7 いざゆかん、二個目の宝玉へ
宝玉を回収した翌日の早朝。火傷した腕もすっかり治った僕は再び神社へと訪れ、色々と後始末を行った。
さすがに女の子達の姿も見えず、堂々と行動する。
手品用のワイヤーを回収したり、火柱が立った灯篭の周辺の掃除を行ったり。神主さんに迷惑がかからないように綺麗にした後、廃病院にある研究施設へと向かった。
AIと会話ができるスクリーンが置かれた部屋。そこの椅子に座って、スクリーンに面と向かう。
『おかかー。首尾はどないやったん?』
相変わらずのふざけた喋り方で、AIが声を掛けてくる。
今さらつっこむ気にもならないので、スルーしてポケットから宝玉を取出す。
AIが認識できるのかは分からないけど、一応スクリーンの前にかざしながら言葉を返した。
「回収できたよ」
『そりゃ良かったわ。幸先いいやん。お嬢ちゃんやるねー』
ひゅーひゅーと言ってくるのを無視して、親指と人差し指で摘んだ宝玉をまじまじと観察する。
神社では回収した後さっさと仕舞っちゃったし、その後も何だかんだ後回しにしてたから、ちゃんと見るのは今が初めてだ。
歪みが無い真ん丸な、透明感のある石。ほんのり赤みを帯びている。小さい僕の手で握りしめられるぐらいのサイズだ。
これがあと六個かー。
『はぇー、綺麗な色やねぇ』
残りの宝玉のことを考えていると、AIがまた話しかけてきた。
AIにも見えてるんだね。カメラがどっかにあるのかな?
部屋を掃除してた時にはそれっぽいのは無かったけど……たぶん、僕が見逃しただけだろう。
思い返してみると、最初に僕のことをお嬢ちゃんって呼んでたし、見えてるのは間違いないはずだ。
……まあ、いいか。別に見られて困るものでもないし、カメラ探すのも面倒だし。
「宝玉って全部赤色なのかな?」
『んー。いや、資料に乗ってる写真上では、色は七つ全部違うみたいやで』
AIがそう言った直後、スクリーンがついて一枚の絵が映し出された。
ビー玉みたいなのが7つ。……あぁ、これ宝玉なのかな?
AIの言う通り、全部色が違う。
『色が違うんは、それぞれに属性があるからみたいやね』
「属性?」
『せや。それぞれの色に合わせた属性があるって書いてるわ』
スクリーンが変わって、今度は画面いっぱいに文章が映し出された。
何々……宝玉はその身に七種類の自然の力を蓄える? 蓄えた自然の力が増すほどに、宝玉はそれぞれの自然を色濃く反映した色味を帯びていき、そうして溜めた自然エネルギーを解放することで、願いを叶えることができる、か
なるほどねぇ。
資料の続きを見ると、どうやら赤い宝玉は火の属性らしい。
「そっか。だから火柱に包まれてたんだね」
となると、他の宝玉は別の自然の力を宿しているってことになるから、もう火柱が出てくることは無さそうだね。
『火柱ってどういうことなん?』
……うん?
僕はAIの言葉に、首をかしげた。
「符丁を言った時にどうなるかって知らないの?」
『宝玉が現れるんと違うん?』
「いや、そうなんだけど……」
宝玉が現れた時の状況を分かってない様子だったので、聞いてみたら尋ね返された。
仕方ないので、符丁を唱えたら火柱が立ったことを話す。
結構な勢いで燃え盛ってたことを話したら、AIが驚いた。
『はえー。試してくるってそういうことやってんね。それは大変やってんなぁ』
「知らなかったの?」
『資料には載っとらんかったからね』
「……本当に?」
AIの言葉の真偽を確認すべく改めて資料に目を落として、続きを読んでみる。
……うーん、確かに符丁を唱えると宝玉が現れるとは書いてるけど、どう現れるのかについては記載が無いなぁ。
AIの知識がこの資料を前提としてるなら、知らなくても無理はない、のかな?
『そんな危ない状態からよく回収できたなぁ。怪我とかせんかったんか?』
「ん? うん。まあね。宝玉を狙う人が僕以外にも居てさ。どさくさでその人達から掠め取ってきたんだよ」
『宝玉を狙う人?』
「何か女の子二人組でアイドルみたいな格好した子達でさ。符丁唱えたのもその子達だったんだよ」
『へぇ、そんな子らがおるんか』
「うん、前聞いたこけしをやっつけたのも、その女の子のうちの一人だよ」
『じゃあ強いんやなぁ。そんな子達やったら、火柱なんかどうにでもできそうやね』
ふー、危ない危ない。なんとか誤魔化せたかな?
AIがいくらフレンドリーでも、元はこけしを作ってた組織のものだからね。その組織と僕が居た研究施設が別物かどうか、まだ分かっていない以上は僕が元被検体で不老不死だってことはあまり言いたくない。
咄嗟に、あの女の子達に擦り付けちゃったけど、うまくそっちに興味を持ってくれたみたいで良かった。
「その女の子達、ひけ……この施設で実験受けてた子かなって思ったんだけど」
『いやぁ、どうやろね。前も話したけど、この研究施設の目的は無機物に命を吹き込むことやからねぇ。うちの知る限り生きてる人間相手には実験してなかったからなぁ』
「でも、ここに来るまでの部屋の中に人を拘束するような器具があったよ? ロボット以外に、人間も相手にしてたんじゃない?」
「そうなんや。せやったら、そういう時代もあったんかなぁ。少なくともうちが稼働してた間の話では無いわー」
「ふーん」
なるほど。確かにAIが稼働してない時期に人体実験をしてたなら、知らないってこともあり得るのか。
でも、ロボットに関するデータは残ってて、人体実験に関する記録が残ってないってのもおかしくない?
