9 見物してるだけなのは楽で良いね
深夜の校庭で、二宮君と魔法少女の女の子達の追いかけっこが始まった。
その様子を僕は昇降口の段差に腰かけて見物していた。
二宮君はやっぱり足が速いなー。
でも魔法少女の二人は負けてない感じだね。僕みたいに離されることは無さそうだ。ただ離されないけど、距離も縮んでないみたいだ。このままだと追いつくのは難しそうだなぁ。
そういや妖精の方はどうしてるのかな……あ、いたいた。大きく回り込むように動いてる。
なるほど、先回りしして挟み込もうって作戦か。
二宮君は魔法少女達から逃げるのに必死で、妖精が回り込んでることには気づいてないみたい。
これはいけるかな?
……おっ、妖精が二宮君の前に飛び出した。凄いな二宮君。元は銅像なのに驚いてる感じが伝わってくる。
たぶん、二宮君にとっては妖精が突然目の前に現れたように見えたんだと思う。走る勢いが目に見えて落ちた。その隙を逃さずに赤い方の女の子が二宮君へと飛びついた。
あ、二宮君すっごい暴れてる。
元々が銅像で体が硬いから痛そうだなぁ。
でも、前回みたいに火に包まれてる訳ではないから、これならあの子たちでもいけそうかな?
今や青い女の子と妖精も加わって、三対一で宝玉の取り合いが行われてる。
気にしてた、二宮君の行動パターンが変わるっていうのはなさそうだ。
こうなったら、後は時間の問題だろうね。
よし、問題なさそうだし帰ろう。
僕は立ち上がると、最初に忍び込んだフェンスの所に向かうべく中庭の方へと身体を向けた。
――直後、目の前に影が降ってきた。
月明かりに照らされた夜の校庭でも、はっきりと分かるような真っ暗な影。それが円形に大きくなったかと思うと、大きな巨体が目の前に着地する。同時に軽く地面が揺れた。
何事かと見上げていくと、緑色に光る眼が僕を見下ろしていた。
これは……もしかしなくても廃施設のロボットかな?
「えーと……こんばんは?」
挨拶をした瞬間に腕が伸びてきた。
体をがっちりと握られて拘束された。
うーん、挨拶はお気に召さなかったようだ。
……って、そんなこと言ってる場合じゃないか。
「ちょっ、あんた。大丈夫!?」
「ロボット!」
背後から、声が聞こえる。あの二人もロボットがきたことに気づいたみたいだ。
さぁどうしようかと思った直後、僕の上空を何かが覆った。
上を見上げる。
青い女の子が、軽快な動きで僕を飛び越え――そのままロボットへと蹴りをぶち込んだ。
体勢を崩すロボット。その拍子に僕を拘束されていた手が緩み、空中へと放り出される。
浮遊感は一瞬で、すぐに何かに体を掴まれて引っ張られた。
「――君、大丈夫!」
「あ、うん何も見てないから大丈夫だよ」
「え、何が?」
助けてくれたのは赤い女の子だった。
思わず変なことを言ってしまった。
大丈夫、暗くて本当に何も見えてないから。
「何でもないよ――」
ごまかそうとしてると、轟音が響いた。
何事かと見ると、青い魔法少女が身の丈はありそうなハンマーをロボットに向けて叩き付けたところだった。
ロボットは軽くよろめいた後、地面に倒れそのまま動かなくなった。
殴られた箇所が陥没してるところを見るに、女の子とは思えない威力が出てたんじゃないかと思う。
えぇ……力強すぎない……?
