8 駆けっこってあんまり得意じゃないんだよね
符丁を唱えたことで動き出した二宮金次郎の銅像。
宝玉は、その二宮君の額に埋まっているので、二宮君を捕まえることが今回の目標になるみたいだ。
さて、どうしようかな。
「たぶん、近づくと逃げるんだよね?」
あっという間に去っていった二宮金次郎――フルネームで呼ぶのも面倒だし、二宮君でいいか――二宮君だったけど、逃げていった方へと追いかけたら、すぐに見つかった。
二宮君は今、中庭を抜けた先――校庭に出たところで立ち止まっている。
ピタッと止まってる彼の様子を見つつ、背後から一歩、二歩と近づいてみる。
あと五メートルぐらい、というところで二宮君がこちらへ振り向いた。
ばったりと視線が合い、にじり寄った姿勢のまま、僕はその場に静止した。
……こっちを見てはいるけど、動こうとはしないね……近づいても大丈夫かな?
更に一歩前に出た瞬間、二宮君が再び動き出した。
僕に背を向けると、その場から猛ダッシュで校庭の中央まで走っていく。
あぁ、もう。やっぱ近づき過ぎると駄目か。
内心で毒づきながら、二宮君の後を走って追いかける。
校庭の中央を抜けて、フェンス際へ。そこから左右に折れて、縦横無尽に校庭を駆け回る二宮君。
僕も必死に走ったけど、とても追いつける気がしない。
何せ二宮君の方が、足が長い。しかもロボットだから体力なんて無い。何より僕は運動がちょっと、ほんのちょっとだけ苦手だ。勝てる訳がない。
最初に開いた距離は縮まるどころか広がっていってる。僕は走りっぱなしなのに、彼は一旦立ち止まって、僕が追いつくの待つ余裕まである。
深夜に突如始まった銅像との追いかけっこは絶望的だった。
ヤバいな、これ。このまま朝を迎えたらどうなるんだろ?
学校に来たら、二宮金次郎が校庭を爆走してた。
……絶対、騒がれるじゃん。
何とかしないといけないと分かっているけど、どうしようもない。
今は再び距離が開きすぎて、二宮君は立ち止まって余裕の状態だ。
がむしゃらに追っても駄目だ。何か作戦を考えないと。
僕は一旦追うのを止めた。息を整えながら、二宮君を見据える。
近づくと逃げるんだよね。パッと思いつくのは、どこかに追い込むことだけど上手く誘導できるかな?
「――ねぇ、何してるの?」
「いや、あの二宮君を捕まえたくて」
「二宮君?……うわっ、何あれ。あれって二宮金次郎だよね?」
「そうだよ、ちょっと特別な事情で……て、え?」
僕、今誰と話してるの?
疑問に思って振り向くと――。
「こんばんは。また会ったね」
そこには三度目の遭遇となる赤いアイドル衣装の女の子がいた。
……うん、会う可能性はあると思ってたけど、見事に出会っちゃったね。再会するのがちょっと早すぎるんじゃないかなぁ。
赤い女の子の隣には前回もいた青い女の子と……。
「……ぬいぐるみ?」
そう、ぬいぐるみが浮かんでいた。見た目はデフォルメされた兎のぬいぐるみ。黒い体に金色の目。そこだけ言葉にすると、すごいかわいらしい存在に見える。
でもなんだろう。大きな口とそこから覗く、ギザギザの歯が不気味な雰囲気を醸してる。こういうのが可愛いって言う子もいるのかもしれないけど、少なくとも僕には不気味に見えた。
「あぁ、この子はオクタだよ。妖精なんだ」
僕の視線に気づいたのか、赤い女の子がぬいぐるみを指差して、そう言った。
ようせい……って妖精のこと?
「ぬいぐるみじゃなくて……妖精?」
「そうだね。僕はぬいぐるみなんかじゃないよ」
「うわっ、ぬいぐるみが喋った」
え? その身体の、どこから声出てるの?
「だからぬいぐるみじゃなくて、妖精だよ」
ぬいぐるみ――じゃなくて、妖精らしい存在が手を挙げて訂正してくる。
動いてるっ!
え? 何? 本当に妖精なの?
