039/引きこもり女子は情緒がミンチ
「えっと……ヒコ君に頼まれたから説明……するね?
ヒコ君じゃなかったからぜっっったい断るけど……だから~ちゃんと……聞いてよ。
わかってる? ほら、わかってルノ? おバカなアレックスとか」
ゆっくりと、ゆるゆると話すリリスの声は部屋中を甘く駆け巡る。
ほんのり舌足らずな感じがまたスイートさを誘う。
が、言ってる言葉やその端々に棘も感じる。
綺麗な薔薇にはトゲがある的なやつか。
「あ~ん? 聞いてるよ。てか知ってるよぉ! だいたいおパカってなんだよ」
「なに? その態度ぉ~。こわーい。新聞とか……ヤダ……」
と聞こえた途端にアレックスが叫びながら飛び上がる。
「いってえ! なに? なに? ケツに電流走ったんだけど!?」
「えへへ。超小型のハチ飛ばして電気流しちゃった~えへへ」
たしかに小さい、それこそ虫にしか見えない小型球体のモノがブンブン飛んでいる。
それがアレックスのお尻に電流。
「あの……リリス様。話を進めてくだ」
「カぁぁノぉぉンん! うるさぃっ! 口を開くなぁぁぁ!
リリスに指示するなあああ!」
食い気味に今度は怒鳴った。それでも甘ったるい声だけど。
――こわい……とミコはシンプルに震える。
「うん。リリス、進めて」
「わかったぁぁ♡」
朗らかだ。
なるほど、ヒコの言うことしか聞かないってやつだ。
どうしてそうなのか。何があったのか。
そもそも何者なのか。
気になるところは多々ある。
またそのへんは追追……かな。いまは聞こう。
と、ミコは姿勢を正す。電流とか嫌だし。
ラストリゾート。
リーダーは、樺根井 至広――シヒロという20代後半の男。
総勢80名程というのが広く知られている規模。
少々の上下はあるが概ねその情報で間違いない。
非合法な武器の密造や資産家からの盗品を売り捌いている。
街賊によくある略奪行為はほぼやらない。
やったとしても、略奪したモノのコピー品を製造するためというのが主。
つまり、製造密売を軸にしているクルーだ。
ホームは、南部地域の南区の中部地区。
要は南区エリアのほぼ中央。
ヘブンと呼ばれる巨大歓楽エリアのひとつだ。
勢力拡大や他地域への進出の動きは皆無。
細々と地に根を下ろしてやっているようで、特に揉め事を抱えるわけでもなく、ケーサツなどからは危険対象にはなっていない。
ま、とは言え街賊なのでもちろん放置もされてはいないが。
リリスが淡々と、でも鼻歌混じりに説明。
スクリーンに画像やグラフなどを写しながらの話で割と分かりやすい。
――いや、説明という点においては完璧だ。
今までヒコのアレ混じりの適当な説明とかカノンのエスっけたっぷりのやつとか聞いてきたミコは拍手しそうになる程。
「でね……ここからはアンオフィシャルな情報だょ」
と、前置きするリリス。
シヒロ率いるラストリゾート。
そのほぼ全員が多元界のユールフォルス世界のいくつかの少数民族の集合体で構成されている。
ユールフォルスがグランルードを崇め、ロザリー教を作りみんながみんな教徒となりその規模を広げていくと共に追いやられていった民族達だ。
つまりロザリー教徒でもなくグランルードを信奉もしていない。
だからこそ迫害された。
連盟の特務班であるレイジやクランベリーが持っている情報と同じ。
つまりは多元界側では普通の知識。
彼らはフラットランド――八華都市へと逃れそこで生きることを決めたが、その交換条件としてユールフォルス・ロザリー教の指示の下、違法に魂塊を製造している。
生き残る術としてそれを選んだ。
このへんはまだレイジ達にも曖昧な情報しかない。
裏の取れていないもの。まあ彼らは裏を取る必要もない。
そこには触れないのが連盟の方針だ。
こっち、八華に根付く街賊であるヒコ達とは違う。
「って感じだょ。どう? よかったぁ? ヒコ君」
説明が終わったようだ。
「……ん……んんー……あっ……おぅ! バッチリだよリリス」
――いや、寝てたよね、完全に。目が開ききってないよね?
と、思うがミコはそっとしておく。
なんだかリリスがまたキレるのも怖いので。
「ってことで、リリスが奴らの拠点も調べといてくれた」
ヒコが手を叩くと壁に地図が映し出される。
南区の真ん中辺り。
地下鉄ユリサキ駅からほど近い雑居ビルがマークされる。
「このビルだょ。ヘブンズキッチンビル。
3階から上が全部そう」
3階から6階のフロアがラストリゾートの拠点。
そこで製造もされている。
「ま、ここに凸ってパパっとブツを奪えばいいだけのハナシだ。簡単だろ」
その難易度はよくわからないがまあそうゆうことのようだ。
「と、いうことなんで……アレックス。頼むわ」
ヒコがポンとアレックスの肩を叩く。軽いノリ。
「いやいやいやいやいやー俺別にセディショナリーズじゃないって言ってんじゃな~い」
「ではなぜここにいるのですか?」
「うにゅ。それはだからヒコちんの友達として? みたいな」
「今回活躍してくれたらとりあえず今までの宿泊費はチャラにしよう」
ずーっとこのホテル住まいのアレックスの宿泊費なんて通常換算したらどえらいことになる。
きっとウン百万だ。
「にゃはは。そんだけ? そんだけの餌ぶら下げるだけでオレがやると思っちゃったの~? 甘いな甘いなぁ、そんぐらいのことでさ~お、ぐあはああ!」
叫んで悶絶。奥歯を噛み締めて涙目。
「アレックスぅムカつく~」
壁に投影された映像の奥で少しだけ笑いながらも血走った目を見開いてるリリス。
やっぱりこわいぞ。もはやホラー。
「おい! リリス! ブンブンブンブン虫飛ばしてんじゃねえよー! てか電流を流すないちいち!」
「あーあーうるさいよ、もう。わかったよ。ミコミコとのデート権もつけてやるよ」
「にゃは! OK、やりましょう!」
二つ返事。でもその前に
「なっなにそれ!? え? 私とのデート権てなによ!?」
憤慨するミコ。
「まあまあいいじゃねえの。イイ男がお前とのデートを賭けてやる気になってんだから」
なんかそう言われるとちょっと悪い気もしないなと思うミコ。
その思いを見透かしたようにじっとりと見つめるカノン。内心単純で馬鹿だなぁとも思っている。
「よし、じゃあ決まりだ。今回はあんま派手に動きたくもないしな。
アレックスとリリスでやってくれ」
「あ? お前は?」
「俺はだってほら、お腹が空いて力が出ないよ~」
「待てヒコ君。どぉして? どぉして~? アレックスと一緒なの~?」
「そう言うなってリリス。頼むよ~。お前がアレックスのバックアップしてくれたら速攻でカタつくから」
「えへへ。わかった~」
こっちも単純。馬鹿ばっかだなー。
「よし、作戦開始!」
とヒコが手を打つ。
やけにあっさり始まる。
肝心の作戦は誰も聞かされてないけどね。




