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死ねない少女は生き直したい~二百年生きた手品師、魔法少女に巻き込まれて平和を守る~  作者: 柚月由貴
四章

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8 臨時会議

 組織の本家が詰めるアジト。その一室。

 各集団の総代が集まり、話し合いを行うための会議室。


 そこに本家の人間が二人詰めていた。

 一人は白衣を羽織った初老の男性。本家の当主代理を務めている男だ。

 もう一人は中年のスーツを着た女性。当主代理の傍に控えて立つ彼女は、初老の男の補佐を務めている。


 やがて、会議室に人が集う。


 まず現れたのは当主代理の隣席。

 ホログラムで映し出されたのは私服の中年女性――技研の総代だ。


「――臨時での会議開催を許可いただきありがとうございます」


 開口一番、技研の総代が頭を下げた。


「いえ、構いません。あなたの情報が事実なら、必要なことです」


 対して当主代理は、特段気にしてないことを伝えた。

 続けて反応があったのは、当主代理に対して技研の総代とは反対側の席。同じくホログラムにてスーツを着た中肉中背の青年が映し出される。

 共栄会の総代である。


「やぁ、どうも」

「お疲れ様です」


 気さくな様子で挨拶をする共栄会の総代。

 それに応えた後、技研の総代が再び頭を下げた。


「すみません、急で参加いただいて」

「いえいえ、今回の議題は私共も気になりますからね」


 手を軽く振りながら笑った後、共栄会の総代が残った席の一つ――当主代理と技研の総代との間の空席を見る。


「主役がまだ来てないみたいですね」

「えぇ……とりあえず、待ちましょう」


 当主代理が頷くと、それ以上の会話が発生することはなく、会議室に沈黙が訪れた。

 どこか重たい空気の中で数分が経過した時、空席に変化が起こった。

 映し出されたのは小太りで眼鏡をかけた白衣の中年男性。統制局の総代だ。


「遅れましたかな?」

「少し、遅刻ですね。まぁ、良いでしょう。それでは始めましょうか」


 悪びれた様子を見せない統制局の総代を一瞥すると、当主代理が会議の開始を宣言した。


「今日は臨時開催となりますが……開催の依頼を出したのは技研の総代です」

「えぇ、今回の主題は統制局が抱く叛意の可能性についてです」


 当主代理の言葉を継いで、技研の総代が言葉を発する。

 併せて手元で何かの操作を行う仕草を見せた。その数秒後、各人の情報端末にデータが共有される。

 技研の総代は、配布したデータをもとに説明を行っていった。


「――以上から、統制局の人間が行った行為は我々の規則を逸脱した行為であります」


 稲葉慎二が起こした一連の事件について語り、統制局が技研の兵器の制限を強制的に解除した事実を共有した技研の総代は、そこで話を区切った。


 それを受けて、当主代理が統制局の総代へと目を向けた。


「ありがとうございました。……ここまでで、何か意見はありますか?」


 その言葉に統制局の総代が、その腹を震わせた。


「そうですな。まず最初に謝罪しましょう。我々の配慮が足りていなかった。技研が懸念を持つのももっともです」


 一言前置きを置くと、弁明を開始する。


「まず、借り受けた兵器の制限を外したこと。これは我々が意図したものではありません」


 AIに兵器のポテンシャルを最大限活かすように命令したところ、それを愚直に反映して制限を解除してしまった。

 つまりはAIの暴走によるものであり、統制局が狙った行為では無かった。


 統制局の総代はつらつらと語っていく。


「今はAIへの命令内容も修正しています。問題はもう起こらないでしょう」

「ふむ……。わざとではなかった、と?」

「その通りです」


 鷹揚に頷く統制局の総代。

 その横顔を、技研の総代が見据える。


「制限を外すことを目的としていると取れる、やり取りも見つかってますが?」

「受け取り方の問題でしょう。勘違いさせてしまったようで、すみません」


 軽く頭を下げると、統制局の総代は鼻を鳴らした。


「むしろ、私共としては技研の兵器がそこまで簡単に制限を解除できるとは考えていなかったものでね。こうまで簡単に兵器の制限を外せるとは……私共としても驚きですよ」


 明らかな煽りの言葉。

 煽られた技研の総代の肩がピクリと動いた。


 その様子を静かに見ていた当主代理が頷いた。


「統制局の言い分は理解しました。それで……技研からはもう一点、共有事項があるとのことですが」

