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死ねない少女は生き直したい~二百年生きた手品師、魔法少女に巻き込まれて平和を守る~  作者: 柚月由貴


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9/11

8 駆けっこってあんまり得意じゃないんだよね

 符丁を唱えたことで動き出した二宮金次郎の銅像。

 宝玉は、その二宮君の額に埋まっているので、二宮君を捕まえることが今回の目標になるみたいだ。

 さて、どうしようかな。


「たぶん、近づくと逃げるんだよね?」


 あっという間に去っていった二宮金次郎――フルネームで呼ぶのも面倒だし、二宮君でいいか――二宮君だったけど、逃げていった方へと追いかけたら、すぐに見つかった。

 二宮君は今、中庭を抜けた先――校庭に出たところで立ち止まっている。

 ピタッと止まってる彼の様子を見つつ、背後から一歩、二歩と近づいてみる。

 あと五メートルぐらい、というところで二宮君がこちらへ振り向いた。

 ばったりと視線が合い、にじり寄った姿勢のまま、僕はその場に静止した。


 ……こっちを見てはいるけど、動こうとはしないね……近づいても大丈夫かな?


 更に一歩前に出た瞬間、二宮君が再び動き出した。

 僕に背を向けると、その場から猛ダッシュで校庭の中央まで走っていく。


 あぁ、もう。やっぱ近づき過ぎると駄目か。


 内心で毒づきながら、二宮君の後を走って追いかける。


 校庭の中央を抜けて、フェンス際へ。そこから左右に折れて、縦横無尽に校庭を駆け回る二宮君。

 僕も必死に走ったけど、とても追いつける気がしない。

 何せ二宮君の方が、足が長い。しかもロボットだから体力なんて無い。何より僕は運動がちょっと、ほんのちょっとだけ苦手だ。勝てる訳がない。


 最初に開いた距離は縮まるどころか広がっていってる。僕は走りっぱなしなのに、彼は一旦立ち止まって、僕が追いつくの待つ余裕まである。

 深夜に突如始まった銅像との追いかけっこは絶望的だった。


 ヤバいな、これ。このまま朝を迎えたらどうなるんだろ?

 学校に来たら、二宮金次郎が校庭を爆走してた。

 ……絶対、騒がれるじゃん。


 何とかしないといけないと分かっているけど、どうしようもない。

 今は再び距離が開きすぎて、二宮君は立ち止まって余裕の状態だ。

 がむしゃらに追っても駄目だ。何か作戦を考えないと。

 僕は一旦追うのを止めた。息を整えながら、二宮君を見据える。


 近づくと逃げるんだよね。パッと思いつくのは、どこかに追い込むことだけど上手く誘導できるかな?


「――ねぇ、何してるの?」

「いや、あの二宮君を捕まえたくて」

「二宮君?……うわっ、何あれ。あれって二宮金次郎だよね?」

「そうだよ、ちょっと特別な事情で……て、え?」


 僕、今誰と話してるの?

 疑問に思って振り向くと――。


「こんばんは。また会ったね」


 そこには三度目の遭遇となる赤いアイドル衣装の女の子がいた。

 ……うん、会う可能性はあると思ってたけど、見事に出会っちゃったね。再会するのがちょっと早すぎるんじゃないかなぁ。

 赤い女の子の隣には前回もいた青い女の子と……。


「……ぬいぐるみ?」


 そう、ぬいぐるみが浮かんでいた。見た目はデフォルメされた兎のぬいぐるみ。黒い体に金色の目。そこだけ言葉にすると、すごいかわいらしい存在に見える。

 でもなんだろう。大きな口とそこから覗く、ギザギザの歯が不気味な雰囲気を醸してる。こういうのが可愛いって言う子もいるのかもしれないけど、少なくとも僕には不気味に見えた。


「あぁ、この子はオクタだよ。妖精なんだ」


 僕の視線に気づいたのか、赤い女の子がぬいぐるみを指差して、そう言った。

 ようせい……って妖精のこと?


「ぬいぐるみじゃなくて……妖精?」

「そうだね。僕はぬいぐるみなんかじゃないよ」

「うわっ、ぬいぐるみが喋った」


 え? その身体の、どこから声出てるの?


「だからぬいぐるみじゃなくて、妖精だよ」


 ぬいぐるみ――じゃなくて、妖精らしい存在が手を挙げて訂正してくる。

 動いてるっ!

 え? 何? 本当に妖精なの?

