10 四者面談開催
銅像に戻った二宮君を台座に戻した後、僕達は学校を後にした。
下村さんから話し合おうと誘いを受けて翌日また会うことになり、その晩はそのまま解散。
翌日、朝から銭湯に行きお湯にゆっくり浸かって疲れを癒した僕は、その後もだらだらと過ごした。
お昼も過ぎて、約束の時間まであと少しになってくると、億劫な気持ちが強くなってきた。
正直なところ、彼女達とはあまり関わりたくない。
だけど宝玉についての話はしないといけないしなぁ。
仕方ないので、僕は重たい体を引きずって約束の場所に向かった。
えーと、中学校の近くのタコ公園って言ってたけど……あれかな?
真っ赤なタコさんの遊具が中心に据えてある公園に入る。下村さんはまだ来てないみたいだ。近所の小学生と思われる少年達がサッカーをして遊んでるぐらいだ。
階段になっているタコさんの口のところに腰を降ろして、僕は下村さんを待った。
ぼーっと少年達のサッカーを眺めてると、視界の端に二人の女の子がやってくるのが見えた。
中学生かな? 学校の制服を着てる。
二人並んで、僕の方へと向かってくる。何だろう、タコさんの遊具で遊ぶつもりなのかな? だとしたら、どいた方が良いかも。
「葉月ちゃん、お待たせ」
遊具を譲ろうと腰を上げたところで、二人組の一人――髪が肩ぐらいで切り揃えられた元気そうな子に声をかけられた。
僕の名前を知ってる……あ、下村さんか。てことは、もう一人は藤堂さんかな。
二人ともいつものアイドル衣装じゃないし、下村さんは髪を編み込んでもいない。藤堂さんは藤堂さんで、ハーフアップじゃなくて全部下ろしてる。
服装と髪型がいつもと同じじゃないから気付かなかった。
若い人の顔を認識するのは難しいね。
「どうしたの?」
じっと見てたからか、尋ねられた。顔を覚えてなかったからじっくり見てました、なんて正直に答えたら……良くないよね。
適当に誤魔化そうかな。
「今日はアイドル衣装じゃないの?」
「アイドル衣装? ……あぁ、魔法使う時の服だね。あれは変身した時だけだよ」
へぇ、変身とかあるんだ。
妖精に魔法ときて、変身かぁ。昨日も思ったけど、日曜朝のアニメ感が凄いね。
「葉月ちゃんだってそういうのは無いの?」
「そういうの?」
「ほらっ、変身したり。魔法を使ったりって」
「あはは。僕にはそんなの無理だよ」
笑って否定したら、何か複雑そうな顔をされた。
もしかして、バカにされてるって思われちゃったかな? そんなつもりはないんだけど。
どうしよう、この子案外ナイーブな子かもしれない。
「あさひ、早く行こう」
「あ、うん。それじゃあ、落ち着いて話せるとこに行こ」
何かを言いかけた下村さんだったけど、藤堂さんが無理やり話題を変えた。
何か気まずかったから助かった。でも移動するのかぁ。まぁ確かに宝玉のことを、こんな公園で話して誰かに聞かれてもマズイか。
落ち着いて話せるとこってどこだろう。話すのは周りに聞かれないようにしないといけない内容だろうから、人目のあるところじゃないよね?
もしかしたら、彼女達のアジトとかに連れていかれるかもしれない。
そういや、妖精君が居ないね。あの姿は目立つし、日中は目立たないようにアジトにいるんだとしたら、やっぱり連れて行かれるのはそこかもしれない。
うーん、ついていっても大丈夫なのかなぁ。
下村さんは友好的な感じがするし、大丈夫そうだけど……藤堂さんからは嫌われてそうだしなぁ。アジトに連れていって話し合いという名の脅迫や暴力を受けたり、とかしないよね?
藤堂さんをちらっと見ると、目が合った。
「何?」
「いや、ついていったら何かされるのかなって」
「私が? しないわよ、そんなこと」
驚いた表情を浮かべてる。心外だと言わんばかりだ。
「私がそういうことをするように見えるの?」
「……」
「そう見えるってさ!」
「はあ? そんなこと、この子は言ってないでしょ!」
黙り込んだ僕の横で、下村さんが笑いながら言う。
いや、なんで僕の考えが分かったのかな?