「……はい。越権行為を行った統制局職員のアジトを捜索した結果、当該職員のパソコンから次の情報が得られました」


 言いながら、技研の総代が再び手元を操作する。

 それによって、新しい情報が各総代の情報端末へと共有される。


「これによると……統制局は現在、AIによる人類統治を考えている、とあります」


 その言葉に、今度は統制局総代の肩がピクリと動いた。


「……それは看過できませんね。AIによる人類統治は組織の理念に反する」


 当主代理が言葉を漏らした。

 その言葉に頷くと、技研の総代が更に続ける。


「人類統治を目指す一環で、兵器の制限解除を画策した、という計画も考えられるのではないでしょうか」

「――おそらく個人の大それた計画でしょう。人類統治と制限解除に因果関係があるとも思えません。まさか、彼がそんなことを考えていたとは……」


 技研の総代が言い終えた瞬間、統制局総代が間髪入れずに否定した。


「個人と言いますが……資料を見て分かる通り、共有された文書に見えますが?」

「もしかしたら、この後組織内に対して提案するつもりだったのかもしれません。無論提案されたら棄却しましたがね」


 技研の総代はAIによる人類統治が統制局全体の目的ではないかと疑い、統制局の総代は個人の大それた計画だと否定する。

 場では、二人の意見の応酬が続く。


「失礼ながら、この資料はパソコンのどのフォルダから見つかったのですかな?」

「ローカルのドライブですね」

「では、これが統制局内で展開されていたとする証拠は無いわけですな?」


 統制局の総代が我が意を得たりと言葉を続ける。

 彼の言う通り、技研の総代は証拠を示すことはできなかった。しかしそれでも彼女は慌てることはなかった。


「この情報は組織の規則ではなく……理念に反するものです。であれば定例通り、反証は統制局がすべきでしょう」


 続けて放たれた言葉に、統制局の総代が小さく舌打ちをする。

 が、それが音声として伝わることは無かった。


 当主代理が頷いた。


「その通りですね。反証は統制局が示すべきです」


 そう告げると、会議室に暫しの沈黙が訪れた。


「……重ねて言うが、我々に叛意は無い」


 暫くのあと、絞り出すように統制局の総代が言葉を吐いた。

 いつの間にか敬語は取れている。


 しかし、当主代理はあくまで冷静に言葉を返す。


「それを示すものは?」

「残念ながら、これが個人のものであることを確定する情報はない」

「そうですか。そうなると、統制局に叛意ありとして扱う必要がありますね」


 統制局は組織に対して叛意を抱いている。

 当主代理がそう結論づけようとした時、統制局の総代が眼を見開いて声を荒げた。


「……だがっ! 我々が組織の理念に沿って……組織のことを考えているということは示せる!」


 言うや、統制局の総代が手元で何かを操作し、各総代の情報端末へと情報が展開された。


 そこに載っていたのは、赤いアイドル衣装を着た少女の写真。

 併せて彼女が操る不思議な力についてまとめた資料が記載されていた。


「御覧の通り、この少女は変わった力を有している。しかし見た目の年齢から考えると、適応研の遺産とは考えづらい。我々のAIも九十九パーセント違うとの見解だ。つまり、彼女は我々と異なるルーツの力を持っていることになる」


 唾をまき散らすように一息でそこまで告げると、統制局の総代は当主代理へと顔を向けた。


「この少女……あなたがたのサンプルとして有用では無いですか?」


 実際のところ統制局が示した情報は、自分達が組織の理念に沿って動いていることを直接示すものでは無い。

 自分達は組織のことを考えて情報を共有している。だから叛意は無いんだ。

 そう間接的に語っているだけであり、言い訳としては苦しいものであった。


 ――しかし、その情報の内容に当主代理は食いついた。


「これは……なかなかに興味深いですな」

「統制局ではこの少女について、情報を更に集めてる。分かり次第追加で展開していく」


 当主代理の反応を統制局の総代が見逃すはずもなく、畳み掛けるように言葉を続けた。

 自分達を処罰すれば少女の情報は集まらない。

 暗にそう示して、自分達の価値を押し付けようとした。


「なるほど……分かりました」


 少し考える姿勢を見せた後、当主代理は頷いた。


「まず前提として、これだけでは統制局に叛意が無いと示すには十分と言えません。……とはいえ統制局側の、組織の理念に沿って行動しているという言については理解しました」