驚く僕をじっと見ていたぬいぐるみ――もとい妖精が更に口を開いた。
「……ふーん。朝陽からは火傷を負ったって聞いてたけど、そんな大したことは無かったみたいだね。それとも……この短期間で治ったのかな?」
「ほんとだ! あんな酷い火傷だったのに、治ってる。前と同じだ!」
あー、目ざといな。……いや、さすがにあれだけの火傷が無くなってたら目立つか。
赤い女の子にも気づかれちゃったし、ここから誤魔化すのは無理があるかなぁ。
仕方ない、開き直ろうか。
「うん、そうだね。治ったよ」
「どうやって治したの? さすがにあれが勝手に治るわけないよね? 治療の魔法とか使えるの?」
「魔法? ううん、僕はそんな力持ってないよ」
不老不死の力で勝手に治るだけだからね。
ていうかこの子、今魔法って言ったよね。しかも使えて当たり前みたいな感じに。
てことは前使ってた謎の力って、やっぱり魔法なのかな。
凄いや、本物の魔法少女だ。
あ、てことは妖精って、魔法少女の傍にいるマスコット的なやつ?
『僕と契約して、魔法少女になってほしいんだ』
みたいな感じかな?
二百年生きて初めての出会いに少し感動しながら妖精を見てると、その横で赤い女の子が悩ましげな顔をした。
「どうしたの?」
「……いや、何でもない」
何だろう? 変な子だね。
妖精の方も何か黙って僕のことを見てるし、僕の顔に何かついてるのかな?
「――ねぇ、あれってもしかして宝玉に関係してる?」
何かついてるのかと思って顔をこすってると、今度は青い女の子の方が尋ねてきた。
その視線は二宮君の方に向いてる。
あぁ、そう言えば二宮君のことを忘れてた。
と言っても、僕一人じゃ難しいしなぁ。……いいや、この子達に任せちゃお。
「そうだね。あの二宮君の額に宝玉がついてるよ」
「そう。私達が取れば、私達のものでいいのよね?」
青い女の子から凄い睨まれてる。
前回のこと、だいぶ根にもってそうだね。
まあ、仕方ないか。前回は僕も強引だったし。
僕は肩を竦めると、彼女たちに譲るために一歩引いた。
「いいよ。どっちみち僕じゃ難しそうだし」
「え、でもそんなことしたら怒られるんじゃないの?」
赤い女の子が驚いた顔をしてる。
怒られるって何がだろう……あぁ、二宮君から宝玉を回収したら、学校の人が怒らないのかってことかな?
「別にいいんじゃない? バレないだろうし」
そもそも学校の人達は、二宮君に宝玉が隠されてたことすら知らないんじゃないかな。
そう思って、バレないでしょって言ったら、また変な顔をされた。
よく分からないけど、とりあえず情報だけ伝えとこうかな。
「彼、追いかけると走って逃げるから。足早いから頑張って」
「なるほど、今回は宝玉自身が逃げるわけね。オクタ、あさひ、挟み撃ちで捕まえるわよっ」
「分かった。色々話するのにも、まずは宝玉を手に入れてからだね」
「了解、それじゃあ行こうか」
僕の話を聞いて納得したのか、青い女の子が二宮君を見据える。彼女の呼びかけに応えて、赤い女の子と妖精も頷いた。
やる気満々だね。大丈夫とは思うけど、一応注意だけはしとこうかな?
「捕まえた時に、二宮君が暴れる可能性もあるし気をつけてね」
火柱みたいな危険なものもあったし、二宮君を捕まえて終わり、とはならないかもしれない。
だから気を付けてと声をかけたけど、二人の魔法少女が驚いた顔をした。
僕、そんなに変なこと言ったかな?
「ありがと、気をつけるね」
「言われなくても分かってるわよ」
少し間を置いてから赤い女の子は笑ってお礼を言ってくれた。前会った時も体の心配してくれたし、性格は良さそうだね。
青い女の子は捻くれてる感じだなぁ。前の時の態度もそうだし、性格はそんなに良くなさそう。まぁ、僕は気にしないけど。どうせ、深く関わることなんてないし。
ちなみに妖精くんは僕と彼女達が話してる間、じっと僕のことを見ていた。
やっぱ、僕の顔に何かついてるのかな。
そんなことを考えてる間に、二人と一匹……妖精って一匹って数え方で合ってるのかな?
いいや、面倒くさいし人間と同じ数え方にしとこう。
ちょうど近場にあった昇降口の段差になってるところに腰掛けて、三人と二宮君の追いかけっこを見物することにした。
次話は明日の朝に投稿します。




