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死ねない少女は生き直したい~二百年生きた手品師、魔法少女に巻き込まれて平和を守る~  作者: 柚月由貴
四章

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9 問題ばかりが増えてくね

「えじそん先生?」


 聞きなれない名前を聞いて首を傾げた。

 たぶん今、凄いマヌケな顔をしてると思う。


「そう、えじそん先生。知らない?」

「うん、ごめん。知らないや。どういう人なの?」


 尋ねてくる藤堂さんに向かって、僕は首を横に振った。

 いや、有名なエジソンは知ってるけどね。今話題になってるのは、そっちじゃない。


「科学者よ。テレビにしょっちゅう出てるけど……ここには無いのよね」


 部屋内を見渡しながら、藤堂さんが答えてくれる。スマホで検索してくれて、写真を見せてくれた。


 白衣を着て頭に変な帽子を被った、ちょび髭のおじさんだ。

 エジソンって名前の割に、見た目はがっつり日本人だ。


「まぁ、えじそんってのも芸名でしょうしね」


 あぁ、科学者だけど芸能活動もしてるのか。この人。

 納得して、僕はお茶を一口飲んだ。


 今日は皆で僕達の家に集まってる。

 下村さんも藤堂さんも、ちゃぶ台の上でノートを広げている。

 遊びに来たわけではなく、勉強しにきたらしい。


 下村さんはやっぱり、いつもの元気がない。

 とはいえ修学旅行のすぐ後に会った時ほどは落ち込んでいないようだ。いや、気を紛らわして落ち込まないようにしてるのかな?

 苦手なはずの勉強を頑張ってるしね。

 大人しくしてなきゃいけないから、それで変身する必要がないってのも大きいとは思う。


 ちなみに、わざわざ僕の家にきて勉強をしているのは、下村さんは家だと集中できないから。

 藤堂さんは気分転換だ。


 まぁ、いつものことだからもう慣れたけど。


 ちなみに優太はお出かけしてる。

 たぶん、さきちゃんの所に行ってるんだと思う。


 で、今は二人とも休憩中で、世間話をしている時に出てきたのがえじそん先生の話題だった。


 何でも、普段は教育番組に出てて、バラエティとかにもたまに出るらしい。

 教育番組では、楽しそうな実験を子供達と一緒にやってるのだとか。

 科学の楽しさを子供に広めることを目的としてるみたいだ。


「そんな人が居るんだね。それで……その人がどうしたの?」


 藤堂さんの説明で、理解はできた。

 その人がどうしたんだろう。


「その人が……来るんだって」

「来るって……どこに?」

「うちの学校に」


 そう言ったのは下村さんだ。

 お茶請けに出してたおせんべいの小分け包装を開けながら、教えてくれた。


 へー、下村さんの学校に来るんだ。


「……何で?」

「さぁ……渚は分かる?」


 下村さんも首を傾げて、藤堂さんを見た。

 僕と下村さんからの視線を受けて、藤堂さんがため息を吐いた。


「あんたね……先生がちゃんと説明してたじゃない」

「……そうだっけ?」


 下村さんの言葉に更にため息を吐く藤堂さん。

 うん……先生の話はちゃんと聞いた方が良いよ、下村さん。


 呆れた様子を見せた藤堂さんだったけど、きちんと説明はしてくれた。


 さっきの話にあったように、えじそん先生は教育番組に出ている。

 その番組の中で、各地の学校に出向いて特別授業をやるってのがあるらしい。


 それで定期的に訪れる学校を募集してるのだそうだけど、それに藤堂さんと下村さんのクラスの人が応募していたらしい。で、見事選ばれたのだとか。


「え? 誰が応募したの?」

「知らないわよ。言ってなかったし」


 藤堂さんが眉を顰めた。

 あぁ、プライバシー的なのもあるだろうし、学校の先生は教えてくれなかったのかな?


「へー……あれ? てことは、朝陽さんの学校、というより朝陽さん達のクラスに来るの?」

「そうよ」

「そうなんだ!?」


 いや、下村さんが驚くところじゃないよね?


