3 謎は深まるばかりだね
廃病院の地下施設。
そこの最奥の部屋に、僕は優太と二人で訪れた。
『お、嬢ちゃん達やん。ちっすー』
『え? お姉ちゃん達、来たの? こんにちは!』
最初に声をかけてきたのは、この施設のナビゲーションAI。それに追随するように、さきちゃんが挨拶をくれた。
さきちゃんにはカメラがついてない。AIの言葉で、僕らが来たと認識したんだろうね。
僕らも挨拶を返して、さきちゃんの筐体が置かれた机まで移動した。
「――待たせたな」
さきちゃんやAIと世間話をしてると、低めの声が響いた。
やってきたのはヴィクターさんだ。
「こんにちは」
「場所を移すぞ」
挨拶するとすぐにヴィクターさんが背中を向けて、部屋の入口に向かって歩き出した。
今日、僕らはヴィクターさんからの呼び出しを受けて、ここにやってきた。
話があるみたいだけど、場所を変えるってことはさきちゃん……というより、AIに聞かせられない話みたいだね。
その時点で、どういう類の話をする予定なのかは想像がつく。
さきちゃんにまた後でと伝えて、僕らはヴィクターさんの後を追った。
ヴィクターさんの後ろを歩きながら、尋ねる。
「神前さんは?」
「あいつは別の仕事だ」
ふーん、忙しそうだね。
その後は特に会話することもなく、同じ地下施設内の別の部屋に移動した。
「ここは大丈夫なの?」
「あぁ、監視カメラのみで音声は録られてない」
言いながら、ヴィクターさんは部屋に放置されていた椅子に腰かけた。
僕達も同じく座ろうとして、椅子の前で立ち止まった。
うーん、少し埃っぽいなぁ。
座るのを躊躇ってると、優太が影を操って椅子を作ってくれた。
背もたれの無い、丸椅子のような形だ。
僕は優太にお礼を言って、影で作られた椅子に座らせてもらった。
「それで……話って?」
「《本家》と当主様についての情報の共有だ」
ヴィクターさんの言葉に少し緊張する。
やっぱり……AIに聞かせられないってなると、そういう話だよね。
優太も少し身構えてるみたいだ。
でも、続くヴィクターさんの言葉に少し拍子抜けした。
「……まぁ、と言っても大したことは分かってないんだがな」
何でも、これから暫くは忙しくなりそうだから、一度現時点での情報を伝えに来てくれたみたいだ。
申し訳ないけど、ありがたい。
僕らはさっきよりも幾分、落ち着いた気持ちでヴィクターさんの話を聞いた。
「まず、《本家》についてだ。以前は……どこまで話したんだったか」
「あまり活動してる話を聞かない。でも、確実に存在している。みたいな感じだったかな?」
そう伝えると、ヴィクターさんはなるほどと頷いた。
「《本家》の最近の活動内容が分かった。最近は《適応研》の残したデータを集めてるらしい」
適応研って人体実験してたところだ。
「遥か昔から、《適応研》が崩壊するに至るまで。あらゆる年代の情報を回収して、何かを調べているようだ」
遥か昔から……僕や優太が二百年ぐらい前に人体実験を受けてたのも、たぶん適応研でなんだよね。
てことは、本家の調査対象には、僕らの情報も含まれているのかもしれない。
「回収ってのはどうやって?」
「様々だ。迅達、実働部隊が集めたものを回収したり……あるいは自分達でも動いてるようだ」
自分達でも動いてるというのは、どうやら本家にも実働部隊みたいなのがあるらしい。
「リベレイターズの人らも狙われてるの?」
「推測にはなるが、おそらくそうだ」
なるほど。
なら、やっぱり僕と優太も狙われる対象なんだろうね。
普段から、もっと気をつけないといけないね。
「本家が適応研のデータを集める理由だが、表向きは、組織の目的――人類の進化のためと言っている。……だが、うちの総代は何かあると踏んでるようだ」
「技研の総代……ってどんな人?」
「あいつは化け物だよ」
化け物……どういう意味だろう。