「冗談だよ。……葉月ちゃん、見た目は怖いかもしれないけど、渚は変なことするような人じゃないから安心して」
「見た目は怖いって何?」
「あぁ、うん。大丈夫だよ、藤堂さんのこと怖いとは思ってないから」
下村さんがふざけてるから、藤堂さんの目つきがさっきから凄いことになってる。
何で僕が気を遣ってるんだろう。
「もう。さっさといくわよ」
「あ、待ってよ。葉月ちゃん、行こ!」
そんなやり取りの後、二人が歩き出した。
えーと、僕まだ行くって言ってないんだけど。
……まあ、仕方ないか。ついていって脅迫されたら、その時はその時だ。
僕は立ち上がると、彼女達の後を追った。
三人で向かった先、辿り着いたのは一軒家だった。
表札を見ると『下村』と書いてある。
……これ、下村さんの自宅だね。ここが彼女達のアジトってこと?
なんか、想像してたのとは違うんだけど。
「ただいまー」
「お邪魔します」
「……えと、お邪魔します」
下村さん、藤堂さんと続き、その後から入る。
人の家にお邪魔するとか久しぶりだ。
玄関に立って様子を窺う。傘立てや姿見といった、どこの家でもありそうな物が置かれている。下駄箱の上にはよく分からない置物や写真が飾ってあった。
……うん、普通の家だね。
実は秘密の地下室があって、そこがアジトになってる。とかって可能性も無くは無いけど、何となく違う気がする。
下駄箱の上の写真を見ると、下村さんの家族と思われる人達が写っていた。たぶん、中心で笑ってる小さい子供が下村さん。その両隣に写ってるのがご両親かな? どこか、旅行に行った時に撮ったものみたいだ。
こういうところも普通の家っぽい。
「ご両親は?」
「お父さんは仕事。お母さんは買い物行ってるみたい」
藤堂さんの問いかけに、スマホを見ながら下村さんが答えた。
そのまま二人とも二階に上がっていく。仕方なくついていき二人に続いて、とある部屋に入った。
たぶん、下村さんの部屋なんだろう。
いかにも女の子の部屋、って感じの部屋だった。
水色を基調として、柄やデザインも相まって可愛いらしくまとまった部屋。
お洒落とかよく分からないけど、なんか可愛いってのは分かる。色使いとか、小物のデザインとかがいいのかな?
ただ、その中で一点。ベッドの上に置かれたぬいぐるみ――いや、妖精だけが異彩を放ってた。
確か……オクタだっけ?
大きな口にギザギザの歯。そして、まん丸い目。全身が黒いのに、目や口は真っ赤で、明るい所で見てもちょっと不気味だ。
妖精って、もっと可愛いもんだと思ってたけど違うんだね。
「やあ、おかえり。渚はこんにちは」
「ただいまー」
「こんにちは、オクタ」
オクタが下村さん達に話しかけて、短く言葉を交わした後。僕へと顔を向けた。
「昨日ぶりだね。葉月さん」
「そうだね、こんにちは」
凄いジッと見てくる。無表情だし、何を考えてるのか分からない。
少しの間の後、オクタがまた口を開いた。
「改めてお互いに自己紹介しよう。僕はオクタ。妖精だよ。二人とは契約関係にある」
「あ、うん。よろしくね。……って、契約?」
「僕の目的を手伝ってもらう代わりに、力を授けてるんだよ」
うわっ、やっぱりあの契約だ。アニメの世界のできごとだ。
そこから更にオクタが説明してくれた。
どうやら目的は平和な世界を作ることらしい。
前に見たロボットは、放置すると街を破壊する。だから、そうさせないために戦ってるんだとか。
それで宝玉についても、平和な世界を作るために集めてるらしい。
平和な世界って何だろうね。まあ僕には関係ないし、どうでもいいけど。
で、対価として授けてる力ってのが魔法。詳しいことは教えてくれなかったけど、魔法にも色々と種類があってオクタはそれが制限なく使えるらしい。その魔法の一部を下村さん達も使えるようになるよ、って感じみたいだ。
平和な世界を作るって結構大変だと思うけど、下村さん達はこんな対価でいいのかな。
いや……うん。本人達が納得してるならいいんだけどさ。なんかやりがい搾取されてない?
