6 親近感は湧くけど……何かが違うね
平日の夕方。僕はマジックカフェで、パフォーマンスをさせてもらっていた。
今日披露しているのはコインやハンカチを使ったマジックだ。今日も受けは上々だね。
いつも居るおばあちゃん、おじいちゃん達が喜んでくれてる。
観客の中には優太もいた。
優太は最近では僕のパフォーマンスを見学するか、さきちゃんのところに行くか、が半々ぐらいだ。
今日は僕の見学をする日みたいだ。
ちなみに下村さんと藤堂さんは修学旅行中だ。
そんなわけで、いつもの常連さんと優太に笑顔を向けながら、僕はマジックを行っていた。
……まぁ、今日はそれ以外にもお客さんがいるんだけどね。
パフォーマンスを終えて、お客さんのテーブルへ挨拶回りをする。
おばあちゃん、おじいちゃん達のテーブルを笑顔で回って、その後辿りついたいつもとは違うお客さんのテーブル。
「ありがとうございました……」
「いやー、凄かったっすね」
二人で座ってるお客さん。
そのうちの一人、明るい雰囲気で話しかけてきたのはパーマで黒髪。垂れ目な青年。
以前に観光地で巻き込まれた、浦辺さんの事件の時に会った人だ。
リベレイターズって名乗ってる集団の一員だね。
彼らはおそらく、適応研による人体実験の被害者――僕と優太の同類だ。
もう一人は女性で……初めて見る人だ。
茶色がかった長髪、大人びた雰囲気の、落ち着いた感じの人だ。
「それじゃあ――」
「あ、ちょっと待って」
挨拶も手短に、さっさとテーブルを離れようとしたけど呼び止められてしまった。
「何か用ですか?」
営業スマイルで適度な距離感を保ちつつ答えると、青年の方が慌てた感じになった。
「いやぁ、ちょっと話がしたいんすけど……」
何かこの人、腰が低いね。
見た目小学生の僕に対して、へりくだり過ぎじゃない?
「急にごめんね。お姉さん達、君と話がしたいの。この後って時間ある?」
しどろもどろになってる男を見かねたのか、女の方が用件を伝えてきた。
やっぱりそういう感じかぁ。
まぁ、仕方ないか。どうやって僕のことを見つけ出したのかも気になるしね。
「先に用事を全部済ませてからなら、良いですよ」
そう伝えてから、残りのテーブルを回った後、カウンターへと戻る。
マスターがいつものようにご飯を作ってくれようとしたけど、それは断って手短に話を済ませた。
僕らの様子に気づいてたのか、マスターは心配してくれたけど、大丈夫だと伝えて退店する。
店を出る時には優太と一緒に出て、外で少し待ってるとあの二人も出てきた。
「それじゃあ、どこか落ち着いて話せる所へ行きましょう」
女の言葉で向かったのはカラオケだった。
この人達はたぶん僕らと同類ではあるけど、今のところ仲間って訳ではないし、家に連れて行くのは躊躇いがあった。
家以外で周りに話が聞かれないような場所で思いつくのがカラオケしかなかったのだ。
カラオケの音量を消して、静かになった個室。
オレンジジュースを飲みながら、改めて二人に尋ねた。
「それで、僕らになんの用?」
「ごめんなさいね。急に押しかけて」
そう切り出して語ってきたところによると、女の人は名前を文月綾菜というらしい。それで男の人が古谷斗真。
彼女もまたリベレイターズの一員で、僕達を見つけたのは彼女と古谷さんが持ってる特殊な力を組み合わせたんだとか。
特殊な力というと、たぶん適応研で実験を受けた結果得た力なんだろうけど……。
「特殊な力を持ってるなんて、僕達に言っても良いんですか?」
「えぇ。あなた達には、むしろ言った方が良いと思ったのよ」
ニコリと笑う文月さん。
僕が黙ると、文月さんは話を続けた。
前回の事件の時に居た、病院に搬送された男の人は渡亮太、女の人は高瀬薫子というらしい。
二人共、命に別状はなくてもうすぐ退院できそうだということだ。それは良かったよ……優太の応急処置が効いたのかもしれないね。
それで、文月さん達がわざわざ僕らを探してやってきた理由はと言えば――。
「あなた達って、あの組織の被害者なの?」
あぁ、やっぱりそう考えてるかぁ……だから、『僕達には言った方が良い』って言ったんだね。
その後、続けて語られた言葉によると、僕らが適応研から人体実験を受けた被害者であった場合、彼女達は僕らの保護と勧誘をしたいらしい。
リベレイターズは僕達が予想した通り、組織に人体実験をされた被害者の集まりなのだそうだ。
適応研はリベレイターズの人が潰した。その際に、多くの被害者が組織のもとから逃げだした。中にはリベレイターズの人達も把握できてない被害者がいるらしい。僕達のことも、その一部だと判断したというわけだ。
逃げ出した被害者達が平和に生きているのなら構わないけど、残った組織――技研や適応研は逃げた被害者達を回収しようと狙っている。だから、その人達を保護したいのだと文月さんは語った。
「だから、もし皆が良ければ、一緒に仲間になって欲しいと思ってる」
そう話す文月さんの表情は真剣で、嘘をついては無さそうだった。
ジュースを一口飲んで考える。
文月さん達が僕らに接触してきた理由は分かった。
問題は、僕らのことをどう伝えるべきかだけど……。
僕と優太はたぶん適応研の被害者だ。たぶん、とつけてるのは状況証拠しかないから。とはいえ、可能性は高いと思う。
そういう意味では同じ被害者である彼女達に対して、親近感が湧かない訳ではない。
でも、僕らには下村さんと藤堂さんがいる。
彼女達は被害者じゃない。全く普通の一般人だ。
下村さん達を巻き込まないためにも、あまりリベレイターズの人とは関わりたくない。けど、そうも言ってられない状況が僕達にもある。
僕達は統制局から狙われてる。
保護してもらえるというならありがたい話ではあるけど……下村さんも藤堂さんも適応研の被害者じゃないしなぁ。
この人達が一般人も対象に保護してくれるか分からない。
「仮に……僕らが被害者じゃなくて、この話はどうなるの?」
「どうもならないわ。それなら話はおしまい。……まぁ、その場合私達の秘密守ってもらうために、幾つか約束をしてもらわないといけないけど」
なるほど……一般人だったら対象外っぽいね。
それに秘密を守るための約束か……あまり良いものではないだろうね。
優太と顔を見合わせる。
どうしよう?
