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死ねない少女は生き直したい~二百年生きた手品師、魔法少女に巻き込まれて平和を守る~  作者: 柚月由貴
四章

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5 異変

 修学旅行二日目、長山第二中学校の生徒達は大阪へと移動していた。

 集団行動で、大阪を代表する大阪湾に面した水族館の一つを巡り、そこからクルーズ船で大阪湾の景色を堪能しつつ、某遊園地へと向かう。


 遊園地では再び班毎に別れて、映画等をモチーフとしたアトラクションを満喫していた。


「――あれ? 今日は気が合うね」

「ほんとね。……京都よりは狭いのもあるかもだけど……にしてもね」


 下村朝陽と藤堂渚がお互いに話す。

 昨日は訪れた名所が全く噛み合っていなかったが、ここでのアトラクション巡りは度々重なっていた。


 しかも、待機列の折り返しの関係で隣り合うことが多く、度々顔を合わせていた。


 とはいえ、一緒に行動してる訳では無いので、会話も限定的だ。

 顔を合わせる度に都度、一言、二言言葉を交わす。

 それ以外は、基本的には班員の中で会話は成り立っていた。


「――今のすっごい楽しかった」

「ね。後でもう一回乗りたいね!」


 とあるアトラクションの後、朝陽は里中まどかと共に感想を言い合い、はしゃいでいた。


 次はどこに行こうか、そんな話を班員達と相談しようとした時だった。


「――あれ? 何かあそこに変なのねぇ?」


 班員の一人、爽やかな雰囲気の男子が何かに気づいて指を差した。

 その先、とある建物の屋根の縁部分に人型の人形のようなものが鎮座していた。

 いや、人形のように見えるが動いている。

 建物の上から、地上の様子を見ているようであった。


「ほんとだね……何かのマスコット? ……にしては、見たことないけど。妙にリアルだし」


 眼鏡の男子が不思議そうに首を捻る。

 まどかもまた、興味深げにそれを見た。


「ね、何だろね……あさひ?」

「え? あ、うん……何だろね」


 どもる朝陽。その様子を不思議そうにまどかが見る。


 朝陽は周りの様子を窺った。

 ついで、スマホを取り出して何かを打ち込む。


 少しの間スマホを眺めていた朝陽だったが、突然顔を上げて班員達へと声をかけた。


「ちょっとごめん、私トイレ!」

「え? ちょっ、あさひ――」


 そう言うや返事を待たずに班員を置き去りにして、朝陽は駆け出した。


 走っているとスマホに着信が入った。渚からだ。


「――もしもし、今人目のつかなそうな所を探してるわ」

「私も」

「いい? 誰にも見つからないところで変身して、誰にも気づかれないよう処理するわよ」

「うん、オッケー」


 短いやり取りをした後、電話を切る。

 朝陽達の目的は先程見た人型の人形のようなもの。

 班員達はマスコットと考えていたが、朝陽と渚は別のものと予想していた。


 彼女達が予想したものは、地元で何度も見た存在――ロボットである。

 朝陽達がそう考えた理由は単純である。

 建物の上に置かれている人形が、その場の雰囲気にそぐわないこと。

 遊園地側があまり注目されないようなところに人形を置くとは思えないこと。

 そういった主観による判断である。


 仮に朝陽達の予想通り、あの人形がロボットだったとして。

 そのロボットが何故、遊園地(こんなところ)にいるかは分からない。

 分からないが、人形型ロボットが遊園地内に視線を落とす姿は何かを物色してるように見えた。――まるで獲物を探しているかのように。


 朝陽達は統制局に存在がバレている。

 大人しくしなければいけないことは理解している。

 理解はしているが、学校の仲間が狙われるかもと思うと看過できなかった。


 こっそりと近づき、バレないように破壊する。それが二人が立てた作戦であった。


 もちろん、朝陽達の思い過ごしの可能性もある。

 理由は分からないが、本当に遊園地側が配置した人形である可能性はある。

 だが、初めから思い過ごしであると無視して何かがあってからでは遅い。

 本当にロボットかどうかを確認する意図も含めて、彼女達は動いた。


「……何でこんな時に現れるのよっ」


 走りながら、毒づく朝陽。

 彼女は最近色々と悩んでおり、自身のことに手一杯な状況であった。

 大人しくしていないといけないことに、少し安心すらしていた。その間は街の平和を守る活動のことを、考える必要がなかったのだから。

 せめて修学旅行の間は普段の悩みを忘れて遊びたい。そんな想いが朝陽に不満を漏らさせる。

 

「修学旅行ぐらい……楽しませてよっ!」

 

