040/作戦無き戦い
作戦はないけど、作戦開始とはこれ如何に!?
とか無粋な事を言うのはまぁせいぜいミコぐらいのものだ。
それが無粋なのかどうかは別として、そんなことをいちいち気にしてるようなのはもうセディショナリーズにはいない。
いつだってそんなノリだから。
そのいつもと変わらない感じで街をゆく。
「今なら10時まで来店でドリンク一杯無料ですよー」
とか大きな声でキャッチをしているメイド服の女の子のすぐ横を黒いクルマが過ぎていく。
ゆるゆると。
その前をまた別のメイドが通り過ぎた。
近くの雑居ビルに入ってるメイドカフェの子だろう。
いやコスプレ居酒屋の子かもしれない。
いやいやガールズバーか?
とにかく、何かを満たそうという人達とそれを引き入れようとする者達のキャッチという名の攻防が夜の9時の路上で繰り広げられている。
この街はキャッチ行為が条例で禁止されてはいるが法律スレスレや穴を付いて平然と横行している。
中にはアウトな部類のキャッチをする者もいるがだからといって誰かが咎めることもない。
街賊なんて100%アウトな輩が闊歩する街にとってはそんな違反はまだまだ可愛いもん。
とか、思いながら、真っ赤なバンの後部で窓から通りを眺めるアレックス。
この街はサーカスみたいなもんだ。ピエロはたくさんいて猛獣みたいな輩がそこら中を徘徊している。
けど、欲望というものに繋がれていつの間にか街に飼いならされている。
毎日のように曲芸のような出来事が起きてみんなあれやこれやと注目する。
ああー騒がしい。まったく騒々しい。
たまにはゆっくり眠りたい。できれば美女と一緒に。
そうだ。美女と深い眠りに落ちるために生きている。
まあそこそこの美女ならいつでもいるけど、それこそ絶世の美女ってやつを探してる。
そのために、この街にいるんだ。そうだ、そうだとアレックスは一人頷く。
「どうしたのですか?」
1つ前の座席でカノンがゆっくり振り返る。
一瞬その瞳がきらりと光る。心なし艷やかな唇が目に入った。
黒いシルキーなドレスだ。ロングだがスリットが太ももの上の方まで入っていて美脚を晒している。
ああ、そうだな。”美女"として見ればカノンはかなりランクが高い。
そのへんのオンナなんて束になっても敵わないだろう。
それがオトコでなければ毎日口説いてるかもしれない。という目で見返すアレックス。
「なにかよからぬ事を考えているのですか?」
「にゃは。いや〜。お前もアレだね、こうして見るとキレイになったなぁ〜って」
「アレックス様……。いよいよ誰にも相手にされなくなったのですか?」
「はぁ!? んなわけないっしょ〜。ってかお前と最初に会った頃とかお前いくつよ!? 小学生だろ」
「ええ。そうですが?」
「鼻垂らした小汚ねえクソガキだったもんなぁ〜にゃはは」
「鼻は垂らしてませんが」
「にゃは。垂らしてただろ〜。カピカピだっただろ〜?」
「ショーワの子供じゃあないんですから」
とかなんとか幼馴染的会話を続けてるのは、リリス待ちだ。
実際リリスがこのバンに乗ってくるわけじゃあないけど。
今、例のラストリゾートのアジトとなっているビル内をネットワーク経由で洗っている。
それが済めばベストのタイミングと攻め方をリリスが教えてくれるってわけだ。
――ま、正直言えば面倒くさい。アレックスはニコニコしながらも欠伸ひとつ。
待つ必要もないしそもそもビルの中がどうなってようがソコに欲しいモノがあれば行くだけだ。
「それが街賊ってもんでしょ〜〜」
「いきなりなんですか?」
冷静な顔でまた振り返るカノンを見て笑うアレックス。
「ああ〜おっせ! しっかしおっせ! リリスおっせ! 使えねえなぁ〜。
いつまで待たせんの? ちょっと飲みいっていい? みてみてアソコのガールズバー 飲みホで1,500円よ!?」
『あそこのガーズバー、ボッタクリだょ。飲みほで釣ってぇ〜のみほに含まれないドリンクでぇ〜こ』
「うっせ! リリス!! そんな説明はいいんだよ!!
