042/逆襲のリリス
雑居ビルの前の通りに停車しているバンの中でカノンは出動の準備を整えている。
というかいつだって整っている。常に臨戦態勢だ。
『……ああーリリスやっちゃった……』
イヤホンを通して深めのため息と共に。
「え? どうゆう意味でしょう? リリス様」
『は!? わかんないの? というかリリスに言わせるの!?』
で、またキレはじめるリリス。
わかんないの? と言われても、これで察しがつくほどカノンはリリスの一挙手一投足に注目していない。というかいまはその姿すら見えないし。
「申し訳ありません。まだまだ未熟なもので……」
「は!? バカにしてる? 未熟なのはリリスだって言いたいの!?」
――そんなわけない、と怒鳴りそうになるのをグッと堪えるカノン。
しかしこの反応はつまり……リリスがなにかミスしたということだ。
しかもリリスが得意な分野で出し抜かれたと見ていい。
それほどの苛立ちをイヤホンごしに感じる。
『リリスが探ることを読まれてたってことね……だから……ダミーの映像データを流してたと……』
「つまり……騙された……と?」
『ああ〜!? カノクソうるさい! 騙されたんじゃないの! わざわざのっかってあげたの!』
それは無理がある。わざわざ乗っかるメリットがない。
「リリス様。この失敗は私達の敬愛するお兄様……ヒコ様にとって痛手となります」
あえてヒコの名前を出すカノン。
もちろんミッションに失敗すれば確かに痛手となるのはその通りだ。
しかしそれ以上にリリスの精神的ダメージは大きいだろう。
『……ぅぅ……カノン……たすけて……。
リリス、監視カメラの映像とかアイツらのネットワークとか全部ダミーかまされてこのビルの中の情報……嘘かもしんないの……。アレクソなんてどうでもいいけど……マズイかも……』
いつも強気、というか毒気全開のリリスもさすがにまいっているようだ。
自身の失態でもあるしそれをヒコに知られたくないという想いも強い。
しかし、
『アハハッ……アハハッ……あのアレクソのせいだ!! アレクソアレクソクソクソクソクソクソー!! アイツが……アイツが最後まで聞かずに飛び出していったからぁ〜〜〜!』
と喚く。
それもある。
アレックスが最後まで話を聞いてもう少しじっくり行けばリリスも出し抜かれ失敗することもなかっただろう。
現にいまこうして相手がダミーを仕掛けていたことに気づいてるわけだし。
だけど時すでに遅し。
「行くしかありませんね」
カノンが力を込める。
『ありがと……カノン……』
消え入りそうな声でお礼。小さい。そんなにお礼言うのが嫌なのかとも思うがありがとうとリリスが口にする時点でそれはもう通常の事態とは違うことを物語っている。
これに応えなければ、とカノンは一層力が入る。
相手はマルチバースの存在。
何を隠し玉にしてるかもわからない。
些細なことでさえ見落とせば命取り。ヒリヒリする程の綱渡り感。
エレベーターが動き出す。
それは待ち構えるシヒロ率いるラストリゾートの面々もわかっていること。
「カノンが来るね〜」
笑顔でそう言うシヒロ。
「……でもシヒロさん。アレないっすよ。赤い煙の……」
「ああー先々代のグランルード王の血のコピー? 仕方ないよ。アレはまだ試作品だし。それに……カノンには使わない方が面白そうだしさ」
アレックスがエレベーターで吸い込んだ赤い煙。
彼らが"先々代の王の血"のコピーとよぶモノ。
多元界の技術を使って作ったモノだ。
それを吸い込むと包み込んでくる多幸感多幸感多幸感。




