032/アフター・ゼロ
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この一連の騒動。
ヒコとグリッスルが八華の街を舞台に繰り広げているミコ争奪戦。
さらにその果てに「地獄の門を開く者」と呼ばれるミコのチカラの一端が覚醒し、フツウではあり得ないような爆発という事態を招いたことは、すぐさまほぼリアルタイム――正確には3分程のタイムラグを経て、多元界連盟の知るところとなった。
まあ当然である。穏便かつ内密に動いている連盟や多元界。
その存在自体が秘匿されているというのに、ここまで規模の大きな、八華の住人にもすぐにわかる程の事態が起きたのだ。
その中心にあるのがグランルード王族。
もはや問題だらけである。
出てくる言葉も、
「由々しき事態である」
が妥当。
これは、多元界連盟のコステロ議長が会議の冒頭で放った第一声である。
むしろこの第一声ですべて終わったと言ってもいい。はい、終了。
その後の言葉なんか出てこない。ある意味使い勝手のいい言葉だ。
多元界加盟の様々な世界の議員や要人があれやこれやと議長を問い詰めるが、議長自身にこの問題を解決する策などなく、それは同時に連盟にも策はないということである。
ただ、何事か起きたから事態の把握と収拾にあたるために求められるままに開いた議会。
答えがあるなら議長が教えてほしいぐらいだ。
だから、議長は渋い顔でため息をつく。
なんとかこの
「由々しき事態」が過ぎ去れば……と夢想していた。
過ぎ去る、と言っても問題は大きくなっていくのが目に見えているから由々しき事態なのだが、まあこの議長なんてそんなものである。
自分の任期中さえ凌げればそれでいい。
あとは連盟議長を見事務めあげた元議長という大きな肩書きと利権に預かれる。
リゾート地の多い多元界のひとつにでも移住してのんびり過ごす、なんてこともできる。
頭の中で海を見ながらグラスを傾けている自分を想像するコステロ議長。ちょっと頬が緩むのを俯いて隠している。
いまの状況に対しては議長だけではない。
誰もが対応に苦慮して渋い顔だ。
事が事である。どうゆう事だ。
グランルードの王族が絡む。そうゆう事だ。
手出しができない。
しかし放置もできない。
行くも戻るもその場に留まるのも難しい、いま。
「……やはり現王族の……グランルード代表に委ねられては?」
一段低くなっている隣の席に座る秘書官が議長にそう進言するが返事は鈍い。
そもそもグランルード王族というのは複雑だ。
その存在はあらゆる世界の頂点に位置し、そこにある関係性はそのまま権力闘争を意味する。
その闘争はすべての世界の未来を決定づけ、八華の行く末も決まることになる。
もちろん議長以下連盟の将来も決まってしまう。
下手に動けない。
リゾート地で余生をバカンス、とか言ってられない。
「あの方なら話もおわかりになるかと……」
あの方。
グランルード王族から選出されている、連盟に対する公式的なグランルード代表。
正当な王の行方が知れず不在の今、王代理というポジションを担っている者。
その名は、ヴィヴィアン・クローネン。
王族の長女であり次期(女)王の呼び声も高い良識派。確かに話はわかる相手だ。
だからこその代理。
民主的な考えも持っていてグランルード人、特に王族には珍しいタイプである。
あの問題児っぷり炸裂のグリッスルや、落とし子とは言え同じように問題山積みのヒコとはまったく違う。
そのため連盟の信任は厚い。
が、グランルード人の中には懐疑的に見る者もいて、危うさがあるという意味ではなかなか触れられない相手でもある。
さらにグリッスルとの確執はかなりのもの。
それもあってか、グランルードを信奉しているユールフォルス人のロザリー教はヴィヴィアンを別格扱いしながらも、あまり好ましく思ってはいない。
グリッスルのようにロザリー教を周りに配して優遇することもなく他の世界と同列に扱っていることや、時にはロザリー教の行動を咎め敵視することさえあるヴィヴィアン。
そうなればユールフォルス・ロザリー教としてはやはり支持しにくくなる。
それ故に連盟としてもあまり頼ることもできない。