そしてオクタは、普段は下村さんの家で一緒に暮らしてるらしい。
「私は下村朝陽。オクタと契約して手伝ってるんだよ!」
続いて下村さんだ。相変わらず元気いっぱいだね。
彼女は十四歳で、中学二年生らしい。
この前戦ってたこけしロボット。あれと同類のロボットに襲われた時に、オクタと出会い契約を交わしたらしい。
それからオクタと一緒にロボットと戦ってるんだと言った。
「藤堂渚。藤の花の藤に、お堂の堂って書いて藤堂ね」
最後は藤堂さん。下村さんとは対照的にクールな感じだ。これまでの感じから察するに性格はキツそうだ。
この子もやっぱりロボットに襲われたところにオクタと出会って、契約したらしい。
なんでも秩序を乱すものが許せないタチなんだとか。
下村さんが言ってた通り、真面目なんだね。
にしても、二人とも巻き込まれて契約したって感じなのか。
でもロボットを作ってたあの施設は放棄されてたのに、ロボットってそんなに暴れてるものなのかな?
それとも僕が見つけたところとは別な所に、新しい施設でもあるとか?
うーん、しっくりこないなぁ。
「次は君の番だよ、葉月さん」
あれこれと考えていると、そんな言葉が飛んできた。
あ、やっぱり僕も言わなきゃ駄目?
仕方ないか。
「えーと、葉月です」
名前を言って口を閉じると、沈黙が訪れた。
皆が静かに僕の言葉を待ってて、少したじろぐ。
いや、名前以外に話せることないんだけどなぁ。
そんなキラキラした目でこっちを見ないでよ、下村さん。
「え~……その……何か質問ある?」
「君の目的は?」
耐え切れなくて、自分から聞いてしまったのだけど、間髪入れずにオクタが尋ねてきた。
たぶん、元々聞くつもりだったんだろうね。
「目的ってのは何について?」
「君は宝玉を集めてるんだよね? その目的は?」
「そりゃ、叶えたい願いがあるからだね」
「それは僕らに話せる内容かな?」
「うーん、ごめん。言えない」
願いの内容を話すのは、不老不死であることを伝えるのと同義だ。それは言えない。
「それは、君の怪我や火傷が治ったことと関係ある?」
続けて問われた内容に、思わず反応しそうになった。
なかなか鋭い質問だ。
どうしよう、質問の答えとしては関係あるんだけど……あるって答えて、そこから不老不死ってバレるのも困るしな。
かと言って、噓を言うのもなぁ。うーん、ここは濁しとこうかな。
「関係あると言えば、あるかなぁ」
「なるほど、答えにくいんだね。じゃあ、質問を変えるよ。君には仲間はいるの?」
あ、何か察したみたいだ。そりゃそうか。
でも、追及してくるわけじゃないんだね。助かるや。
「ううん、仲間はいないよ」
「じゃあ、どうやって宝玉のことを知ったんだい?」
「教えてもらったんだよ」
「誰に?」
AIにだよって言いかけて、やめた。
AIは、この子達が戦ってるロボットを作ってた施設のものだ。AIのことを伝えちゃったら、破壊しに行こうってならないかな?
別にAIに対して思い入れは無いけど、色々と有用な情報は持ってるからなぁ。壊されるとちょっと困るかも……。
「ええと、変な喋り方してて……胡散臭い感じのやつかな」
結果、AIだとは言わずに特徴だけ伝えることにした。
それにしてもAIの特徴、字面にするとヤバいね。
「胡散臭い……大丈夫なの? そいつ」
「そんな奴の話を信じて宝玉を探してたの? あなた、騙されてない?」
「あー、そうだね。理由は言えないけど、言ってることは信じられるんだ」
案の定、下村さんと藤堂さんには疑われてる。まあ、僕の説明だけ聞くとそういう反応になるよね。
信じられると伝えると、二人ともそれ以上は言葉にしなかった。
「その、胡散臭いやつってのは僕と同じような存在なのかな?」
「同じようなってことは、妖精ってことだよね? 妖精ではないと思うよ」
「じゃあ、人間なのかい?」
「人間でもないね」
「ふむ。君はそいつの正体が分かっているのかな?」
「うーん。正体……と言われると困るかな」
僕にもよく分からないや、と続ける。AIに繋がることは言いたくないので、適当に誤魔化した形だ。
それを聞いてオクタが考えこむ姿勢を見せた。
これはまだまだ質問が続きそうだね。
次話は明日の朝に投稿します。




