038/豚の真珠は奪うモノ
もう間もなく桜が咲き始めそうな、
そんな桜前線予測が天気予報辺りで言われだしてる頃。
もちろんそんなニュースの中じゃ相変わらずドコソコで誰々が襲われただの、ドコソコでナニナニが奪われただの……飽きもせず伝える。
そんなニュースはこの街の住人も多元界人も、連盟のエージェントだってもうたいして興味はない。
全部取り上げてたら一日じゃ足りない。
だから聞く必要もない。
生きていくことにおいてそんなことは大したことじゃない。
だから忘れていい。
すぐに。今すぐに。
誰かの不幸に不感症になる前にその囲いを叩き壊し抜け出さなくては。
さもないとドクロを背負って徘徊することになる。
まるでゾンビのようにね。
で、そんなゾンビ紛いの奴らが蔓延る街にも季節は巡る。
節目も訪れる。
人生の節目というのは大事。
そこで過去を振り返り未来に想いを馳せて現在の立ち位置を確認する。
そんな節目。
ミコの高校の卒業式が間近に迫っていた。
が、ミコの顔色は悪い。
朝食べたプリンが消費期限を過ぎていたからではない。
ミコはグランルード人だ。
例え100年前のプリンを食べようがお腹は壊さない。
理由は簡単。
栄養失調は続いていた。
なんとかヒコから直接的に栄養を流し込んではいるが、さすがにその栄養源のヒコがもたない。
「いやヤバい。先に俺が召されるわ、これ」
顔を青白くさせながらヒコがベッドで寝返りをうつ。
「にゃははっ。ヒコちん、大袈裟だな~」
と、アレックスはヒコの方も見ずにスマホ片手に笑う。
心配そうに見つめているミコの顔色も良くはない。
「そうですね。確かにお兄様は朝から晩まで常に何かしら食していてもどんどん痩せていってます」
「あっ! じゃあさ、ダイエットしたい奴とかミコっちと魂の盟約交わしたらすぐ激ヤセできんじゃね?
1ヶ月50万とか取ってセレブのお姉さんとかにどうよ? んで俺もそのお姉さんと楽しむってゆうみんながWINな関係っ。おーよくない?」
たしかにな。関わる奴らみんなメリットがある。
というか、アレックスの関わりはいらないとも言えるけど。
ま、そんな話は彼方に追いやる。
「そうだな。このままじゃ俺もミコも共倒れだ。
こないだ言ってたように奪う時がきたな」
「例の……ユールフォルスの下請けが製造しているという魂塊を奪うわけですね」
「……おっ! 当てる? よーしじゃあヒントはねー」
「にゃは! ヒントなんかいらねえよ! 1発でぶっ込んでやるよ!」
「ラストリゾートですね。この南部地域……ヘブンエリアの一角にいる……街賊」
ヒコ、アレックスの2人による盛り上がりを他所に、かなりの温度差をもってカノンが答えた。
アレックスはニコニコしながらも顔は引き攣る。
「か、カノン……うぅ……お前さ~、なんてゆうかこう……うう……」
なんならちょっと涙目だ。そんなに当てたかったのかアレックス。
「そうだぞ。カノン。ちょっとは空気読めよまったく」
ヒコにも睨まれカノンは意気消沈。むしろ腹かっさばきそうな勢い。
「この街の……街賊なの?」
ミコがなんとか場を取り繕うように冷静に。
まあミコはワイワイやる程の体力と気力がないだけだけど。
「ああ……。ラストリゾートってクルー。俺らがいるこのヘブンと同エリアをホームにしてる」
街賊。当たり前だがそれはたくさんいる。
ミコにとってヒコ達のセディショナリーズがイコール街賊となっているが、八華の街の至る所に大小様々な街賊クルーが存在している。
クルー、ユニット、トライブ……呼び方は色々だけど街賊の集団。
そのうちのひとつ。
ラストリゾート。
規模で言えばセディショナリーズよりも小さく、100人程度らしい。
となるとセディショナリーズって結局どれ程の規模なのか知りたくなるが、ヒコは教えてくれない。
カノンは数万単位でお兄様の信者がいます、とか盛りすぎな夢を見ているし。
「ま、ぶっちゃけ……コイツらは……アレだよ」
また出た、お得意のアレ。
「なるほど、お兄様。アレですね」
「そっかーアレか~~」
「いやいやホントにわかってんの? アレで」
思わず声を荒らげるミコ。いい加減適当な会話やめなさいよと。
「……何を言ってるのです? わかっておりますよ。ラストリゾートは、つまり多元界人」
「そだな~。それもユールフォルス人の中の少数民族だなっ」
カノンもアレックスも当たり前のように平然と答えた。
まるでミコの方がおかしいんじゃないかと言わんばかりのノリで。
「えええ? 今のでそこまでわかったの!?」
「にゃは。いやー、前もって知ってた」
「私はお兄様の言葉はすべて理解できますので」
なんてことはない。
事前に知ってたわけだ。
そりゃそうだ。
「アレ」だけでそこまでわかるなんてもうアレだけで会話が成り立ちそうだ。ちょっと一安心のミコ。
街中の監視カメラをハッキングしたりあらゆる情報網を駆使してネットを自由自在に動き回ったリリスのおかげというわけ。
「ああーあとうちのハチを操ってんのもリリスだからさらにお礼言っとけ」
空を飛び回る護衛攻撃型ドローン通称ハチもリリスが飛ばしてるわけだ。
引きこもりながら大活躍。
「食っちゃ寝している誰かさんとは大違いですね」
とカノンがチクリと言うが、もうそんな言葉には耐性ができているミコには効かない。
「あ、ありがと」
ミコは素直にお礼を言っておく。
まあいいのか悪いのかわからないけど。
「……」
そして画面の向こうでリリスは華麗にスルー。
「んじゃリリス、説明頼むわ」
「あ……あ……ヒコ君がリリスを欲してる……欲してるのね! ああー……うれ……うれし……んんーわかった。えへへ、リリス、説明するぅ」
デレデレした声と甘い吐息。目はトロンとしている。
――うん、こんなんばっかりか、ここにいるのは。