「まぁ、こんなもんね。……あんた、大丈夫?」
「うん、大丈夫。ええと、二人ともありがとう?」
「どういたしまして!」
控えめにお礼を言うと、赤い女の子が元気に応えてきた。
顔が凄くニコニコしてる。
これあれだ、このまま会話する流れのやつだ。
どうしよう。この子達とあんまり関わる気は無いし、このまま帰りたいんだけどな……。
でも助けられといて、それじゃって帰るのもなぁ。
……まあ、いいか。少し話して、それで解散させてもらおう。
「ね、私は下村朝陽」
案の定、赤い女の子が話しかけてきた。
うーん、眩しい笑顔だ。裏表無さそうだなぁ。
あさひ、がどういう漢字を書くか分からないけど、たぶん明るそうな字だよね。名は体を表す、て言うけど、その通りかもしれない。
「そんでもって、もう一人居た青い服の女の子が藤堂渚。ちょっと無愛想だけど、真面目だし悪い奴じゃないよ!」
「誰が無愛想よ」
あ、仲間内でも無愛想って認識なんだ。真面目かどうかは知らないけど、ちょっとヒステリック気味な感じはあるよね。
名前はなぎさ、かぁ。
なぎさって穏やかなイメージがあるけど、この子は名前負けしてるかもしれない。
「で、さっきも言ったけど妖精の子はオクタだよ。……それで、君は何ていうの??」
下村さんが僕の目を見ながら尋ねてきた。
すっごい目がキラキラしてる。
「えーと、葉月です」
言わないといけない雰囲気なので、とりあえず名乗る。
もちろん偽名だ。
僕は研究施設生まれの被検体八号だからね。当然、名前なんて無い。
とはいえ研究施設から脱走した後、二百年も生きてるからね。その間に名乗ってきた名前が、葉月なのだ。
「葉月ちゃんだね。よろしくね!」
「あ、うん。よろしく……」
言いながら笑顔全開の下村さん。圧が強いな。
ていうか、今葉月『ちゃん』って言ったよね?
二百歳近く歳下の女の子に、ちゃんづけされる日が来るとは……。
あれ? でも、『おばあちゃん』とかでもちゃん呼びだよね。別におかしくないのか?
「それで、葉月ちゃんは何で宝玉を集めてるの?」
『ちゃん』呼びの是非について考えていると、更に下村さんが尋ねてきた。
さてはこの子、コミュ力高い子だな。
めんどくさいなぁ。僕はそんなに関わるつもりないし、帰ってお風呂入りたいんだけどな。
まあ仕方ない、付き合うか。今回は宝玉を譲るから、五十年後は譲ってねって話もできるかもしれない。
「えっと――」
「話が弾んでるところ申し訳ない」
いざ答えようとしたところで、今度は妖精――オクタが声をかけてきて出鼻をくじかれた。
「あ、ごめん途中で任せちゃって。宝玉ってどうなった?」
「それはまあ、回収できたんだけどね」
下村さんが忘れてたとばかりに慌ててオクタへ尋ねる。
対してオクタは歯切れの悪い言い回しで答えた。
そうしてオクタが指の無い手で示した方向、その先。そこには二宮君が立っていたのだけど。
それを見ただけで、オクタが何を言いたかったのかを理解した。
「あーそっか。そうなるのかぁ」
「うわぁ」
突っ立っているのは、ただの二宮金次郎像だ。宝玉を取られて元の銅像に戻ったのか、微動だにしていない。
ただ、そのポーズが変だった。
宝玉を取られまいと暴れた時の格好のままなのだ。
近づいて触ってみる。硬いし、動かない。
二宮君はやっぱり完全に銅像に戻っているみたいだ。
……これはもう元には戻せないな。
「これは……どうしようもなくない?」
下村さんが素直な感想を言った。
うん、僕もそう思う。
「あんたは何か知らないの?」
藤堂さんが僕に向かって聞いてきたけど、そんなの知らないので首を横に振る。
「……このまま戻すしかないんじゃないかな?」
四人で視線を交わし合う。小さく頷き合うと、協力して、その姿勢のまま、こっそりと中庭の台座に戻した。
翌日、二宮君の姿勢が変わってしまったことがちょっとした騒ぎになって、学校の七不思議になったのはまた別のお話だ。
次話は明日の朝に投稿します。




