姿の恥ずかしい格好のまま床を滑っていく。


「て、テメ……カノン」

と、頭から覆いかぶさるカノンのドレスに手をかけた時、

『聞いて! アレックス!! リリスの声を!!』

甘い、でも棘があって、神経を逆なでするけど、柔らかいその声。


「あぁ? リリス!? なんだよいま……」

『ずっとずっと聞いてて! 貴方、目の前のカノンをぶっ飛ばして、それでヒコ君も悲しませるの?』

「はぁ? なんの話だよ。だいたいお前……」


そこで口を噤むアレックス。


――なんだろう。妙な違和感。いや、今までがその違和感の中にいたような感覚。

リリスの声がよく聞こえる。


そういえば、さっきまで身体中を満たしてたあの歓喜はどこにいったんだ!? 心を鷲掴みにしていたような幸福感は? どこだ?


なにか身体からどんどん水分が抜け落ちていくような感じ。それでいて苦しくはない。

アレックスはゆっくりとカノンのドレスを自分の頭から剥ぎ取る。


『目……開いちゃダメ……だよ』

リリスの声。


「は? 目開けるなって? おいおいふざけてんのかぁ〜リリス。だいたいなんで俺がお前の指図を」

『お願い! 今は聞いて!! リリスの声だけを聞いて!』


――イヤホンが割れんばかりの声だな。こんなに大きい声出せたんだな、とアレックスは素直に驚く。

技能としていつもの、お得意の、決まりごとのようなあの毒舌がない。 ブチギレた罵詈雑言もない。ただ、"お願い"と言った?

あのリリスが!?


『いい? アレックス。貴方はナニかの影響でドコかおかしかった。でもその詳細は後回し。リリスも全部わかってるわけじゃないから……』

「ああ〜はいはい。いいよムズい話は。聞いても忘れっしぃ〜。で?」

『ただ言える事は……たぶんあのシヒロってクソの目を見たり声を聞いたりしたら……イケないと思うの』


なるほど、そういやあそうだ。

さっきまでどうしてもシヒロの声を聞きたかった。聞かせてほしかった。 自分に話しかけてほしかった。見つめてほしかった。その視線を自分に向けさせてほしかった。


そうだった。それが喜びだった。

それに改めて気づいて、


「うげ……キモちわり……」

『だから……目は開けちゃだめなの……』

「いやそんなん言っても見えなきゃ結局コレやられるんじゃな〜い?」

『……リリスを信じて。リリスの指示通りに動いて。リリスの声だけを聞いて』

「……えええ? お前の? マジで? 嫌だっつったら?」

『信じて……』


――ほんとにいつもと違う。憎まれ口が一切ない。どっちがホントのリリスなんだ?

と一瞬躊躇するが、

「わかったよぉ〜」

覚悟を決める。


ドレスが宙を舞う。ヒラヒラと緩やかに。みんな思わず体に目をやった。

カノンだけはアレックスを見ている。信じている。


アレックスがリリスを信じたように、その2人をただ信じている。一片の疑いもない。

『左。蹴り』

『右後ろ45度 回し蹴り、そのまま前方突き』

『右手に5歩移動』

早口、かつ滑舌のいいリリスの言葉。


――こんなにハッキリ、早く喋れたのかよ、ますますワケわかんねえ奴だと思いながらも、リリスの指示を耳にするなり瞬時に身体を反応させていくアレックス。


『右前60度』

と耳にしただけでもうそこに蹴りを繰り出している。

テンションが上がる。目を閉じたままでもどこに敵がいて何があるかわかる。 どうすればいいかわかる。体が動く。


『後ろ狙ってる』

何を? 的確な指示ではあるが周りを10人に囲まれている。 追いつかない時もある。

が、そこはアレックス。

身をかがめ大きく足払いをキメていく。それが的外れだろうが考えるよりも身体を反応させていく。


『後方6mの位置で銃を隠し持ってる奴がいる。その3歩左の位置の奴も持ってる』

『右手2人、バット持って向かってくる』

とリリスは言うが、それは難しい。情報過多。まあ敵が過多。


リリスはリリスで、飛ばしてるハチのカメラ以外にもすでにハッキングを終えたこの部屋のPCのカメラや監視カメラといった数台のカメラから状況を見ている。あらゆるところに目を置いている状態だ。


どの角度からでも見られる。たとえ後ろに隠し持っていようがハチが飛び回り暴き出す。


「リリス! シヒロの位置を教えろ! それ以外の情報はいらねえ」

ここまでのリリスからの声でだいたいの位置関係や相手の攻撃の傾向はわかった。 もうそろそろキメにかからないと。


『わ、わかった……えっと……』

「いきなりテンパんなって〜! 信じるっつったろぉ!! 俺お前にいま命預けてんだけど〜〜!」

そこでカノンも動く。下着姿でも関係ない。


アレックスの周りで右往左往している奴らを、さっき投げたナギナタでぶっ倒していく。 いまアレックスの邪魔さえしなければいける。


『あっ……逃げた。非常階段……と、前方…10歩、走って』

「ってかお前俺の歩幅知ってんのかよ」

と言いながらダッシュしてドアに激突してるアレックス。


「ほら、なっ……にゅぅ〜〜……。こんなもん本気出したら3歩だぞ……いってえ」

顔面からモロにぶつかったので鼻血を垂らしているアレックス。


『……よく考えたらシヒロのクソ逃げたから、もう目ぐらい開けてもいいかも……』

小さく、甘ったるい声。いつもの調子に戻っている。


「ああ……そうだな……ていうかこうゆう時は"ごめんなさい"しろよ」

『は? 誰のおかげで助かったと……あっ』


「どした? 自分の愚かさに気づいたか? にゃはは〜」

『ヒコ君から入電……。シヒロは任せろって。ブツの奪い時ょ』


嬉しそうに弾むリリスの声を聞いて、これもまた歓喜だな、と思うアレックス。


「……にゅぅ〜。結局来んのかよアイツ……」


まあいい。何に喜び何を幸福にするかなんて人それぞれだ。

だから、他人に決められることじゃない。決められてたまるかってことだ。

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