やっぱり信用できないなぁ、このAIは。
『まあ、なんや。その子達の目的が何かは知らんけど、気をつけた方がええやろね』
「うん、そうだね」
それは同意だ。あの子達が宝玉を集めているのなら、また出くわす可能性は高い。
というか、あの子達が宝玉を既に幾つか手に入れてたとしたら、出くわさないことには宝玉が揃わないことになる。
奪い合いになるのは嫌だなぁ。僕は不老不死なだけで、戦う力なんて持ってないし。あんな謎の魔法みたいな攻撃をしてくる人に勝てる気はしない。
そう考えると、火の宝玉を僕が回収したのは失敗だったかもしれない。
彼女達に先に願いを叶えてもらってから、次の番で譲ってもらうのでも良かったな。
……ん? いや、待てよ。そもそも、宝玉って何個も願いを叶えられるものなのかな?
「ねぇ、宝玉って叶えられる願いは一個だけ?」
『一回で叶えられるのは一個だけやね。で一個叶えたら、次に願いを叶えるまで力を溜めなおさんといかんらしいわ』
「溜めなおすって……どれぐらい?」
『ええと……約五十年やね』
結構長いな。
五十年か……長いけど、それぐらいなら待ってもいいかなぁ。とりあえず今回はあの子達に譲って、先に願いを叶えてもらってから五十年後に僕の願いを叶える。その頃には、あの子達は六十歳は超えてるだろうから、たぶん関わることもない……うん、争奪戦になんかなるより、よっぽどましだね。
今回は譲ることを念頭に置いて、この先行動しよう。
考えがまとまった僕は顔を上げて、AIに話しかけた。
「それじゃあ、次の宝玉の場所を教えてよ」
『おけ、任せてぇな』
◇
――ということで、やってきたのはとある小学校だ。
時刻は夜。先生も全員帰ってるので、門がきっちりと閉まっている。
ここにお邪魔するわけだけど、今回は不法侵入になっちゃうから見つからないように気をつけないとね。
門を通り過ぎて裏手に回る。
学校の警備がどうなってるかは詳しく知らないので、昼間のうちに調べといた。
今は機械警備とかいう、センサーとかで侵入者を感知してるらしい。昔はそんなもの無くて、夜に見回りしてる人とかがいたんだけどなぁ。世の中ハイテクになったもんだね。
幸い、センサーは校舎内にあるのが基本らしいから、今回の目的から考えると引っかかることはないはずだ。
裏手の目立たない路地に入って、フェンスに近づく。
金網製で菱形に織り込まれてるタイプのフェンスだ。
大人だと足が引っ掛けられずに登るのは難しいけど、子供体型の僕なら問題ない。
この程度のフェンス、登るのはわけないのだよっ。
……よいしょ……くっ……ふぅ。
十分ほどフェンスと格闘して、何とか登りきった頂上。フェンスをまたいだ状態で一休みする。
結構、しんどかったな。子供な分、筋力も少ないことを忘れてたよ。
一息ついてから、姿勢を整えてフェンスを飛び降りる。
着地に失敗して足を捻ったけど、数分で治ったので歩き出す。
人に見つからないように、できるだけ物陰を通りながら校舎の中庭に移動する。
少し開けたスペースに花壇とベンチ。そして、その隅に目的とする二宮金次郎の像があった。
AIの話では、これが実はロボットで、宝玉を持ってるらしい。
……いや、何で研究施設のロボットがこんな所で飾られてるのかな? しかも宝玉なんていう、めちゃくちゃ重要そうなものを隠し持って。
力を溜める関係で、宝玉はここに置かないといけなかったって言ってたけど、子供が間違って持ってっちゃったらどうするんだろうね。
……いや、符丁言わないと宝玉自体が現れないから問題無いのかな?
うーん……いや、やっぱり無いな。
名前も知らない、宝玉を造った施設の人達を批評した後、改めて二宮金次郎に向かい合う。
下の土台部分を見ると中村総合病院寄贈と書かれていた。
つまりは宝玉に力を溜める? ために、二宮金次郎に隠して寄贈したってことなんだろう。
研究施設の人達も変なことを考えるもんだ。
「――眠りし宝玉よ。今目覚めて真の姿を表せ」
気を取り直して、符丁を唱える。
全部唱え終わった途端、二宮金次郎に変化が生じた。
全身が少し振動したかと思うと、銅像であるはずの二宮金次郎が突如顔を上げたのだ。
ばっちりと目が合う。
……あ、よくよく見ると額に宝玉が埋まってる。
さっきまでは無かったよね。符丁を唱えたことで姿を現したのかな?
「ええと……こんばんは?」
『――……!』
何となく気まずい空気を感じて、挨拶をした瞬間、二宮金次郎が動き出した。
台座から飛び降りたかと思うと、脱兎のごとく逃げ出し。瞬く間に見えなくなった。
なるほど、今度は動く銅像を捕まえて宝玉を取らないといけないってことか。
……体力勝負はきついなぁ。
次話は明日の朝に投稿します。