僕からしたらヴィクターさんの頭の良さも化け物じみてるんだけど。
それよりも凄いってことなのかな……ちょっと、想像ができない。
「……その人が、別の理由があると踏んでるんだね」
「あぁ、本家が情報を集め始めたのはここ数年らしくてな。適応研が崩壊してからの期間に差があるというのが理由だ」
元から適応研のデータが人類の進化のために重要だと思ってるなら、崩壊した後すぐに集め始めるだろうし、遥か昔のデータを今更集めだすのもおかしい。
それよりも、ここ数年で何か事情ができて、急に集める必要がでてきたんじゃないかってことみたいだ。
その事情が何かは分からないけど……適応研のデータに中に必要なものがあると、技研の総代は踏んでいるってことだね。
「以上が、本家に関する情報だ」
「分かった。ありがとう」
お礼を言うと、ヴィクターさんが頷いた。
「次に当主様に関することだが……こちらは、やはり情報がほとんど無い」
「あまり表に出てこないらしいもんね」
「あまり、というより……全く、のようだ」
前に聞いたことを口にしたら、ヴィクターさんに訂正された。
何でも技研の今の総代は、その地位についてから四、五年は経つらしいのだけど、これまで当主様とは一度も会ったことが無いらしい。指示も全て、当主様の代理が行っているそうだ。
「統制局の連中は、当主様が健在なのかどうかも疑ってるらしい」
続くヴィクターさんの言葉に少し驚く。
「でも……不老不死なんだよね?」
「それを疑ってるということだ」
四、五年もの間、姿を見せない、指示も直接出さない。となれば、疑ってもおかしくは無いのかな?
仮に健在だったとしても、表に出てこれない何らかの理由があるのかもしれない。
もしかしたら、適応研のデータを集めてることとも関係してるのかも。
他には……ドラマとかだったら、実はその代理って人が本家を操ってるって線もあるよね。
いずれにせよ情報は足りてない。
ヴィクターさんがその辺の話をしないのも、確証が何も無いからだろう。
「当主様についての情報はその程度だ。もう少し探ってはみるが、おそらくこれ以上は厳しい」
そもそも表に出てこないんだもんね。
情報が集まらなくても仕方ない。
僕はヴィクターさんに向かって頷いた。
「分かった、ありがとう」
ヴィクターさんの話が一段落ついた所で、優太が口を開いた。
「さきの身体は用意できそう?」
「今は難しい。もう少し待ってくれ」
さっきも忙しいって言ってたもんね。これから暫くは、こっちに来れないみたいだし。
「何かの任務が立て込んでるの?」
「いや、内輪揉めに巻き込まれててな」
「内輪揉め?」
疑問に思ったのが、顔に出たのだろう。
そこからヴィクターさんが教えてくれた。
前回のさきちゃんの事件では統制局の浦辺さん――本名は稲葉さんというらしい――が技研の兵器を故意に暴走させてたらしい。
でも技研としては、貸し出した兵器を勝手に暴走させることは認めてない。
それで、統制局が技研の兵器を暴走させてたことについて、会議で告発する予定なのだとか。
今ヴィクターさんは、そのための準備に駆り出されてるのだそうだ。
「なるほど……大変そうだね」
「まぁな。そのせいで暫くは動けないが……どっちみちお前達は大人しくする予定だろう?」
今は静かに待ってろ。そう言外に言われる。
うん、まぁそうだね。
下村さんの存在がバレている以上、住んでるところまで特定されないように僕達は大人しくしていないといけない。
派手に活動することはできないし……待つのは仕方ないかな。
優太も納得してるみたいだったので、僕はヴィクターさんに向かって頷いた。
下村さん達には……あの子達はもうすぐ修学旅行だし、直前に色々言って変なことに気を遣わせる必要はないよね。
戻ってきてから、情報は共有しようかな。