どこに火種があるかわからないのだ。
まあそれはすべての王族に言えることでもあるが。
いま、そのヴィヴィアン王女の席は空席。
議長が見上げる程高い位置にあるグランルード代表席である。なるほどの別格扱いだ。
その席にいないということは本日は欠席のようだ。
「だいたい……なんなんじゃ? あの王子。
ちょっと好き放題やり過ぎだろ。あんなもん止めようがないわ」
議長は頭を抱えて唸り出す。
――頭痛の種だ。グリッスル。
いつもいつも、グランルード人であること、そしてその中でも王族であることを利用してやりたいようにやっている。咎める者は、いない。
いても聞く耳を持たないグリッスル。
次期王座に就くと言われる姉であるヴィヴィアンへの対抗心も凄まじい。
あからさまにその座を狙っている。
「それよりも……落とし子と……ミコ王女が結託した方が問題かと」
理事を務める男が立ち上がりバリトンの効いた声で言う。
そう、そうだ。もう一方の問題児。
落とし子のヒコ。
もうずーっとずーっとその存在自体が問題。
グランルード王の落胤が街で暮らしているというだけでも問題なのに、その街を裏社会から牛耳る存在である街賊なんてやってさらにこっちも好き放題。
さらに厄介なのは王女の1人、ミコがそのヒコの手中にあること。
さらにこの王女、ミコこそが大問題。
もはや問題に問題が重なる、問題のミルフィーユ。
「地獄の門を開く者……か」
地獄の門を開く者であり魔界を繋ぐ者、最終兵器と呼び名は多いミコ。
どれも物騒でありミコの存在がそれだけ危険視されているということだ。
だから戦々恐々。ざわつく議場。
そこに来てそのミコが発動したチカラの一端。
現実味を帯びる最悪の事態。
それが由々しき事態である。
「やはり戦争は避けられぬのか……」
議長はさらに頭を抱える。
「いや! ワシの任期中にはなんとしても避けねばならない!」
机を叩いて苦悶の表情で小さく呟く。前向きなようで消極的発言だ。
「任期、あと半年でしたっけ?」
と、秘書官も声をひそめる。
「そうじゃ! なんとしても半年もたせよ」
「そう言われましても……」
王族やグランルード相手に打つ手がない連盟にとっては無理な要求である。
明日どでかい紛争が起きてもおかしくないわけで。
「やはりフラットランド全域に制限を広げて多元界のチカラを封じ込めては如何か?」
白髪に白いヒゲをたくわえた老人が飄々と言う。
「黙ってろ! スローター界のジジイ!
そんなことしたら我々の活動も制限されるだろ!」
「なんだと!? 若造が! 何もわからんくせにお前こそ引っ込んでろ」
「ここでケンカをしている場合ではありませんよ、我々が一枚岩にならなくてどうするのです」
「だったら満場一致になるような案だせや! ゴラァ!」
それぞれが好き勝手に言い始める。
議長はなんとかやり過ごすことだけを頭に巡らせている。
「ならこうゆうのはどうだ? 非公式で、特務部隊を編成。そのミコ王女をこっそり……見守る……というのは?」
背の高い男が手を広げて発言。
「……それはつまりグランルード王族を監視する……ということかな?」
純白のローブを纏った初老の男が鋭い眼光で質問。
「もしそうであれば我々ユールフォルス・ロザリー教は全力をもってそのような神々への不敬に対しあらゆる対抗措置をとらせて頂くが?」
この白いローブの男はユールフォルスの代表議員。
さらにユールフォルスは常任理事界だ。
案の定、グランルードを信奉し、それだけの理念で動く。
「ち、違う! 見守るのだ。あくまでも!
グランルード王族の監視などそんな不敬では断じてない!
これは……つまり、王女の安全のためでもあり…」
なかなか苦しい言い訳にも聞こえるが、
「ああ〜わかった。とにかくじゃ、その……見守りも含めてフラットランドの警備体制を強化じゃ!
そして半年はなんとしても問題を阻止する」
「……半年?」
「ああーいや目安じゃ、目安! 永久になにも起こらんのが一番いいんじゃ」
決まりの悪い会議は延々と続く。
だが、多元界連盟は大きく見誤っている。
フラットランド=八華都市に広く蔓延る、街賊の存在を。そのチカラを。