 言葉を紡ぎながら、当主代理が統制局の総代を見る。


「それを考慮して……猶予を与えましょう。統制局は他に叛意が無いと示すものを用意してください」


 現時点では処罰の対象となることは免れない。だけど、心を入れ替えて組織に利する情報を提供するなら許す。

 その意味を含ませた結論を、当主代理は述べた。


「ただし……いったん今の情報は預かって、ご当主様へと提出します。ご当主様の決定次第では追加の会議を開きます」


 そう言うと、当主代理は技研の総代へと顔を向けた。


「他に申し立てはありますか?」


 問われた技研の総代は、少し考えるようにしてから口を開いた。


「統制局の処遇が決定するまでは、統制局への兵器の貸し出しを停止したいですね」

「それは困りますな。技研の協力が無ければ、少女の情報を集めるのにも苦労してしまいますから」


 兵器の貸し出しを止めたい。その言葉に統制局の総代がすぐさま反論した。

 双方の意見を聞いた当主代理が頷いた。


「良いでしょう。ただし新規分の依頼のみとします。現在貸し出してるものはそのまま継続してください。統制局としても少女一人の情報を集めるのに、そこまで多くの兵器は必要無いでしょう?」

「う、うむ。まぁ、そうですな」

「ではそのように。新規依頼の貸し出し停止を解除するかは、今後のご当主様の判断次第とします」


 当主代理が技研の総代、統制局総代の双方を見やる。


「何か異議はありますか?」

「ありません」


 最初に口を開いたのは技研の総代であった。

 当主代理が残った統制局の総代を見た。


「……当主様は本当に健在なのですか?」


 統制局の総代から、ややあって出てきた言葉は異議ではなく、前回の会議でも発した懸念であった。

 少しの間の後、当主代理が頷く。


「当然です。ゆえあって、皆さまへ顔を出すことはできませんが健在ですよ……それとも、お疑いですか?」

「いや……承知した」


 静かに頭を横に振る統制局の総代を見た後、当主代理が共栄会の総代へと顔を向けた。


「共栄会からは何かありますか?」


 それまで黙って会議の行く末を見守っていた共栄会の総代は、笑みを浮かべて当主代理へと答えた。


「いえ、とくには」

「そうですか……それではこれで臨時の会議を終了します」


その言葉と共に当主代理がペンダントを掲げ、遅れて残りの総代達もペンダントを掲げた。


「「「デウスの名のもとに」」」


◇


 統制局の職員が詰める施設の中。

 臨時の総代会議を終えた小太りな男が、自身の執務室の中で当たり散らしていた。


「くそっ、あの女狐がっ!」


 口汚く罵った後、椅子の背にもたれかかった。


「よもや、あれを発見してるとは……」

「――ローカルにもデータを残すなと命令しとくべきでしたな」


 統制局の総代の言葉に応えるように言葉を発したのは背が高く、線の細い眼鏡をかけた白衣の男だった。

 執務机の前に、総代と相対するように立つ彼は名を桜井といい、総代と共に今後の戦略を練っていた男であった。


 彼らが話すのは技研の総代が見つけたという、統制局がAIによる人類統治を目指しているという情報についてだ。


 彼らは技研の、兵器の制限を解除したことに関する追及は問題にしていなかった。

 しかし、人類統治の情報については想定外だった。

 その情報は今の段階では表に出るべきものではなく、それを会議の場で披露されてしまったことで、追及を逃れるために赤い少女に関する情報を吐き出すこととなった。


 そう。組織の理念に沿って行動しているなどと会議で発言していたものの、統制局としては少女達の情報を出すつもりなど無かったのだ。


「まぁ、落ち着いてください。状況は悪いですが……まだ、我々の方が有利です」

「……あぁ、そうだな」


 情報は吐いたが、引き続き少女達の調査は統制局が行うこととなった。

 技研の兵器も新規での依頼は不可能となったが、今借り受けている分については引き続き使うことができる。

 

 八方塞がりとなった訳ではない。


「後は、裏で進めている件が、形になれば……奴らも終わりです」

「そうだな。女狐め……調子に乗ってられるのも今のうちだ」


 そう吐き捨てた総代は、怒りに満ちた目をしていた。

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