優太の目は明らかにそう問いかけてる。
うん、僕もだいぶ優太の表情が読めるようになったね。
でも、そうだね……正直、僕らだけで決めていいことじゃないと思う。
僕らが伝えられるのは僕と優太に関してだけだ。
下村さん達のことを勝手に伝えるのはだめ。それは彼女達に確認してから。
でも僕達二人が被害者かもと伝えると、この人達はきっと下村さん達も被害者なんだと勘違いするはずだ。
そうなると話はややこしくなってしまう。
僕達が被害者で、下村さん達は一般人だって話した時に、この人達が下村さん達をどう扱うかも分からない。
ここはやっぱり、皆で話し合って相談してから決めるべきだろうね。
「……ごめんなさい。今すぐに色々と話すことはできないです」
僕は二人に向かって頭を下げた。
「今すぐってのはどういう意味?」
「僕らにも仲間がいるから……その人達の意見も聞かずに、勝手なことはできないです」
こんな言い方をしたら、この人達は僕らのことを被害者で間違いないと確信するんだろうなぁ。まあ、僕と優太に関してはそれで合ってるんだけどね。
僕の言葉を聞いて、文月さんが少し考える仕草を見せた。
「そう……その人達がオーケーしたら、良いのね」
「話すのはね。文月さん達の仲間になるかどうかは、また別の話だよ」
「……分かったわ」
「ちょっ、良いんすか?」
文月さんが頷くと、古谷さんが慌てたように文月さんへ話しかけた。
「仕方ないじゃない。それに、断られたわけじゃないしね」
文月さんの方は、さっぱりした性格なのかな?
古谷さんの方は、神経質っぽいね。
文月さんが僕を見た。
「それで……仲間達とはいつ話し合ってくれるの?」
「えーと……」
確か二人の修学旅行は明日までだよね。
その後で会う約束をしたとして……。
「来週末には答えを出せるんじゃないかな?」
僕の言葉に文月さんが頷いた。
「分かった。それじゃあ、また会いに来るわ」
「それは……来週末にってこと?」
「いいえ」
立ち上がり、帰り支度を始めた文月さんが首を横に振った。
「詳しくは言えないけど……私達、大きな作戦が控えてるの。たぶん、その後になると思う」
「そうなんですね……良く分からないけど、頑張ってください」
「ありがとう。あなたも……良い返事を期待してるから」
そう言って、文月さんと古谷さんは帰っていった。
律儀にカラオケ用のお金も置いてってくれた。
二人だけになった個室で、優太が口を開いた。
「大きな作戦って何だろうね」
「分からないけど、あの人達の目的を考えたら……やっぱり組織に関することじゃない?」
組織に対して何かをする予定があるなら、なおさら彼らと関わるのは危険な気がする。
僕は組織から狙われないようにしたい訳だからね。
「そっか……。そうすると、彼らのことは気にはなるけど……関わらない方が良いのかもしれないね」
優太も同じ結論に至ったみたいだ。けど、それよりも驚くことがある。
優太が他人を気にかけるなんて……珍しいね。
「やっぱり、被害者の集まりっていうのが気になる?」
「うん……でも、今日話して分かった。やっぱり、あの人達は僕達の家族とは違うよ」
家族……家族かぁ。
確かに……彼らは被害者を保護って言ってたけど、一方で組織とは戦おうとしてる。
それだと保護する人も逆に危険に晒しかねないんじゃないかな。
僕らの兄弟なら……皆、家族を第一に考えるはずだもんね。
被害者の集まり……親近感は湧くけど、あの時の……僕達の家族とはやっぱ違う。それは優太の言う通りだと思う。
「……まぁ、とりあえず下村さん達と話し合おう」
「そうだね」
僕らは頷き合った。
そうして、方向性を決めた僕達。
そんな僕らのもとに、下村さんが変身できなくなったと藤堂さんから連絡が入ったのは、晩になってのことだった。