んなもんぼったくり上等で行って逆に慰謝料請求すんだよ。
俺を誰だと思ってんだよまったく。てかマジおせえよ!」
バキバキバキとなにかを破壊する音がイヤホンから聞こえてきた。
リリスの声はこのイヤホンで聞いているが、きっと怒ってなにかを壊したんだろう。
まったく短気だ。ロリロリしてるのに。
『ほんとウザぃ。マジ●ね アレクソ。アレクソアレクソ! ああ〜コ●シたい!!』
小さく囁くような声で、まるで呪術のような言葉が聞こえる。
カノンは小さくため息。ほんとに相性が悪いなこの2人はと。
「落ち着いてください。2人とも。リリス様、さっそ」
『は!? カノクソもウザい。何様? おちつけ? 落ち着いてるけどぉ〜!? 何? なんでリリスがアンタの言うこと聞かなきゃいけないの? コ●シていい?』
訂正。リリスとアレックスの相性が悪いんじゃない。
リリスと他の者の相性が悪いだけだ。これ。
いや、リリスの性格に難があるんだ。
まあ見渡せば難のない者なんていなかったけど。
「申し訳ございません! リリス様!!
私のような愚かで矮小な器の者がリリス様に物申すだなんて……!
しかし愚かゆえ、リリス様のお言葉がなければあのビルに攻め入ることもできません! 何卒!!」
頭を深々と下げるカノン。もうほぼ土下座。大げさな物言い。
実際声もでかい。動きも大きい。すべてが大きい。わざとらしい。
アレックスは横目かつ薄目。
これぐらいしないとリリスのテンションが上がらないんだろう。
あえてそうしてるとは言えこんなに頭を下げて謙れるカノンってすごいな〜と単純にアレックスは感心する。
自分には絶対にありえない行為だ。それ以前に言葉の意味もあんまりよくわけってないけど。
『わかったワょ。そこまで言うなら……えへへ。仕方なぃ。えっとね……その目当てのブツがぁあるのは5階。でぇぇ3階は普通の部屋ね。ここに3人、休んでる。あとー……』
「ああーわかったよーん。ブツがあるとこさえわかりゃOKさ。んじゃいこう」
アレックスはそう言うとイヤホンを外して足下に投げ出す。そのままドアを開け口笛吹きながら出ていった。
ギリリリリリリ……。
うーん、また何やら変な音がイヤホンから聞こえる。
けど、これを聞いてるのは今カノンだけだ。
ため息をつきそうなるがそれをすればまた何かの破壊音が聞こえてきそうなので表情を引き締める。
やはり相性が悪い。
リリスはホテルヘブンの一室に引きこもり、ネットワークの海を縦横無尽に泳ぎ、今やハッキングや情報収集などのスキルに関しては街でも随一。
あらゆる場所にアクセスしてかすめ取っていく。
片や、アレックス。
引きこもりとは真逆。アクティブに街を動き回り、むしろ所在が掴めないこともしばしば。
人見知りなんてどこ吹く風で相手が誰でもすぐに懐に潜り込んでいく。
事前の準備や情報なんてそこそこに常にぶっつけ本番を好むようなテンション。
なぜこの2人を組ますのかも分からないぐらいだ。
『……まぁでもぉ……アレクソが勝手するなら……仕方ないよね。自業自得ってやつだもん』
小さく聞こえたリリスの声。
「どうゆうことでしょう?」
カノンは咄嗟に耳を澄まして問いかける。
『アハハっ。アレクソしんだわ~~』
なぜか鼻歌混じりの楽しそうなリリスの声はよく聞こえる。
「危険……ということでしょうか?」
『えへっ。アレクソざーーんねん』
弾んだ声。
喜びに満ちた少女のようで、弄ぶような残酷な声が頭の中で反響する。




