036/犬と豚の生活▶3
「南区23ブロックのヘブンズキッチンっていうオフィスビルです。
そこの業者用駐車場に入ったんですが……ないんです、トラック」
先行で追っていた密輸取締課から入った連絡。
ない。入ったはずのトラック。
そのまま駐車場に違法ポータルがあり、どこか別の世界へ渡ったということだ。
「……やっぱめんどくせえことになったな」
現場に到着したレイジの第一声。
メイド姿のクランベリーはまだ涙目。
「な、なにが……? 班長、顔こわいですよー」
「……特務でやっていきたいならもっと情報を頭に入れとけ。
ヘブンズキッチンを根城にしてる奴らは誰だ?」
「あ? え? へ? えーーっと……そんなのちゃーんとわかってますよー、
ええっと……街賊・ラストリゾートですよ!」
「で?」
「で?……って? え? はい?」
そこでレイジはため息。
「なんで街賊が違法ポータルを持ってんだよ」
「それはー……たまたま?」
「お前ってほんとに馬鹿なんだな、落し物係とかいけよもう」
「ひどいですよー! 班長。あっいや落し物係も立派な仕事ですし!」
「そんな係はねえ」
「あっ! ま、まさか……ラストリゾートに多元界人がいるってことですかー?」
「ははっ、いる、じゃねえよ。ラストリゾート全員多元界人だ」
ラストリゾート。
南部方面を代表する街賊のひとつ。
総勢は100人弱のクルーだが……
「え? 全員!?」
多元界人が街賊になっている例は珍しくない。
が、クルー全員というのは……と、驚きの表情でクランベリーはレイジを見ている。
「わかったか。全員多元界の奴らで……しかも……ユールフォルス世界の少数民族で構成されてる」
そう言ってしかめっ面するレイジが横目で捉える人影。
ゆっくりと近づく。
「どうしました? なにかウチに用ですか? 一応ここ業者用の搬入口になってまして〜」
スラリと長身細身の男がニコやかな笑顔で歩いてくる。
その後ろに作業着を着た男が2人。
「ああ〜ここの人? さっきここにトラックが……」
密輸取締課の1人が伊達メガネをクイっとあげて要件を。
「トラック!? ああ〜申し遅れました。
ここの……このビルのオーナーの樺根井 至広と言います。
で、要件はそのトラック? 見てませんね〜。ここにないということは……来てないんでしょう」
「あっいやしかし……それなら……そうだ、あそこのカメラ、監視カメラの映像見せてもらっていいですか?」
「はぁ? 失礼ですがあなた達は?
ケーサツの方とか? 映像を見せないといけない義務はありませんよね?」
樺根井 至広と名乗ったこのビルのオーナーは終始笑顔で応対している。
密輸取締課がやり取りしてるのを少し離れたところから見ながらレイジは識別モジュールを起動する。
スマホ型になっているモジュールで対象となる人物を映し出せば、膨大なデータベースと直結し、対象が多元界のどこの世界の人種か、はたまた八華の人間なのか識別するスグレモノ。
「おい! そこのお前、何撮ってんだよ!!」
作業着の男がレイジに怒鳴る。
まあスマホでなにか撮影してるように見えるし仕方ない。
「ああ〜いや撮ってないです」
すぐさまモジュールをジャケットのポケットにしまい込み首を振るレイジ。
「っていうかねー!! ネタは上がってんですよ!! おとなしくしなさいよ!! アンタ達多元界人でしょ!」
と、クランベリーが叫ぶ。
ーーいやいや待て待て。いきなりだな。
たとえそうでもいきなりそれを言うか!?
もはやため息を吐くことすら忘れてしまうレイジ。
密輸取締課も驚愕の表情。マジですか、といったところ。
「はははっ。そうですよ。多元界。ええ、僕らは多元界人です。それで?」
予想外の答え。あっさり認めた。
まあそれは、
「だから来たんでしょ? ここに。多元界人で構成されてる街賊。
全員そうなのはウチだけですし。何かあったんでしょ?
ええ〜っと……大方、ハンタイですね?」
ハンタイとは犯罪対策本部。そう呼ぶ者もいる。
だいたいは犯罪する側だが。
「……なるほど。話は早いな。それなら……」
と、密輸取締課の1人が言いかけて、瞬時に爆ぜる。
上半身が爆裂して飛び散った。
「あっ……ああ~不用意に動かない方がいいですよ。
今開発中の道具の実験中でして……。
ええ、特定の場所に足を踏み入れたら一瞬で吹き飛ばすという、まあ地雷?
そう、地雷的な兵器なんですけどね、仕掛けてますので」
シヒロは笑顔を崩さず説明。それがサイコ感をより一層打ち出して怖い。
「な、なにを……! こんなことをして……」
「いえ、だから動かない方がいいですって。仕方ないじゃないですか、この兵器、ユールフォルス・ロザリー教のお偉いさんから依頼されてね。作ってるんです」
悪びれる様子なんて微塵も見せずにシヒロは言う。
暗に、ユールフォルス・ロザリー教との繋がりを盾にしようって腹だ。
ユールフォルス・ロザリー教はグランルードにとって最も近い駒。
その関係は強固だ。ロザリー教はグランルードの手足みたいなもの。
そのバックを使って有耶無耶にしようとしている。
「はぁ……やっぱめんどくせえな……」
「班長! 捕まえますよ」
クランベリーが飛び出す。
――いや、話聞いてた? 状況見てた?
さすがのレイジも驚いて固まる。
クランベリーは一気に高速で移動しシヒロの胸ぐらを掴もうと手を伸ばす、が、その手はナニかに阻まれ痛みが走る。
「ああーそこ透明バリアありますよ。とぅ~めぃ~
バーリヤ! ですよ。
まあこれもロザリー教からの発注でして。かなり出来がいいんです。
透明過ぎて仕掛けたの忘れるぐらい」
笑うシヒロ。
クランベリーも諦めない。本能が体を突き動かす。
転回してまた駆け出す。
「おい! クランベリー! 勝手に動くな」
「そのブタすら食べることのできない憐れな犬。笑えますね。
そんなにグランルードが怖いですか?
ははっ、まあ連盟はそもそもグランルードのためにあるような組織ですもんね、仕方ない」
お互いの挑発はもはやただの悪口。
だが、シヒロの言葉には深い憤りと怒り、諦めも乗せて世界――多元界への呪いさえ篭っている。
「……帰るぞ、クランベリー」
こちらもまだ怒りに震えてはいるがなんとか治めて。
「でも!!」
まだ諦めはない。
「めんどくせえなクランベリー! しつこいぞ、コイツの言う通りだ。
連盟は……グランルードの駒だ。
コイツらもグランルードの駒だ。しかもな……コイツらの方がグランルードにとっては大事な駒だ」
言ってて吐きそうになるレイジ。
嫌気がさす。その通りだったとしてもハッキリ言葉にはしたくなかった。
「わかってるならよかった。それじゃあ仕事があるので」
笑顔で手を振りシヒロは引っ込んでいった。
まだクランベリーの鼻息は荒いが……仕方ない。
それが世界だ。この世界に生きているんだ。




