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死ねない少女は生き直したい~二百年生きた手品師、魔法少女に巻き込まれて平和を守る~  作者: 柚月由貴
三章

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幕間2 つかの間の凪

 技研の施設、その一角。そこはフリースペースになっており、一人で集中して仕事に取り組む者や、打合せを行う者達が利用する場となっていた。

 ヴィクターもまた、その部屋の隅に置かれた机の一つを利用中であった。

 彼が広げるパソコンの画面に映しだされているのは、技研が擁する人型兵器の一覧。

 葉月達の依頼により、さきの記憶メモリーを積めるような手頃な素体が無いかを探しているところだ。


 正直なところ、葉月達のためにそこまでする義理もないのだが、こういった所で貸しを作っておくことで、将来葉月達を観察する際に役に立つかもしれない。そういった打算もあって、ヴィクターは動いていた。


 画面をスクロールしながら、様々な種類の素体を物色するヴィクター。

 さきと同型のロボット。成人型のロボット。男性型のロボット……は批判を受けるであろうか。

 なるべく批判を受け無さそうなものを選びたいが、とはいえ人型兵器は技研の兵器の中でも特殊だ。

 どうやって利用するか。

 最新型をバレずに持ち出すのは不可能だろう。廃棄予定の(ふる)い型ならいけるだろうか。


 そう思い、シリーズとしては既に生産を終了している、幼児型のロボットについて記載されたページを開く。


「――へぇー。ヴィクターって、そういうのが趣味なんだ」


 突然、背後から声をかけられ、ヴィクターは振り向いた。


「意外だね」


 そう話しかけてきたのは実働部隊の一人、アキだった。

 ヴィクターは部屋の隅で壁を背にしてモニターを見ていた。背後に回るにはどうしても視界に入らねばならないはずである。

 どうやって背後に忍び寄ったか……はこの女に対しては愚問であることをヴィクターは理解していた。


「……馬鹿言うな。この前の稲葉が持ち出したロボットについて調べていただけだ」


 先程のアキの言葉に返して、画面をスワイプする。

 そこに映し出されたのはさきと同じ型式のロボットだった。

 それを見て、合点がいったようにアキは頷いた。


「あぁ、そっか。壊されちゃってたけど、人型もあったんだよね」

「あぁ、人型については新型の試作機だったからな。データはある程度回収できたものの……壊されて、総代も怒ってるよ」

「うへぇ、それは想像したくないなぁ」


 総代が怒ってる様子を想像したのか、首を竦めるアキ。


「……稲葉だっけ? そいつが持ち出してたロボットって四台なの?」

「あぁ、そうだ」


 元々は技研も統制局も協力し合っていた。

 そのため統制局側からの要請があれば、ロボットや兵器の貸出は何の不都合もなく行われていた。


 神前迅によって処罰された稲葉慎二も、AIの実験のためという名目で四台のロボットを技研から借り受けていたのであった。

 一台はカエル型。これはパルチザンによって破壊されたものと推測されている。

 一台はゲジゲジのようなロボット。こちらも何者かによって破壊されている。実際には下村朝陽と葉月によるものだが、技研ではカエル型と同じく、パルチザンが破壊したと推測していた。

 そして一台は人型の試作機。理由は不明だが、稲葉自身によって破壊されたことが分かっている。


 最後の一台については、未だに見つかっていない状態であった。破壊されたわけではなさそうなことから、統制局が所有していると技研は推測していた。


「見つかってないやつも、新型だったりするの?」


 アキからの問いかけにヴィクターが答えようとした時だった。


「――いや、見つかってないのは旧式らしいよ」


 横から、言葉を挟んできた者がいた。

 見ると二人の男がヴィクター達の傍にやってきていた。

 一人は神前迅。ヴィクターの相棒である。

 もう一人の男は先日、アキと一緒に稲葉のアジトを調べていた男で――名を桜庭茂といった。


「……で、合ってるよな?」


 茂がヴィクターへと視線を向けて、問いかける。


「あぁ、旧式だが……いちおう人型でな。うちは統制局に対して返還を求めてるよ」


 ヴィクターが言う通り、技研は統制局に対して、残ったロボットの返却を要求している。

 しかし、統制局側は稲葉が扱ってたので所在不明であるとシラを切っている状況であった。


「統制局は相変わらず、関与を否定してるの?」

「あぁ、あくまでも稲葉が単独でやったものと言ってる」


 一連の事件は稲葉の暴走によるもので、統制局は関与してないというていだ。


「でも、茂が発見した情報で詰めれそうなんでしょ?」


 アキが主張しているのは稲葉のアジトで見つけた情報。

 それは統制局が抱える重要な秘密に関わるものであり、技研側は情報を整理しているところであった。


 アキの言葉に、茂が頷いた。


「あぁ……だいぶヤバい情報だったしな。総代会議で告発するんじゃねぇかな」

「総代会議で告発って……そこまでやべぇのか?」


 茂の言葉が気になった迅が尋ねる。

 その問いかけを受けて、茂は自身が見つけたものを説明した。


「……て感じでよ」

「そいつぁー、なかなかに大胆だな」


 迅が口笛を吹いた。


「それを統制局全体が推進してるとなったら……技研だけじゃなくて、本家が動くんじゃないか?」

「だからこその全体会議なんじゃねーかな」

「でもさぁ、あの人達って最近大人しいって聞かない?」


 迅に茂、アキの三人が口々に話す。

 