 驚く僕をじっと見ていたぬいぐるみ――もとい妖精が更に口を開いた。


「……ふーん。朝陽からは火傷を負ったって聞いてたけど、そんな大したことは無かったみたいだね。それとも……この短期間で治ったのかな?」

「ほんとだ! あんな酷い火傷だったのに、治ってる。前と同じだ!」


 あー、目ざといな。……いや、さすがにあれだけの火傷が無くなってたら目立つか。

 赤い女の子にも気づかれちゃったし、ここから誤魔化すのは無理があるかなぁ。

 仕方ない、開き直ろうか。


「うん、そうだね。治ったよ」

「どうやって治したの? さすがにあれが勝手に治るわけないよね? 治療の魔法とか使えるの?」

「魔法? ううん、僕はそんな力持ってないよ」


 不老不死の力で勝手に治るだけだからね。

 ていうかこの子、今魔法って言ったよね。しかも使えて当たり前みたいな感じに。

 てことは前使ってた謎の力って、やっぱり魔法なのかな。

 凄いや、本物の魔法少女だ。

 あ、てことは妖精って、魔法少女の傍にいるマスコット的なやつ?

『僕と契約して、魔法少女になってほしいんだ』

 みたいな感じかな?


 二百年生きて初めての出会いに少し感動しながら妖精を見てると、その横で赤い女の子が悩ましげな顔をした。


「どうしたの?」

「……いや、何でもない」


 何だろう? 変な子だね。

 妖精の方も何か黙って僕のことを見てるし、僕の顔に何かついてるのかな?


「――ねぇ、あれってもしかして宝玉に関係してる?」


 何かついてるのかと思って顔をこすってると、今度は青い女の子の方が尋ねてきた。

 その視線は二宮君の方に向いてる。

 あぁ、そう言えば二宮君のことを忘れてた。

 と言っても、僕一人じゃ難しいしなぁ。……いいや、この子達に任せちゃお。


「そうだね。あの二宮君の額に宝玉がついてるよ」

「そう。私達が取れば、私達のものでいいのよね?」


 青い女の子から凄い睨まれてる。

 前回のこと、だいぶ根にもってそうだね。

 まあ、仕方ないか。前回は僕も強引だったし。


 僕は肩を竦めると、彼女たちに譲るために一歩引いた。


「いいよ。どっちみち僕じゃ難しそうだし」

「え、でもそんなことしたら怒られるんじゃないの?」


 赤い女の子が驚いた顔をしてる。

 怒られるって何がだろう……あぁ、二宮君から宝玉を回収したら、学校の人が怒らないのかってことかな?

 

「別にいいんじゃない? バレないだろうし」


 そもそも学校の人達は、二宮君に宝玉が隠されてたことすら知らないんじゃないかな。


 そう思って、バレないでしょって言ったら、また変な顔をされた。

 よく分からないけど、とりあえず情報だけ伝えとこうかな。


「彼、追いかけると走って逃げるから。足早いから頑張って」

「なるほど、今回は宝玉自身が逃げるわけね。オクタ、あさひ、挟み撃ちで捕まえるわよっ」

「分かった。色々話するのにも、まずは宝玉を手に入れてからだね」

「了解、それじゃあ行こうか」

 

 僕の話を聞いて納得したのか、青い女の子が二宮君を見据える。彼女の呼びかけに応えて、赤い女の子と妖精も頷いた。

 やる気満々だね。大丈夫とは思うけど、一応注意だけはしとこうかな?


「捕まえた時に、二宮君が暴れる可能性もあるし気をつけてね」


 火柱みたいな危険なものもあったし、二宮君を捕まえて終わり、とはならないかもしれない。

 だから気を付けてと声をかけたけど、二人の魔法少女が驚いた顔をした。

 僕、そんなに変なこと言ったかな?


「ありがと、気をつけるね」

「言われなくても分かってるわよ」


 少し間を置いてから赤い女の子は笑ってお礼を言ってくれた。前会った時も体の心配してくれたし、性格は良さそうだね。

 青い女の子は捻くれてる感じだなぁ。前の時の態度もそうだし、性格はそんなに良くなさそう。まぁ、僕は気にしないけど。どうせ、深く関わることなんてないし。

 ちなみに妖精くんは僕と彼女達が話してる間、じっと僕のことを見ていた。

 やっぱ、僕の顔に何かついてるのかな。


 そんなことを考えてる間に、二人と一匹……妖精って一匹って数え方で合ってるのかな?

 いいや、面倒くさいし人間と同じ数え方にしとこう。

 ちょうど近場にあった昇降口の段差になってるところに腰掛けて、三人と二宮君の追いかけっこを見物することにした。

次話は明日の朝に投稿します。

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