「あんた……最近、ぼーっとし過ぎじゃない? もう少し気をつけた方が良いわよ」


 藤堂さんも顔を顰めてる。

 そりゃ、全く話を聞いて無いってなったら、そういう反応するよね……。


「あはは……少し集中できてないかも……気をつけるよ」


 下村さんが頭を搔きながら、頷いた。

 それを見て、藤堂さんはそれ以上何も言わなかった。


 まぁ、下村さんの調子が最近悪いのは仕方ないところがあるしね。

 藤堂さんもそれを分かってるから、強くは言わないんだろうね。


 今のところ下村さんが変身できなくなった原因は全く分かっていない。

 何かきっかけでも掴めたら 良いんだけど……。


◇


「――て感じのことがあってさ」

「そうなんだね。……朝陽はずっと調子が悪いね」


 その夜、優太と一緒に晩御飯を食べながら、僕は夕方のことを話した。

 下村さんが不調なのは優太も気にしてるみたいだけど、現状はやっぱりどうしようもない。


 どうにかできないかと話し合っても、何か手掛かりが得られるまでは現状維持でいこうってのが、辿り着く結論になってしまう。


「……それで、えじそん先生ってのが二人のクラスに来るみたい」

「ふーん。良く分からないけど、何か凄そうだね」


 そこから話題は二人のクラスにやってくるという、えじそん先生のことに変わった。

 有名人が学校にやってきて、科学の楽しい実験をやってくれるっていうのは、きっと良いことなんだと思う。それで科学に興味を持つ子が増えるかもしれないし。

 でも優太はあまり興味なさそうだ。


 そう言えば、優太はたぶん学校に行ったこと無いんだよね。

 幼い頃は人体実験を受けてて、そこから逃げ出した後は今の姿になってしまったわけだし。

 だから、学校についてのイメージもあまり無いのかもしれない。 


 何だか優太に対して、少し申し訳ない気持ちになった。


 いっそ話題を変えてしまおうかと思った時、スマホが鳴った。

 これ幸いと、件名を確認する。


「……あれ? ヴィクターさんからだ」


 忙しいって言ってたけど、何かあったのかな?

 食事中で行儀は悪いけど内容だけでも確認しといた方が良いかと思い、メッセージを開く。


 ヴィクターさんからの連絡は少し長めだった。

 読み進めていくうちに、その内容に心がざわざわとしてきた。


「お姉ちゃん、どうしたの?」


 僕の様子がおかしかったのか、優太が尋ねてきた。


「優太……これ見て」


 言葉で伝えるより、見せた方が早い。

 僕はスマホを渡して、ヴィクターさんからのメッセージを優太に見せた。


 優太はメッセージを読み進めると、顔を上げて僕を見てきた。


「これ……さっき言ってた」

「うん」


 そこに書かれてたのは、今話題にしてたえじそん先生についてだった。

 何故、ヴィクターさんからそんな連絡がくるのか。


 その理由はえじそん先生の正体にあった。


「この人……共栄会の一員なんだ……」


 優太が呟く。

 そう、ヴィクターさんからのメールに書いてあったのは、えじそん先生が共栄会の一員だということだった。


 どうやらヴィクターさんは、えじそん先生が僕らの街にやってくるというのを何かで聞いたらしい。

 それで、僕らのことが気になって忠告の連絡をくれたのだ。


 共栄会のメンバーは一癖も二癖もある人物ばかりらしくて、油断してると裏をかかれるなんてことがあるらしい。

 特に、僕達の存在は統制局に知られちゃってる。

 何がきっかけで、僕らがこの街にいるって気づかれるか分からないから、極力近づくなとメッセージには書かれていた。


「……どうしよう」


 困った。極力絡むなと言われても、えじそん先生がやってくるのは下村さんと藤堂さんのクラスだ。

 同じクラスで特別授業を受けるのに、全く絡まないってのは無理だ。

 それこそ、授業を休んでもらうしかない。


 ひとまず、このことは二人に伝えなきゃいけない。


 僕は急いで二人に連絡を入れた。

 そうして翌日。僕の家に再び皆で集まった。


「――あの人って悪い人の仲間だったんだね」


 説明し終えたところで、下村さんが感想を漏らした。


「そうみたい。それで……特別授業のことなんだけど……」

「私は特に問題無いのよね?」


 授業を休めないかとお願いする前に、藤堂さんが尋ねてきた。

 いや、藤堂さんも姿を見せるのはマズい……いや、待てよ。


 ……言われてみると確かに、稲葉さんの事件の時に藤堂さんが稲葉さんの前に姿を現したのは、最後に戦った時だけだ。

 そこから稲葉さんは車で逃げて、その後すぐに神前さんが対処したから、藤堂さんの存在はまだ統制局には知られてないと考えて大丈夫な気がする。

 

「……そうかもしれない……一応ヴィクターさんに聞いてみるよ」

「お願いするわ」


 藤堂さんに頷いて、その場でヴィクターさんに連絡を入れる。

 忙しいだろうし、返事はすぐには来ないかもしれない。なので、藤堂さんについては一旦待ちとなった。


「私がマズいかぁ」


 下村さんが困った顔をした。

 下村さんは雪だるま型ロボットの時に既に知られているからね。


 僕は改めて、下村さんに尋ねた。


「授業を休んだりはできるの?」

「えー、元気なのに休むのはしたくないなぁ」


 うっ……確かに仮病を使えってのは、大人の僕が言うべきではないのかもしれない。

 でも、下村さんの安全のためだしなぁ。


「もしここで下村さんのこと気づかれると、この辺に住んでることがバレちゃうよ。そしたら、統制局の人達が攻めてくるかもしれない」


 そうなったら、普通の生活を送るのは無理になる。

 さすがに譲ることはできない。


「まぁ、そうだよね……分かった。仮病で休むよ」


 下村さんが複雑な顔をしてる。

 藤堂さんも嫌そうだ。

 藤堂さんもズル休みはダメって言うタイプだもんね。


 でも共栄会の人達に顔を見せることが危険なことだってのは分かってくれてるから、最終的に二人とも受け入れてくれた。

 藤堂さんもヴィクターさんからの回答次第では、仮病を使うことになった。


 良かった。これでひとまずは……安心かな?

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