「大人しいつっても、さすがに何かしらの処罰はくだすと思うけどな」

「処罰って?」

「そりゃ……普通に考えたら、統制局の関与してる人全員、粛清とかじゃね?」


 茂の言葉に、アキが納得いってない表情を見せた。

 そして、それまで黙っていたヴィクターへと顔を向ける。


「ヴィクターはどう思う?」


 問われたヴィクターは、顎に手を当てて考える姿勢を見せた。


「……そうだな。大筋は茂の考えた方向に進むのだろうが……」


 そこで言葉を切り暫し沈黙すると、ヴィクターは顔を上げて、三人を見た。

 

「迅、茂、アキ。これから暫くの間は、どんな時でも兵器を携行しろ」

「は?」

「何?」

「どゆこと?」


 そこから投げられた想定外の言葉に、それぞれが声をあげる。

 そんな三人にヴィクターが言葉を重ねた。


「統制局からしたら、悪巧みがバレたことも想定するはずだ。何らかの処罰を回避する手も用意してくるはずだ」

「……お咎めなしになるかもってことか?」


 迅の問いにヴィクターが頷く。


「あぁ、そしてあいつらが無罪となった場合……最悪の場合、報復行為に出てくる可能性も想定しておいた方が良い」

「ちょっ、そんなん全面戦争になるじゃねーか。それはありえねーだろ!」


 ヴィクターの言葉に茂が慌てた姿勢を見せた。

 それもそうだろう。組織の身内同士で戦争したことなど、これまで一度も無いのだ。

 そんなことが起こるなど、彼には想像もできなかった。


「もちろん、そうなる可能性は低い。ただ、可能性がゼロじゃない以上は……備えるべきだ」


 無論、その可能性が低いということはヴィクターも理解していた。

 ゆえに、あくまで警戒するだけだと語る。


 差し迫った話ではないということに、三人の雰囲気が和らいだ。


「……ふーん。もしそうなったら、茂くんは真っ先に死んじゃうね」


 気の抜けた表情で、アキが何の気なしに呟く。

 その言葉に、茂が目を剥いた。


「おい、何言ってんだよ」

「だって、うちらの中で一番弱いじゃん」

「いや、そーだけどさ……それが分かってるなら、守ってくれよ」

「えー。私がぁ?」

「いや、何で不満なんだよ」


 アキのやる気のなさに茂がぼやいた。

 その不満そうな姿を見て、アキが笑いながら茂の肩を叩く。 


「仕方ないなー。じゃあ後でパフェ奢ってね」

「……マジかよ」


 仲間の、あんまりな言葉に肩を落とす茂。

 その様子を見ていた迅が、口を開いた。


「パフェ一個で守ってもらえるならお得じゃん」

「そだよ。感謝しなよ」

「だーもー、分かったよ。ありがとーございます」

「感謝の気持ちがこもってなーい」


 わいわいと三人が話す。

 ヴィクターは唯一人、その会話に混ざらずに眺めていた。


 その様子に気づいた茂が、思い出したようにヴィクターへと告げた。


「そうだったわ。ヴィクター、貸し一つだからな」

「何がだ?」


 茂の発言が全く理解できず、尋ね返すヴィクター。


「いやさ。俺、お前の代わりに稲葉のアジト、調べたじゃん?」

「その命令を出したのは総代のはずだが?」

「お前が調べきってなかったからだろ」


 実際ヴィクターは、稲葉のパソコンを調べた際、葉月達の痕跡を消すことしかしていない。

 その後、壊れたさきからデータを抜き出すことを総代に伝えたところ、稲葉のアジトの調査は茂に任せるからデータの回収に専念するよう指令が入ったのだ。


 ヴィクターとしても総代からの指示に従っただけであり、それを借りというにはあまりに理不尽ではあった。

 が、わざわざ言い返すのも面倒だと感じたヴィクターは、少し考えた後に、茂へと言葉を返した。


「そうか……ならこの前、報告書を作るのを手伝った件の借りと相殺しといてくれ」

「いや、それとはかかってる労力が全然違うだろ!」

「労力か……では、それに加えて以前、事務職員に彼氏が居るかどうかを――」

「わー、わー、ちょっと待て。それは言うな!」


 ヴィクターから飛び出てきた言葉に、慌てて止めようとする茂。

 しかし時既に遅く、アキが食いついた。


「え、何それ? 茂くん、狙ってる子いるの!?」


 楽しそうに茂へと問いかける。

 誤魔化したところで諦めることはないアキの性格を知っているがゆえに、茂は舌打ちしながらもそっぽを向いて答えた。


「狙ってなんて……ねーよ」

「いや、そんなはず無いでしょ。……もしかして、もう振られちゃったとか?」

「ぐっ」

「そっかー、どんまい。まぁ、次があるよ」


 直接的な言葉に項垂れる茂。

 その様子を見てアキが笑った。


 二人のやり取りを見ていた、迅が不思議そうな顔をした。


「けどよ、そんなこと何でヴィクターに頼むんだ?」


 そのまま口をついて出た疑問に、アキも頷く。

 

「ねっ。私に聞いてくれたら、しっかり調べてあげるのに」

「いや、お前に頼んでも馬鹿にしてくるだけだろ……」

「えー、そんなことないよ」


 失礼しちゃうなー。

 そう言って頬を膨らませるアキに、茂はため息を吐いた。


「……はぁ。こいつは顔は良いだろ? そのくせ女に興味がない。……そういう所もムカつくんだが……まあ、そんな訳で調べてもらうのに都合が良いんだよ」


 そう説明すると、アキが納得したように頷いた。


「あぁ、まあ迅には任せられないよね」

「いやいや、俺もさすがに知り合いが狙ってる女は狙わねーって」


 思わぬ飛び火に、腕をブンブンと振る迅。


「どーだか」

「迅は女の敵だからね」

「迅、それは無理がある」


 ヴィクターも加わり、一斉に非難され。

 自身の人望の無さに天を仰ぐ迅だった。

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