 苛立ちが募りつつも、走る。

 そうこうしているうちに朝陽は建物と建物の間――何も無いスペースに、通りから隠れられるところを見つけた。


 変身しようと急いでそこに駆けこみ人の視線を切った……のだったが――。


「――何で……っ!?」


 いつものように変身しようとした朝陽だったが、何故か変身ができなかった。


 焦りながらも繰り返し、試す。

 自分の想いをイメージするように、何度も。


 これまで何度もやってきたことのはずだ。


 ――しかし、朝陽の姿には一切の変化が起こらなかった。


「どうしてっ?」


 そうしている間にも時間は過ぎていく。


 早くしなければ……。

 そう思えど、気持ちに反して何も起こらない。


 そうこうしているうちに、スマホに着信が入った。


『――ロボットじゃなかったわ。ただの人形だった。私達の取り越し苦労ね』


 渚からの連絡だ。

 それは事態が解決したことを告げるものであった。


 朝陽達の予想が外れて人形がロボットではなかったことに安堵しつつも、自分が何もできなかったことに動揺する朝陽。

 彼女はスマホを耳に当てたまま、呆然とその場に立ち尽くしていた。


『あさひ?』

「……ごめん」


 朝陽が何も話さないことを不審に思ったのか、渚が朝陽の名を呼んだ。

 対する朝陽は、謝罪を告げるだけで精一杯であった。 


『いいのよ。園内は混んでるし、一人になるのは大変だわ』


 渚の気遣った言葉が、聞こえてくる。

 それは朝陽の謝罪が、一人になれる場所を見つけることができなかったことによるものだと判断しての言葉だった。


 しかし、そうではない。

 朝陽は一人にはなれた。なれたのだが、変身ができなかったのだ。

 状況は、むしろ悪かった。


 オクタと契約して以来、初めての状況にショックを受ける朝陽であった。


◇


 その後、どうやって班のもとに戻ったか、朝陽は覚えていなかった。

 気づいたら皆のもとに戻っており、その後もどこか上の空で過ごした。


 班員達も明らかに様子がおかしい朝陽を気にして、声をかけた。

 だが朝陽は適当な返事をして、誤魔化すだけだった。


 ようやく、頭が動き出したのはその夜になって――宿泊した大阪のホテルの中であった。

 ひとまず朝陽は渚に連絡し、二人きりで落ち合うと今日の出来事を渚へと伝えた。


「――それ、本当なの?」

「……うん」


 渚の問いに力なく頷く朝陽。


「オクタとの契約は破棄してないわよね?」

「もちろんだよっ。これもちゃんとあるし……」


 そう言って取り出したのはキーホルダーサイズのローラーだ。

 それを見て、渚も手を顎に当てて考え込む。


「何か心当たりはあるの?」

「ううん、何もない」


 そう言って、首を横に振る朝陽。


「前変身したのはいつだった?」

「えーと……さきちゃんの事件の時だから、二月かな」


 宙に目を彷徨わせながら答えた後、朝陽は思いついたとばかりに口を開いた。


「長い間変身してないと、できなくなるとか?」

「私も前に変身したのは、あの時よ」


 条件は渚も同じ。であれば渚だけ変身できたのはおかしい。


 その後も思いつくことを挙げてみるものの、しっくりくるものは無く。その場で結論が出ることはなかった。


 渚が首を横に振った。


「オクタに聞かないと、どうしようもないわね」

「やっぱり……そうだよね」


 項垂れる朝陽。

 渚が朝陽の肩に手をのせた。


「まぁ、どっちにしろ今は大人しくしてなきゃいけないんだし、暫くはゆっくり休んでなさい」

「うん……」

「葉月には私から状況を伝えておくわ」

「ありがとう……お願い」


 そう告げた後、朝陽は渚と別れて一人で部屋へと戻った。


「あ、あさひ。大丈夫?」


 部屋に入ると、まどかが心配そうな顔で尋ねてきた。


「あ、うん。ごめんね、心配かけて」


 たははと頭を搔きながら朝陽が言い訳する。

 心配してくれてるのは分かるが、落ち込んでる理由を言えるはずもない。

 友人に罪悪感を抱きつつも、朝陽は誤魔化しにかかった。


「本当に、何でもないから。大丈夫だよ」


 努めて元気な風を装って、伝える。

 それをまどかは、少し辛そうに見ていた。


「……何があっても、私はあさひの味方だからね」

「……ありがとう」


 無理に話を聞こうとしない。適度な距離感でそっとしてくれる。友人の気遣いがありがたい。


 まどかへ心の底からお礼を言うと、朝陽は早めに布団に入るのであった。

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